生まれ育った長崎県諫早市に、塚原史人さんがUターンしたのは30歳のとき。働く意義や子育て環境を考慮し、義父が営む工務店「ムラヤマ」に入社した。いきなり社長職に就いたのではなく、新人として社内外の関係性や実績を積み上げていった。先代の掲げた経営理念を引き継ぎ、地域貢献活動で暮らしと未来をつくり続ける。
働く意味を自問自答し子育て環境を考えて帰郷
事業承継では、Uターンして家業を継ぐケースが少なくない。だが、ムラヤマの二代目で代表取締役社長の塚原史人さんが継いだのは、妻の父である村山保征さんが経営する工務店「ムラヤマ」だ。拠点は長崎県諫早市。塚原さんの出身地だが、やりたいことを求め地元を飛び出している。 「高校の先生に勧められたパイロット専門機関を目指し、狭き門の航空学生になりました。しかし入隊後すぐ、目の検査で不合格になって、それから進学も就職も定まらず、フリーターとして職を転々としました」と振り返る。
高収入の職に就いても続かず、好きなことを仕事にしようと一念発起して上京。インテリアデザインの専門学校に入り、都内の建築事務所に就職した。インテリアデザイナーとして入社した塚原さんは、現場の施工管理を任されるまでに成長し、若い女性に人気がある海外ファッションブランド青山店の店舗デザインを手掛けるほどキャリアを積んだ。だが、次第に疑問を抱くようになる。 「商業建築、とりわけ店舗はどんなにお客さまに評価をいただけても、平均3年で改装、改修されてしまいます。もっと長く大切にしてくれる空間づくり、家づくりに興味が移っていきました」
20代後半になり、結婚して第一子の誕生と、ライフステージの変化の時期とも重なった。家族と過ごす時間も仕事も妥協したくない。義父から「仕事を手伝ってくれないか」と折に触れ声を掛けられていたことが思い起こされ、戻ることも一案と考え出す。 「妻の第二子の里帰り出産など、状況や思いがいろいろ重なりました。心機一転、前向きな気持ちでUターンして、ムラヤマへの入社を決めました」
先代の技術力×新発想で市場ニーズをくみ取る
同社は、大手ハウスメーカー傘下の大工だった先代の村山さんが、1970年に独立したことから始まった。94年に法人化し、村山工務店からムラヤマへ社名変更して現在に至る。先代は、ピーク時には約25人の職人を従えて2週間に1棟ペースで施工したというすご腕の棟梁だ。
入社した塚原さんは、その実績を体感すべく施工現場を見て回った。そして、1、2年かけて地域のニーズ、特に同世代である30代の子育て世代の家づくりを模索した。3年目に営業部のリーダー格になると、注力したのがリフォーム事業だ。トイレの改修などの小口案件から新規顧客の間口を広げ、風呂やキッチン、外壁工事や建て替えと、リフォームの規模拡大の流れをつくっていく。 「先代の秀でた施工技術と、私が東京で培ったデザイン力とマーケティング力を掛け合わせて、提案型の工務店へと少しずつシフトしていきました」
リフォームの評判が口コミで広がり、2013年頃から新築の依頼も増え始めたという。 「入社当初は、東京でのやり方を主張しすぎて職人たちとギクシャクしたこともありました。でも、先代は私を否定せず、伸び伸びとやらせてくれましたね。結果が出てからはますます『やりたいこと』をさせてもらっている感じがありますが、先代が創業時に掲げた経営理念『お客さまの喜びが我が社の喜び』『人と地球にやさしい家づくり』を継承し、私も大切にしています」
職人に敬意を払うことを心掛け、一方で入社2年目には諫早商工会議所青年部(諫早YEG)に入って地域活動にも熱心に取り組んだ。そうした塚原さんの姿勢から、先代も会社を任せられると判断し、塚原さんも「譲られる」のではなく、自ら社長職に就く気概を持つまでになる。16年、満を持して事業承継が行われた。
会社と地域の未来を見据えイベントや新事業を企画
塚原さんは、会社の将来を考えれば地域活動は必須と説く。 「5年前に諫早YEGで『アエルコドモフェス』を企画し、実行委員長を務めました。子どもたちを対象に、市内企業のものづくりや職業体験ができるイベントで、毎年、うちも体験ブースを出していて、好評です」。
社内外の活動が功を奏し、入社時の売り上げと比較して現状は2倍以上の成長を遂げ、若手社員も増えつつある。さらに、100年後も企業理念を踏襲した家づくりをしていることを願い、目下、社内改革を計画中だ。 「木造の戸建て住宅の設計施工が主力事業で、売り上げの9割以上がBtoCです。そこで別法人でBtoB展開できないかと考えています。例えばキッチン専門の設計施工のプロ集団を結成すれば、オフィス需要も取り込めます。20年度諫早YEGの会長を務めた際に『WANT TO.NOT HAVE TO』というスローガンを掲げたのですが、100年続く会社、地域にするためにも、誰もが『WANT TO』を実現できる仕組みづくり、明文化が課題であると受け止めています」
会社経営と地域活動を両輪に、塚原さんは情熱を注ぎ続ける。
会社データ
社名 : 株式会社ムラヤマ
所在地 : 長崎県諫早市仲沖町21-1
電話 : 0957-24-3183
HP : https://www.murayama-co.jp
代表者 : 塚原史人 代表取締役社長
従業員 : 13人(パート含む)
【諫早商工会議所】
※月刊石垣2025年1月号に掲載された記事です。