愛知県蒲郡市内の児童館に「やった、市長のカードだ!」と響く子どもの声。子どもたちが夢中になって遊ぶのは、蒲郡商工会議所青年部(以下、蒲郡YEG)が子どもたちのシビックプライドの醸成を狙って開発し、2年をかけて蒲郡のまちに定着させたまちづくりゲーム「ガマツク!」だ。遊びながら自分が住んでいる地域のことを知り、学び、いつの間にか好きになる。オリジナルゲームを通じて地域の活性化に取り組む蒲郡YEGの思いを取材した。
委員会メンバーの情熱が結実した珠玉の作品
まちづくりゲーム「ガマツク!」は、蒲郡YEGが2022年にシティセールスの取り組みの一環として制作した完全オリジナルのテーブルゲームだ。ゲーム内の資金を投じ、さまざまな職業の市民を活用して施設を建て、また社会政策を実行することで、蒲郡市の産業、福祉、教育、生活を向上させ、人口を増やしていくことを目指す。特色は、まちの施設が正式名称で登場することで、遊びながら身近な地域資源を自然に学べる。事前に同市の情報を持たない取材班でも、1回遊ぶと、施設や産業はもちろんのこと、小中学校の数まで覚えてしまうほどだ。
22年度シティセールス委員会の鈴木将浩委員長は「私が元々ゲーム好きだったというのもありますが……」と笑いながら、「蒲郡YEGとしてシティセールスに取り組む中で、シビックプライドの醸成も一つの大きなテーマでした。子どもたちにまず地域のことを知ってもらいたいのですが、無理やり学習させても意味がありません。そこで思い付いたのがゲームでした」と話す。ルールやカードデザインは委員会メンバーの考案で、ゲームで実際に使う各種アイテムも妥協せず本気でつくり、わずか半年で完成させた。しかし、出来上がったゲームを使って出張授業や大会を開催したものの、十分に定着したと評価するには至らなかった。それにYEGは単年度制であることもあり、一過性の活動で終わってしまう懸念もあった。しかし、23年度ガマプライド委員会の佐久間新委員長が「ガマツク!」のブラッシュアップと普及に取り組む活動を引き継いだ。
24年1月には「ガマツク!」の第2回大会を開催し、鈴木寿明市長も応援に駆け付けた。また、ゲームに登場する施設を巡るスタンプラリーを同時開催。施設の中には、蒲郡YEGが応援事業「赤い電車博2024」を行って、廃線危機の回避に貢献した名鉄蒲郡線の各駅も含まれている。市民の反応は上々で、その後市内の小中学校へ寄贈したり、児童館、教育委員会や子ども食堂、学習塾などで広く遊ばれるようになった。蒲郡YEGの2年越しの取り組みは、子どもたちのまちの愛着と誇りの醸成に大きく貢献したといえるだろう。
過去の取り組みからシティセールス発足まで
進取の気性に富んだ蒲郡YEGは、「ガマツク!」の活動以前にも、11年頃からロケ誘致と地域グルメの開発に取り組んでいる。当時40人ほどのメンバーが、09年度蒲郡YEG会長であった鈴木寿明さんの縁で東京都内のコンサルタント会社の代表を招いたことを機に、シティセールスプロジェクトと銘打った取り組みを開始した。当初はなかなか芽が出なかったが、12年に招致した映画のロケ現場に居合わせた漁師の厚意でアサリとワカメが提供され、「ガマゴリうどん」が誕生。全国区の二つのうどんの大会でグランプリを獲得し、地域にガマゴリうどんを定着させることに成功した。19年に鈴木元会長が蒲郡市長に就任すると、映画のロケ誘致が加速し、官民一体の取り組みへと進んでいった。
さらに、21年12月に官民連携の蒲郡市シティセールス推進協議会が発足し、蒲郡YEGを母体に地域ぐるみで映画やCMのロケ誘致を推進。蒲郡を舞台とするロケを通じてまちの魅力を全国にPRすることで、市民にもっと蒲郡を好きになってもらうことが目的だ。ロケ誘致やガマゴリうどんは、すでに蒲郡YEGの手を離れて官民連携事業として展開されている。
新しい物を創り、引き継ぐ 全ては愛する蒲郡のため
「ガマツク!」の第2回大会開催後、有志による「ガマツク!」の同好会が立ち上がった。先日も、児童館から使い古されてボロボロになった「ガマツク!」を交換してほしいとの声が上がり、同好会が対応した。地域の子どもたちに親しまれる存在へと成長した現在は、市民に愛される「ガマツク!」をそっと支える対応へとシフトしているそうだ。「ガマツク!」は、施設や社会政策の内容を差し替えることで、どの地域でも使えるフォーマットが完成している。取り入れたい地域があれば蒲郡YEGから情報が提供されるとのことなので、活用されるといいだろう。
水藤賴利会長は「これまでは地域活性化や人材育成を目的として、地元に根差した事業が多かったので、今後は政策提言のような要素も取り入れながら、蒲郡の未来に対してより必要とされる団体になっていきたい」と語る。まちが元気になる仕組みをつくり、その目的を達成して市民に定着させることができれば、過去の実績には執着しない。シティセールスに取り組む前は40人ほどだったメンバーも、今では100人近くを数えるほどになっている。蒲郡YEGは、すでに新しいテーマを探している。
【 蒲郡YEG 】
会 長 : 水藤 賴利
会員数 : 93人
創 立 : 1979年
スローガン :「Go-creation ~共に!紡ぎ、織りなす地域の未来~」
HP:https://www.gamagoriyeg.com/
編集後記
猪原英和(熊谷YEG)
2017年から3年間、埼玉県熊谷市で開催された「全国ご当地うどんサミット」で運営スタッフをしたことがあります。多くのメンバーが駆け付け、ガマゴリうどんをものすごい勢いで売りさばく蒲郡YEGの皆さんのはつらつとした姿を目の当たりにし、いつか話を聞いてみたいと思っていました。ガマゴリうどんの誕生秘話が面白いのでこれだけでも記事が書けそうでしたが、今回取り上げた「ガマツク!」も商用レベルで、青年経済人の本気を見ました。
官民一体の蒲郡のシティセールスの取り組みと、蒲郡YEGの活躍にこれからも注目していきたいと思います。
取材:日本商工会議所青年部(日本YEG)広報委員会 石垣チーム/写真提供:蒲郡商工会議所青年部

