2008年のリーマンショック後、世界経済をけん引したのはスマホだった。20年代の初頭以降、けん引役は人工知能(AI)にバトンタッチされた。そして、次のけん引役候補として、AIとロボットが結合した新しい産業分野がある。
現在、AI開発を加速しロボットへの搭載を積極化しているのは、米国と中国の企業が目立つ。特に、中国政府と中国企業の取り組みは、一部の分野では米国よりも優位との指摘もある。AIを搭載したロボット(フィジカルAI)分野でも、中国が世界トップのシェアを獲得する可能性は高まっている。一方、米国では、テスラやスタートアップ企業が、AIロボットの開発を急ピッチで行っている。中国や米国では、AIの社会実装を可能にするデバイスとして、ロボットの開発競争が急激に熾烈(しれつ)化している。
ロボットは産業用とそれ以外に大別できる。22年当時、産業用ロボット分野で、わが国の企業は約7割のシェアを持っていた。ところが、その後のシェアは低下傾向で、世界のロボット先進国の座から滑り落ちた。同年のサービス用(いわゆる汎用型)ロボット市場では、米国が世界トップの35・5%、中国は33・3%のシェアを取った。その後、中国勢の成長は加速している。足元のサービスロボット市場では、中国が世界トップのシェアを獲得した可能性は高い。
25年7月、上海で開催された世界人工知能会議は、中国の関連分野での成長スピードを世界に知らしめた。食事の提供や調理、さらにはボクシングや宙返りをするロボットが会場を席巻した。それに対して、米国ではテスラなどが当該分野に積極的に取り組んでいる。ロボタクシーに加え、オプティマスと呼ばれる人型ロボット事業の収益を伸ばし、ロボティクス企業としての成長実現に取り組んでいる。その背景には、AIをバーチャルな空間(パソコンやスマホの中)から、リアルな実社会に連れ出す目的がある。生産の現場から日常生活まで、人とAI搭載ロボットが協働・共生するようになり、人間の幸福感を増幅することが可能との思いがあるのだろう。
残念だが、今のところ、わが国企業の取り組みはやや遅れている。AIの推論モデルなどソフトウエア開発で、米中のIT先端企業に比肩する企業が見当たらない。米中対立、中国の景気減速などにより中国の需要を取り込むことも難しくなっている。今後、国内の企業と政府が、AIとロボットの結合にどう対応するかは、産業競争力の復活・日本経済の復活に大きな影響を与えるはずだ。楽観はできないが、半導体分野でラピダスが登場し、27年に回路線幅2ナノメートルのチップ量産を目指している。そうした潮流に沿って、ロボット分野でも世界トップと伍(ご)して競争のできる企業が出てくると、日本経済に重要なメリットをもたらすはずだ。今なら、まだ挽回のチャンスはあるだろう。わが国企業は、これまで産業用ロボット分野で数値制御(NC)関連装置の製造技術を磨き、世界有数の技術力を蓄積してきた。安全性、耐久性の高い自動車などの製造技術はヒューマノイドの製造に重要だ。
25年10月、ソフトバンクグループは、スイスの重電大手ABBからロボティクス事業を買収すると発表した。関連企業がAI分野で米国企業などと提携し、最先端のソフトウエアの実用化を目指すデバイスとしてのロボット創出に取り組むことは、国内産業の成長、日本経済の復活に欠かせない。半導体、AI、ロボットは戦略物資として重要性が高まる。安心・安全なAIロボット利用に関する国際規格づくりを主導するためにも、関連分野で世界有数の企業群の存在は有効だ。そうした状況をつくり上げるため、政府による民間のリスクテイクの支援を拡充する必要もあるだろう。ただ何といっても、民間企業が積極的に新規分野に取り組む気概が求められる。そうした取り組みが迅速に進むか否かは、日本経済の成長力向上に重要なインパクトを与えるはずだ。企業経営者も覚悟を決め、世界的な産業の変化に対応することが求められる。 (2025年11月12日執筆)

