和菓子と洋菓子を融合した「和風プリン」で新たな顧客を開拓
130年近い歴史を誇る竹林堂分家の看板商品「甘酒まんじゅう」は、富山を代表する銘菓として親しまれている。一方、顧客層の高齢化により売り上げ拡大が難しくなる中、同店の第二の柱となる新商品の開発に乗り出す。そうして同店初となる洋風テイストの「和風プリン」が誕生し、売り上げ増と販路拡大を果たした。
富山銘菓「甘酒まんじゅう」を長年にわたり単品展開
冠婚葬祭の際にまんじゅうを贈る風習は日本各地にある。富山では、江戸時代に創業した竹林堂の「甘酒まんじゅう」がそれに当たる。発酵したこうじ菌による独特の酸味と芳醇(ほうじゅん)な香り、上品なこしあんの味わいが特徴で、時の藩主前田公に高く評価され、以来富山銘菓の一つに位置付けられている。特に、毎年6月1日の日枝神社祭礼の日に販売される甘酒まんじゅうは「朔日饅頭(ついたちまんじゅう)」と呼ばれ、厄を払い、無病息災を祈念する縁起物として欠かせない食べ物となっている。
そんな銘菓を、およそ130年前からつくり続けてきたのが竹林堂分家だ。 「竹林堂からのれん分けして創業して以来、ずっと甘酒まんじゅうだけを扱ってきました。本家とは原材料も製法も同じですが、やはりつくり手の個性が出るので、長い年月を経て当店ならではの味に進化してきました」と店主の山崎はじめさんは説明する。
山崎さんは同店四代目として、また菓子職人として店を切り盛りしてきたが、子どもの頃は甘酒まんじゅうが嫌いで、あんこも苦手だったという。とはいえ、高校卒業後は大阪の製菓専門学校で学び、その後、大阪の老舗和菓子店で修業したことで、日本の伝統や文化に根差した和菓子の奥深さや魅力に目覚めた。二代目の祖父が他界したことを受け、24歳で富山に戻り家業に入った。
売り上げ拡大の起爆剤として広く愛されるプリンに着目
当時、甘酒まんじゅうは冠婚葬祭時だけでなく、おやつとしても日常的に食べられており、単品展開でも経営は成り立っていた。しかし、大阪でとりどりの和菓子が多方面で使われている様子を見てきただけに、少し物足りなさを感じたという。 「もう少し和菓子の種類を増やしたいと申し出たら、家族には反対されたのですが、先代でもある父だけは『思ったようにやってみろ』と言ってくれまして。そこで看板の甘酒まんじゅうを引き立てる、庶民的ながらお使い物としても使えるような新商品づくりに乗り出しました」 上用まんじゅう、コーヒーまんじゅう、季節の和菓子などラインアップを増やしていく中、新たに挑戦したのが“和風プリン”だ。その背景には、顧客層の高齢化がある。その後の売り上げ拡大が見通せなくなり、幅広い年代に人気のプリンをベースとしたほかにはない商品を開発し、新たな顧客を開拓しようと考えたのだ。カラメルの代わりに大納言入り水ようかんを使い、和と洋二つの味わいが楽しめるプリンで、和菓子の並ぶ店内でもひときわ目を引いた。ところが、思ったほど売れ行きは伸びなかった。 「お客さまの評判は良かったんですが、売れるときと売れないときの差が激しくて。3日間の消費期限内に売れなければ廃棄処分となりロスが大きかったので、とにかく消費期限を延ばすことが課題でした。北陸新幹線の金沢開業を目前に控えていたこともあり、常温保存ができるよう土産物としての販路も開拓したいと思いました」
山崎さんは、国のものづくり補助金や、店のブランド強化を目的とした小規模事業者持続化補助金などを利用して、真空包装の設備を導入。日持ちするプリン製造のノウハウを見いだそうと、県農林水産総合技術センター食品研究所と連携しながら試作と保存試験を行った。 「保存料は使いたくなかったので、加熱殺菌で消費期限を延ばそうと考えました。ただ、一度固まったプリンに熱を加えると溶けて、水ようかんとの境目がにじんでしまうんです。そこで原材料の配合バランスを少しずつ変えながら、数えきれないほど試作を繰り返しましたが、いつ完成するか先が見えませんでした」
実に4年以上の時間を費やし、きれいな見た目と消費期限を30日間に延ばすことを実現し、2019年に「まんじゅう屋の和ぷりん」の名前で販売を開始した。
自社店舗以外に販路拡大 売り上げも10倍に
開発を途中で諦めなかったのは、甘酒まんじゅう屋に第二の柱を立てたいという強い思いからだ。そのため開発当初から“まんじゅう屋がつくったプリン”という商品コンセプトを掲げて、水ようかんの配分を多くし、プリンはゼラチンではなく寒天で固め、パッケージデザインも和風にこだわった。 消費期限が延びたことで、自社店舗以外に県内スーパー数社での販路を獲得する。また、東京で開催された百貨店イベントでの評判も上々で、当初品と比べて売り上げは、10倍以上に増加した。子どものおやつや働く人のご褒美スイーツ、高齢者が手軽に取れる栄養食として幅広く親しまれ、同店の新たな顔として定着している。 「甘酒まんじゅうは、富山のソウルフードとして絶対になくしてはいけないものです。そのためにも、今後『和ぷりん』を育てながら新商品を考え続け、新たなお客さまを獲得していきたい」と山崎さんは、穏やかな口調で今後に懸ける思いを語った。
会社データ
社 名 : 株式会社竹林堂分家(ちくりんどうぶんけ)
所在地 : 富山県富山市旅籠町3-15
電 話 : 076-421-3785
HP : https://chikurindobunke.com
代表者 : 山崎はじめ 代表取締役
従業員 : 13人
【富山商工会議所】
※月刊石垣2025年5月号に掲載された記事です。