大手メーカーで中途採用の動きが加速している。中には新卒より採用数が増えている企業もある。AI(人工知能)関連をはじめ、先端技術に通じたスタッフを確保するため、経験者を受け入れたい思惑があるようだ。こうした技術者を取り込みたいのは中堅・中小企業も同じだが「待遇面で競い負けする」と嘆く経営者の声を聞く▼
技術者に限らず、中途入社の従業員を採用した後、経営側が悩むのが「企業文化をどう伝えていくか」という点だ。経営理念に共感して転職する者もそれなりにいるが、多くは「報酬などの待遇」「人間関係」「働き方」「キャリアアップ」などが主な転職理由になると仲介業者は指摘する。新卒で採用した従業員と同様に時間をかけて企業文化を体得させるようなことはできない。「むしろ、こんな考え方や慣習はおかしいと一方的に批判する者もいる」(中堅企業役員)と転職者に対して違和感を示す経営者が少なくない。一方で、創業以来の経営手法が時代に合わなくなっている場合「外部の空気を入れてくる転職者が好影響をもたらしてくれた」と中堅情報関連企業の採用担当役員は話す▼
バブル経済崩壊後、銀行の合併が相次ぐ中で、書類の扱い方も異なり、事務作業面で統合効果が出にくかった事例を数多く見聞きした。長年築いてきた企業文化、風土を変えるのは容易ではない証拠だ。企業が転職者を採用した後には、即戦力という面だけを見るのではなく、丁寧にフォローアップすべきだ。例えば、自社のやり方に不合理な面がないか、逆に転職して良かったのは何かなどを詳細に尋ね、経営に反映することができれば、コストをかけて中途採用した意味が増すだろう
(時事総合研究所客員研究員・中村恒夫)