いささか旧聞に属するが、米大リーグドジャーズの山本由伸投手の活躍は素晴らしいものだった。彼が対戦相手のブルージェイズの選手に対して投じたボールをスコアボードの方から撮られた映像で見ると、投げたボールはいずれもブルージェイズの打者のストライクゾーンのギリギリのコースを攻めていた。彼のボールコントロールは驚異的に正確無比なものだった▼
大リーグワールドシリーズ第7戦、ドジャース対ブルージェイズ戦は、11回延長にもつれ込む激戦となった。前記の光景は、山本投手が4対4の同点で、9回裏一死一・二塁というまさにサヨナラの場面で、リリーフとしてマウンドに立った時のものだ。山本は、前日の第6戦で、先発として96球を投げており、この登板は予定外だった。同僚の佐々木朗希投手もブルペンに向かう山本投手を見てマジかよと驚きを隠さなかった▼
この登板で、彼は初球のデッドボールで打者を塁に出したものの、その後は、二遊間に打たれた打球をドジャースの守備陣がホームでアウトにしたり、左翼塀際に打たれた大飛球をセンターが飛びつく好捕で防いだり、なんとかピンチをしのいだ。試合は延長戦にもつれ込んだがドジャースは勝利し、山本はシリーズMVP(最も価値のある選手)に輝いた▼
その日のマウンドを振り返って彼は「ブルペンで準備をしていた僕自身、正直イメージはあまり湧いていなかった。しかし、ウオームアップを重ねる中で『行ける』という感覚になった」と語っていた。この言葉は、体力的、精神的に大変だったにもかかわらず、極限の中でプロ意識を自覚しながら心を奮い立たせたことを示す。MVPの名誉に浴するに値する投球だった
(政治経済社会研究所代表・中山文麿)