業種を問わず、中小企業における人手不足は長年、懸案となっている。中小企業こそ、AIやDXなどの最新テクノロジーの導入による省人化に対応することを真剣に検討する時だ。
従業員が主体となりシステムを刷新 誰もが活躍できる社内環境へ
静岡県浜松市で倉庫・運送事業などを営む浜松倉庫は、20年前から、人材確保のために女性を積極的に採用するなど、さまざまな取り組みを行ってきた。未来に向けてどうすべきかを従業員に考えさせ、基幹システムを刷新し、生産性を向上させて新事業に必要な人員を捻出した……。着実に成果を上げた同社の取り組みは、中小企業の模範となるとして、経済産業省の「DXセレクション2024」でグランプリを受賞した。
物流業界の定説を覆し女性を積極的に採用
浜松倉庫は、1907年に地元の銀行や企業の代表者らが発起人となり、当時はまだ珍しかった株式会社として設立された。その後、倉庫・運送事業をベースにした総合物流事業に加えて、駐車場運営、地ビールレストランなど、幅広い事業を展開している。 「創業から100年以上を経ても変わらないことは、地域に根差した企業であり続けるということです。事業を通じてにぎわいをもたらし、地域に貢献する、という思いがあります」と言うのは、現社長の中山彰人さんである。地域貢献のためには、何よりも自社が存続することが必要。近年は少子化が進み、人材確保が難しくなっているため、同社は2005年から女性を積極的に採用するようになった。物流業界は、重い荷物を運ぶなどの業界の特性上、男性社会という定説があった。しかし、同社では事務員だけではなく、倉庫で働く従業員としても女性を採用し、定説を覆した。現在、同社は正社員比率が85%以上、平均年齢は35・9歳と若く、男女比率は6対4となっている。
従業員が主体的に考え 会社の未来へ向け業務改革
女性活躍推進で一定の成果を上げた同社だが、その後も人口減少に伴い、人手不足はさらに深刻となることが予想された。そこで、15年には生産性向上のための業務見直しに着手した。プロジェクト開始前には、情報共有の仕組みを構築するため、グループウエアを導入し、メールやスケジュール管理、臨時決裁やファイル管理なども一元的に行えるようにした。また、若手従業員を対象に、考える力を養うための社内研修を実施し、地域経済や歴史を学ぶ機会も設けた。
業務改革プロジェクトは、18年までの3年間で四つの段階に分けて進められた。第1期では、中山さんが若手管理者3人に対し「10年後、20年後の会社の在り方を考えてほしい」と伝え、ビジョンを考えてもらった。第2期では、その管理者たちが20代の若手社員を巻き込み、具体的な課題を掘り下げていった。第3期では、議論の内容をシステムに落とし込む段階に入り、外部コンサルタントの協力を得て仕様書を作成した。そして第4期では、システムの導入と運用を開始した。このプロジェクトのポイントは「トップダウンではなく、従業員が主体的に考えるボトムアップ型で行い、社長である私は環境整備に注力したことと、お客さまを巻き込み、サプライチェーン全体を考えて変革したこと」と中山さんは語る。
ペーパーレスとデータ活用 生産性向上で必要人員捻出
業務改革の大きな柱となったのが、ペーパーレス化とデータ活用の推進である。約170社という顧客へのアンケートを実施し、それまでFAXだった受注方法を、メールやウェブ入力など三つの方法により、全てデータ化した。また、倉庫管理システムを刷新し、倉庫内を無線LAN化する。商品の入庫から保管、出庫までの情報をリアルタイムで管理し、顧客に情報提供できるようにした。これにより、従来夕方以降になっていた出荷実績の報告が即時に行えるようになり、顧客の業務効率向上にも貢献している。データ活用においては、倉庫内のデータを分析し、誰でも画面を見るだけで進捗(しんちょく)状況や生産性を把握できるようになった。また、顧客の出荷や入庫状況などをグラフ化し、顧客への提案に活用している。値上げ交渉の際にも、データに基づいた説明を行うことで、説得力を高めているという。
こうして同社は、デジタルを手段として生産性を向上させ、新たに人材を採用することなく、新倉庫事業の要員10人を確保した。社長が問題提起をし、従業員に考えさせ、着実な成果を上げた同社の取り組み姿勢は、日本の中小企業の模範となるものとして、経済産業省の「DXセレクション2024」でグランプリにも輝いた。
環境配慮型の新倉庫が稼働 医療機器物流の開始へ
同社は業務改革と並行して、労務改革や子育て応援にも力を入れている。23年には人事評価制度を改革し、賃金水準の引き上げや、子育て支援制度の拡充などを実施した。地元の製造業の平均賃金よりも高い水準を目指すことで、人材の確保と定着を図っている。 「持続可能な会社にするためには、何をするべきかを、いつも考えています」という中山さん。同社は今年、環境配慮型の新倉庫を稼働させ、医療機器の物流を開始する予定で、さらなる成長を目指す。常に先を見据えた経営を続ける同社の今後の展開に注目したい。
会社データ
社 名 : 浜松倉庫株式会社(はままつそうこ)
所在地 : 静岡県浜松市中央区中央三丁目8番35号
電 話 : 053-453-0151
HP : https://www.hamamatsu-soko.co.jp
代表者 : 中山彰人 代表取締役社長
従業員 : 125人
【浜松商工会議所】
※月刊石垣2025年2月号に掲載された記事です。