多くのDX担当者は成功の鍵として、真っ先に経営者の理解を挙げる。伊勢志摩が拠点の企業グループを統括するIXホールディングスも同様だ。浜田吉司社長の理解の下、社内情報伝達の活発化とコスト削減に着目し、デジタルエコシステムの確立をビジョンに掲げDXを推進。その結果、同社は「DXセレクション2024」優良事例に選定された。
DX成功の鍵は経営者の理解
IXホールディングスでDX推進をけん引した執行役員グループCIOの神山大輔さんは大手総合電機メーカーや外資系ソフトウエア会社勤務という経歴を持つ。神山さんが同社へUターン転職した2019年4月の時点では、「情報システム部がなく、傘下の8事業会社でバラバラのシステムが稼働していた」と言う。神山さんは浜田吉司社長から、「社内に情報システム部を構えて各社のシステムに横串を通して統一する」というミッションを与えられた。それはヒット商品「おにぎりせんべい」を製造する中核事業会社のマスヤで実績を積み、グループ8社に横展開していく任務だった。
最初にコミュニケーション基盤づくりから着手した。Eメールで行っていた社内のやりとりを、リアルタイムのメッセージングやファイル共有もできるアプリのSlackに移行。次にZoomPhoneを導入した。リモートツール・Zoomの利便性が高まり、クラウドPBX(インターネット電話回線)でコスパを追求した。
Slackに関してはメッセージを既読したことが相手に伝わらない。そのため従業員は“上司に見られている感”が薄くなり「心理的安全性」が保たれ、忌憚(きたん)のないやりとりを行えるようになった。一方で社長は“ちょい見”して現場のリアルな状況を把握できる。おかげで部下は短時間で濃い業務内容の報告が可能となった。
マスヤの生産現場が作成する日報は、Excelデータから自動で電子帳票が作成できるi-Reporterに置き換え、直接データベースに格納する仕組みをつくった。「それまでは手書きの100~150枚の生産情報を数人で電子化していたため時間がかかり、文字が読めない、打ち間違いがあるという課題があったのですが、この導入により大幅な生産性向上につながりました」と神山さん。
サーバーはクラウド化し、ソフトウエアもSaaS(Software as a Service)に限定し、社内の情報はクラウド上で共有できるようにした。既製品だけに業務とシステムの間に多少の齟齬(そご)が生じることがあるが、その場合は業務をシステムに合わせていくことを基本姿勢とした。
推進に不可欠なビジョンと戦略を策定
神山さんは、やみくもにDXツールを導入したわけではない。経営ビジョン「持続可能な未来を創造する、統合的なデジタルエコシステム」を定めた。デジタルエコシステムとは、企業や組織間でつながるネットワークで、コスト面や効率的な対応に有効だ。
また、ビジョンを策定した上で、DX推進の戦略として ①連携戦略のオープンイノベーション ②バックオフィスに関わるシェアードサービス ③従業員のデジタルリテラシー向上―を掲げた。
①は、自分たちの力だけに頼るのは非効率的で限界があるので、地域の他社とも連携して、一緒に成長することを目指す ②は、グループ内のバックオフィス機能を統合して効率的な業務運営とコスト削減を実現し、各社の人材はコアビジネスに投入して生産性を向上させる ③は、従業員全員がデジタル技術を理解し活用する能力を高め、DXを滞りなく推進することが目的だ。
マスヤは2023年、最先端の映像解析AIプラットフォーム「SCORER」を開発したITベンチャー企業・フューチャースタンダードへ出資した。その技術と現場改善の知見を掛け合わせるコラボ事業を確立し、製造工程の課題解決を目指す。まさに①の実例である。また、この取り組みやノウハウをまとめ、「マスヤメソッド」として知的財産化した。これを社外秘とせず、全国の中小製造業向けに提供してデジタルエコシステム実現に力を尽くす。
神山さん率いる情報システム部は、10月1日、IXデジタルとして独立した。社長に就任した神山さんはより広い視野で「マスヤメソッド」やDXのノウハウを他社に提供していく。中小企業のDX推進に、力強い援軍が現れた。
わが社のDX推進成功のポイント
課題
・社内コミュニケーションがEメールなどで行われていて閲覧性が低く、情報共有機能が弱かった。
・百数十枚の手書きの日報を、電子化する手間がかかっていた。紙の帳票の保管場所が必要な上、情報の検索が難しかった。
DX推進のための工夫
・現場のコミュニケーション活発化のためにSlackを導入。コストを下げるためにZoomPhoneを導入した。
・日報は、Excelデータから自動で電子帳票が作成できるi-Reporterに置き換え、直接データベースに格納する仕組みをつくった。
成果
・以前よりも忌憚のない、活発なコミュニケーションが可能になった。
・経営者やリーダーが現場の状況をリアルタイムで把握できるようになった。
会社データ
社 名 : IXホールディングス株式会社
所在地 : 三重県伊勢市小俣町相合1306
電 話 : 0596-22-0297
代表者 : 浜田吉司 代表取締役社長
従業員 : 21人(持株会社のみ)
【伊勢商工会議所】
※月刊石垣2024年11月号に掲載された記事です。
最新号を紙面で読める!