起業を目指す女性が増えている。実質的な定年延長により男性の起業が停滞しているのと対照的だ。男性が自身のキャリアの延長線上で事業化を検討する例が多いのに対し、女性は「自分が夢中になれること」を基盤に考える人が多いと、中小金融機関の幹部は指摘する。アイデアは優れていても事業として成り立たせるには「資金の確保」「制度面への対応」が欠かせないが、この点で壁にぶち当たるケースが多い▼
東京・北千住で、日本の伝統文化を伝える事業を展開する「ろじこや」(rojicoya)代表の米本芳佳さんも資金調達で苦労したと話す。地元信金から、東京都中小企業振興公社を紹介され、ワンストップ経営相談の窓口を通じて、労務・税制両面の知識を増やした。さらに同公社からの助成金とクラウドファンディングを活用し、自己資金の負担が大幅に軽減できた。商工会議所を含め、起業に向けた相談窓口が数多く用意されているが、足を運ばずに悩むケースは少なくない。より身近な存在になるように関係者の努力も望まれる▼
事業を安定軌道に乗せるには、新しい取引先を開拓したり、有望な事業に参画したりすることが欠かせない。開業したばかりだと企画書の作成だけで時間も人手もとられるが、米本さんはAIにたたき台のプランをつくらせ、手を入れる方式を採用した結果、省力化を実現できた。小規模企業ほどDX(デジタルトランスフォーメーション)を活用する意味があるといえよう▼
起業を目指す人への助言を米本さんに求めたところ「人との縁を大事にする」「好きなことを事業にする」の2点が返ってきた。企業の規模に関係なく経営者が忘れてはならない点だ
(時事総合研究所客員研究員・中村恒夫)