今年1~3月期の米国のGDPは、前期比年率でマイナス0・3%となった。3年ぶりとなるマイナス成長の背景には、トランプ関税実行前の駆け込みで、輸入が急増したことがある。それに加えて、米国経済のエンジンともいうべき個人消費の伸び率が鈍化したことも見逃せない。
米国では、トランプ政策の影響もあり企業の業績懸念が高まっているようだ。それに伴い、リストラを実施する企業は増えた。米国経済の減速は、わが国をはじめ世界の経済の足を引っ張る可能がある。
1~3月期の米国の輸出は前期比で1・8%増加する一方、輸入は同41・3%増加し、モノ(財)の輸入は同50・9%と急増した。まさに駆け込み需要といえる。輸入の増加はGDPのマイナス要因だ。輸出が輸入を下回った結果、純輸出は1~3月期の米国GDPを4・83ポイント押し下げた。高関税が実行される前にモノの確保を急ぐ家庭や企業は急増し、民間在庫の増加につながったとみられる。同期の民間在庫増加によるGDPへの寄与度は2・25ポイントのプラスだった。
これまで米国では、労働市場の緩やかな拡大が実質賃金の上昇を支え、個人消費は堅調に増加してきた。ところが、1~3月期の個人消費の上昇幅は鈍化した。消費の伸び率は昨年7~9月期は2・48ポイント、10~12月期は2・7ポイントであったのに対し、1~3月期の個人消費の寄与度は1・21ポイントとなった。伸び率鈍化の要因の一つに、22年春以降の利上げにより主に低所得者層でカードローンの延滞率が上昇し、支出余力が低下したことがあるとみられる。それに加え、不安定なトランプ政策が消費者の支出意欲をそいだとの見方もある。
一方、民間企業の設備投資は、前期比9・8%と大きく上昇した(寄与度は1・29ポイントのプラス)。中でも機械設備の投資は同22・5%と急増した。ボーイングのストライキ終了の影響に加え、高関税の発動前に機器を海外から調達する企業は増えたと考えられる。1~3月期のマイナス成長の反動で、4~6月期の米国のGDP成長率が実質ベースでプラスに転じる可能性はあるだろう。アトランタ連邦準備銀行の“GDPナウ”(最新の各種経済指標で推計した実質GDP成長率)では、5月1日時点で4~6月期の米国経済の実質成長率の推計値は前期比年率でプラス1・1%だった。5月初旬発表の非農業部門の就業者数は、前月から17・7万人増え、失業率は4・2%だった。4月末時点で、米労働市場は相応の安定を保ったといえる。
ただ、米国経済の先行きについては懸念が残る。今のところ、トランプ関税の影響は読めないものの、米国の企業の中には、これまでの業績予想を撤回するケースが増えている。関税政策や移民政策によるコスト増加、それによる業績悪化リスクの上昇に対応するため、人員削減を実行する企業も増えた。それに伴い、個人消費が一段と下振れるリスクは高まる可能性がありそうだ。高関税政策は、景気の後退懸念を高めると同時に、米国の輸入物価を押し上げ、インフレ懸念を再燃させる恐れもある。米国で景気の後退と物価の上昇が同時に進行すると、FRBによる本来必要なタイミングでの利下げが難しくなるはずだ。金利の高止まりは企業の資金繰りの悪化要因になる。信用格付けの低いジャンク級社債の価格に、追加的な調整圧力がかかることも懸念される。それに伴い、米国のカード、住宅ローンの延滞率は上昇し、個人消費の減少は鮮明化するだろう。
そうしたリスクを考えると、今年後半の米国経済の展開は、なるべく慎重に見た方がよいかもしれない。トランプ政権は中国との間で、時限的に関税率を引き下げることに合意したものの、依然として関税率自体はかなり高い水準だ。また、今後の交渉の展開次第では再び高率関税が提示されることも想定される。そうした高関税政策と米国の循環的な景気後退懸念が重なると、世界経済に与える影響はかなり大きくなるだろう。わが国や欧州などは、回復の足を引っ張られるはずだ。そのリスクは頭に入れておいた方がよい。 (5月13日執筆)