「雑穀米」のパイオニアが挑む 地域貢献に根付いた多角経営
「雑穀米」の製造販売を本業としているベストアメニティは、もう一つの柱どころか、複数の柱を次々と立ち上げて、事業を拡大している。不動産事業や宿泊事業、マリン事業や飲食店事業など、多種多様だ。これらは、全て同社の代表取締役会長兼社長の内田弘さんが、自ら先陣を切って開拓。好奇心と情熱を原動力に、売り上げは20年以上、右肩上がりだ。
リスクヘッジから異分野参入に踏み切る
ベストアメニティの創業者である内田弘さんが、起業に至ったのはサラリーマン時代に体調を崩し、入院を余儀なくされたことによる。健康の根本である食に着目し、1990年に、自然食品の製造・卸小売業としてベストアメニティを立ち上げた。そして、雑穀を食生活に取り入れている農家との出会いを通じ、雑穀の商品開発に注力していく。 「当時は麦やアワ、キビなどの雑穀は販売されていましたが、ブレンドした商品はありませんでした。そこで、『雑穀米』という造語を商標登録して売り出しました。30年前はご飯といえば白米が当たり前です。誰からも見向きもされない状態からのスタートでした」
通販会社との契約を取り付け、健康ブームの時流に乗って業績が上向くと、99年に雑穀米を中心としたペットフード事業にも乗り出す。食品事業の拡大と同時に、内田さんは異分野にも参入した。 「理由はリスクヘッジです。食品の安全問題に関わる事件が続き、もし弊社商品で食中毒などの重大な事件が起きて営業停止になれば、従業員が職を失ってしまうと危機感を覚えました。ちょうど、中古不動産として二つのビルを所有していたので、不動産売買や管理について猛勉強し、ビル管理事業を立ち上げました。そしてビルの売却で得た収益を、新規事業の資金源につなげていきました」
2001年には製造部門を分社化し、その後、自社製品を販売する直販店や、自農場の野菜を使ったレストランを開設するなど、事業拡大を加速させていった。
地域の悩み解決に端を発し 第2、第3の事業が本格化
主力である雑穀米の事業を通じて、広大な不耕作農地や、荒廃した竹林の再生プロジェクトにも着手する。そうした中、地元・三潴町(みづままち)(のちに久留米市へ編入)の町長から、築180年以上の古民家の利活用を打診された。 「取り壊すには惜しい、立派なつくりでした。弊社で引き取り、社員研修の場として利用したところ、あまりに居心地が良く、敷地を掘ったら温泉も出ました。そこで、より多くの人に利用してもらおうと、旅館にリノベーションし、08年に『天然田園温泉 ふかほり邸』としてオープンしました。その後、ペットフード事業が伸びてきたタイミングで、19年にペットと泊まれるホテルを開設しました。当時は、そうした宿泊先がなかったので、市場ニーズにうまく合致しました」と内田さん。
農地再生、古民家再生に続き、漁師との出会いを通じて、輸入品や養殖に押されて低迷が続く、天然の海産物の商品開発に乗り出す。さらに熊本県上天草市にマリーナ「フィッシャリーズ フィッシャリーズ」をオープンし、マリン事業にも参入する。「趣味から始まった」と内田さんは笑うが、マリーナの隣接地に約20台のトレーラーハウスを設けると、コロナ禍でも外泊できるスポットとして注目を集めた。こうして、宿泊事業は旅館、トレーラーハウス、ペットホテルの3本柱が確立していく。 「知識やスキルがなくても、異分野に臆せず飛び込み、すぐに成果が出なくても継続することを心掛けています。雑穀米は軌道に乗るまで4年ほどかかりましたし、ペットフード事業は10年以上赤字でしたが前年比150%という1番の伸び率となりました」
開拓した異分野を掛け合わせ さらに事業を拡大する
スピードと継続に加えて「好奇心と情熱も大切」と説く内田さん。その一例として、異分野を掛け合わせた新規事業を挙げた。18年に福岡県大牟田市にオープンした温泉リゾート施設「大牟田天然温泉 最高の湯」。創業の地である大牟田市の地域貢献を目指し、スーパー銭湯の再生事業として取り組んだ。施設内の食堂や売店、併設のトレーラーハウスの宿泊施設など、開拓した事業のノウハウを集約。さらに、フランク(気軽)とキャンプを合わせた造語〝フランピング〟を生み出し、バーベキューや釣り堀、ゴーカートが楽しめる空間を創出した。 「主力の食品事業は、今や売り上げの3分の1程度。異分野への参入当初は、本業以外には手を出さない方がいいという意見もありましたが、どれも本業と呼べるほどに成長し、グループ全体で売り上げは約200億円。1000億円までは伸ばしたいと思います」
22年には大牟田商工会議所の旧会館を改修し、イノベーション創出拠点「aurea(アウレア)」を開設。コワーキングスペースや売店、カフェなどがあり、にぎわいを見せる。
次々と先陣を切って異分野に飛び込む内田さん。だが、それを面白がる社風が醸成されており、ある日、本社ロビーに無数のバイクが並び、バイクメーカーさながらの様相を呈しても誰も動じない。 「今夏には市内にバイカーズカフェをオープン予定です。来春には隣町にカーメンテナンスショップ、再来年の春には熊本の無人島で子ども対象の島暮らし体験事業を始める予定です」と目を輝かせる。柱の数は今後も勢い良く増えそうだ。
会社データ
社 名 : ベストアメニティ株式会社
所在地 : 福岡県久留米市三潴町田川32-3
電 話 : 0942-64-5572
HP : http://www.bestamenity.co.jp
代表者 : 内田弘 代表取締役会長兼社長
従業員 : 約600人
【久留米商工会議所】
※月刊石垣2025年5月号に掲載された記事です。