厚生労働省はこのほど、今回で4回目となる「過労死等防止対策白書」(令和元年版)を公表した。同白書では、労働時間やメンタルヘルス対策、過労死などの現状を調査・分析しているほか、過労死などの防止対策の取り組みについて取りまとめている。元年版では、勤務時間週60時間以上の雇用者数が397万人と前年比で35万人減少し、初めて400万人を切ったこと、有給休暇取得率が18年ぶりに5割を超えたこと、一方で、過労死などの認定件数は、横ばい傾向であることなどが報告された。また、メンタルヘルス対策に取り組む企業は増加傾向にあるものの、中小では依然低率にとどまっていることも報告された。特集では、同白書の概要を抜粋して紹介する。
第1章労働時間やメンタルヘルス対策などの状況
1 労働時間などの状況
○労働時間、年次有給休暇の取得、勤務間インターバル制度の導入割合は、いずれも改善傾向にある(現状)
○397万人(6・9%)が、週60時間以上の勤務をしている(平成29年と比較して約35万人減少) (図1)
○年次有給休暇の取得率が18年ぶりに5割超(図2)
○勤務間インターバル制度を知らない割合は大きく減少
2 職場におけるメンタルヘルス対策の状況
○メンタルヘルス対策の取り組み、仕事上のストレスなどについて職場に相談先がある労働者の割合、ストレスチェックの集団分析結果の活用状況は、いずれも前年に比べて改善している
(現状)
○小規模な事業場におけるメンタルヘルス対策の取り組み割合が低い
◯ストレスチェックの集団分析結果を活用した事業場の割合は大幅に増加
3 自殺の状況
省略
第2章過労死などの現状
○過労死などの認定件数は、脳・心臓疾患、精神障害ともに、近年、横ばい傾向(参考)
○100万人当たりの認定件数(推計)(民間および国家公務員は30年度、地方公務員は29年度)・脳、心臓疾患民間4・2件、国家公務員4・5件、地方公務員4・6件、精神障害民間8・2件、国家公務員6・8件、地方公務員11・0件以下、省略
第3章過労死などを巡る調査・分析結果
1―1 重点業種・職種の調査・分析結果【建設業】
○労災認定事案の分析(22年1月から27年3月までに認定された脳・心臓疾患、精神障害事案を分析)
・技能労働者の精神障害事案について、発症に関与したと考えられる業務によるストレス要因は、半数以上が労働災害による負傷などの労働災害関連(62件のうち、労災関連34件(被害32件、目撃1件、加害1件))
・現場監督の精神障害事案について、自殺事案が多く(59件のうち、30件が自殺事案)、発症に関与したと考えられる業務によるストレス要因は、長時間労働や業務量などの変化が多い(59件のうち、長時間労働29件、仕事内容・量の大きな変化21件)
・特に、現場監督の自殺事案を見ると、発症に関与したと考えられるストレス要因は、長時間労働に関連するものが多く(30件のうち、長時間労働19件、2週間の連続勤務7件、極度の長時間労働5件)、その他に業務量の変化、上司とのトラブルや仕事のミス、顧客からのクレームも多い(30件のうち、業務量などの変化件、上司とのトラブル6件、重大な仕事のミス5件、顧客・取引先からのクレーム4件)
○労働・社会面のアンケート調査・労働者の業務に関連するストレスや悩みの内容は、技能労働者では、職場の人間関係(36・1%)、賃金水準の低さ(32・6%)が多く、現場監督では、休日・休暇の少なさ(36・2%)、時間外労働の長さ(34・0%)が多い・企業における過重労働の防止に向けた取り組みを実施するに当たっての課題は、業界全体で取り組む必要がある(70・7%)が約7割であり、その他、顧客の理解・協力を得ることが難しい(45・5%)が多い
1―2 重点業種・職種の調査・分析結果【メディア業界】
○労災認定事案の分析(22年1月から27年3月までに認定された脳・心臓疾患、精神障害事案を分析)
・精神障害事案について、20代から30代の若い世代が多い(30件中、20代11件、30代8件、40代7件、50代4件)。特に自殺事案では全て20代(4件全て20代(広告業2件、放送業2件))
・業種別では、広告業、放送業が多く(精神障害30件中、広告業17件、放送業8件)、職種別では、営業、メディア制作、デザイナーが多い(精神障害30件中、営業6件、メディア制作5件、デザイナー4件)
・その発症に関与したと考えられるストレス要因は、長時間労働に関連するものが多く(精神障害件中、極度の長時間労働7件、恒常的な長時間労働件)、その他、仕事の量・質の変化や上司とのトラブルに関するものも多い(精神障害30件中、仕事内容の変化11件、2週間以上の連続勤務5件、上司とのトラブル5件)
○労働・社会面のアンケート調査(広告業、出版業、新聞業、放送業が対象)
・労働者が過重労働防止に向けて必要だと感じる取り組みは、人員を増やす(61・9%)、業務の分担や集約などの推進を行う(51・3%)、人材育成・能力開発により生産性の向上を図る(47・6%)が多い
・企業における過重労働の防止に向けた取り組みを実施するに当たっての課題は、労働者間の業務の平準化が難しい(51・2%)、業界全体で取り組む必要がある(34・3%)が多い
2 認定事案の追加収集・分析<精神障害事案の分析>
・23年に策定された認定基準に基づき認定された事案(2374事案)を分析
・「具体的出来事」について、男女別に評価
(結果)
○男性では、「仕事内容・仕事量の変化を生じさせる出来事があった」(23・1%)が最も多く、次いで「嫌がらせ、いじめ、または暴行を受けた」(15・9%)、「上司とトラブルがあった」(15・3%)が多い
○女性では、「悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」(21・9%)が最も多く、次いで「セクシャルハラスメントを受けた」(19・7%)、「嫌がらせ、いじめ、または暴行を受けた」(16・6%)が多い
第4章過労死などの防止のための対策の実施状況
1労働行政機関などにおける対策
<労働施策基本方針>
○労働施策総合推進法に基づき、30年12月に「労働施策基本方針」を閣議決定
○長時間労働の是正、過労死などの防止、産業医・産業保健機能の強化、職場のハラスメント対策などを含む労働施策に関する基本的な事項などが盛り込まれている
1―1 長時間労働の削減に向けた取り組みの徹底
⑴長時間労働が行われている事業場に対する監督指導など
○28年4月から、長時間労働が行われている事業場への監督指導の対象を従来の月100時間の時間外労働が行われている事業場から、月80時間の時間外労働が行われている事業場に対象を拡大
○過労死などを発生させた事業場に対して、監督指導を行い当該疾病の原因の究明、再発防止対策の徹底の指導
⑵長時間労働などに係る企業本社に対する指導
○29年1月から、違法な長時間労働を複数の事業場で行う企業については、本社に対し、全社的な改善を図る指導を実施
⑶ガイドラインによる労働時間の適正な把握の徹底
○29年1月に策定した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」の周知・指導
⑷是正指導段階での企業名公表制度の運用
○違法な長時間労働が複数の事業場で行われた企業について経営トップに対して指導し、企業名の公表を実施⑸36協定に関する法令の周知指導
○30年9月に定めた「労働基準法第三十六条第一項の協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項等に関する指針」を踏まえた指導
1―2過重労働による健康障害の防止対策
○過労死などのリスクが高い状況にある労働者を見逃さないための産業医による面接指導などの確実な実施などについて指導
1―3 メンタルヘルス対策
○精神障害に関する労災支給決定(認定)が行われた場合、本社事業場に対してメンタルヘルス対策に係る指導を実施
1―4 ハラスメント防止対策
○過労死などに結び付きかねないハラスメント事案が生じた事業所に対し、再発防止のための取り組みを指導
2 調査研究など
省略
3 啓発
3―1 国民に向けた周知・啓発の実施
⑴「過労死等防止啓発月間」の実施省略
⑵ポスターやパンフレットなど多様な媒体を活用した周知・啓発
○労働者、事業主および当事者のそれぞれの立場の方々から意見もいただいて、ポスター、パンフレットおよびリーフレットを作成するとともに、新聞広告およびWEB広告、SNSによる周知・啓発を実施
⑶過重労働対策などに取り組んでいる企業の周知○労働安全衛生に関して積極的な取り組みを行っている企業を認定、企業名を公表
3―2 大学・高等学校などの学生などへの労働関係法令などに関する啓発の実施
○文部科学省と連携しながら大学・高等学校などの学校への啓発として、講師派遣などを実施
3―3 長時間労働の削減のための周知・啓発の実施
○「過労死等防止啓発月間」(11月)に、過重労働解消キャンペーンとして、以下の取り組みを実施
①使用者団体や労働組合に対し、長時間労働削減に向けた取り組みの周知・啓発などの実施に関する協力要請
②全国の都道府県労働局長が長時間労働削減に向けた積極的な取り組みを行っている企業(ベストプラクティス企業)を訪問し、取り組み事例を報道などにより紹介
③過労死などを発生させた事業場などに対する重点監督
④⑤省略
3―4 過重労働による健康障害の防止に関する周知・啓発の実施
○「過重労働による健康障害を防止するため事業者が講ずべき措置」の周知
○大綱の内容を紹介するパンフレットにおいて、事業者の取り組みのほか、睡眠時間を確保し、生活習慣病の予防など健康づくりに取り組むことも重要であることを盛り込み、周知啓発を実施以下、省略
3―5 勤務間インターバル制度の推進
○29年5月から検討会を開催し、30年12月に勤務間インターバル制度導入に向けたポイントなどの取りまとめ
○29年度に新設した勤務間インターバル制度を導入する中小業への助成金の活用
3―6 働き方の見直しに向けた企業への働き掛けの実施および年次有給休暇の取得促進
⑴業界団体や企業への働き掛け
○業界および地域のリーディングカンパニーを訪問し、各企業のトップと意見交換を実施
⑵ポータルサイトの運営による情報発信
○「働き方・休み方改善ポータルサイト」において働き方・休み方改革に先進的な取り組みを行っている企業の取り組み事例の紹介
⑶働き方・休み方改革シンポジウムの開催以下、省略
⑷時季を捉えた年次有給休暇取得促進
○年次有給休暇取得促進月間(10月)に加え、夏季、年末年始およびゴールデンウイークに集中的な広報を実施⑸地域の特性を生かした休暇取得促進のための環境整備
○地方都市において、関係労使、地方自治体などの協働による協議会を設置し、地域のイベントなどに合わせた計画的な年次有給休暇の取得について、企業・住民などに働き掛けを実施
3―7 メンタルヘルス対策に関する周知・啓発の実施
○働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」を運営し、メール相談、電話相談を実施
○企業向けにストレスチェック制度サポートダイヤルを開設し、相談対応を実施
3―8 職場のハラスメントの予防・解決のための周知・啓発の実施
⑴職場のパワーハラスメントの防止対策
○30年3月に「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」報告書を取りまとめ、その中で、職場のパワーハラスメントの概念や対応策として考えられるものを整理⑵パワーハラスメント防止対策についての周知啓発と労使に対する取り組み支援
○ポータルサイト「明るい職場応援団」の運営、セミナーの開催による情報提供
○パワーハラスメント対策導入マニュアルの周知
⑶その他のハラスメント対策省略
3―9 商慣行・勤務環境などを踏まえた取り組みの推進
⑴トラック運送業
○トラック輸送における取引環境・労働時間改善協議会における対策の検討、自動車運送事業の働き方改革の実現に向けた政府行動計画に基づく取り組み
⑵教職員 省略
⑶医療従事者 省略
⑷情報通信業
○検討委員会の開催、セミナーの実施、自社診断ツールの作成、IT業界における仕事の受発注時に気付いてほしいポイントをまとめた物語風の動画「日本現代話」の作成
⑸建設業
○働き方改革に関する関係府庁連絡会議における対策の検討、建設工事における適正な工期設定などのためのガイドラインの改訂、新・担い手三法の改正
3―10 若年労働者、高年齢労働者、障害者である労働者などへの取り組みの推進
⑴若年労働者への取り組み
○中小規模事業場の若年労働者に対するセルフケアを中心とした、メンタルヘルス教育の実施
⑵高年齢労働者への取り組み
○30年6月に高年齢労働者に配慮した職場環境の改善などの取り組み事例を記載したマニュアルの取りまとめ⑶障害者である労働者や傷病を抱える労働者への取り組み
○ガイドラインの作成、疾患別留意事項および企業・医療機関連携マニュアルの作成
○シンポジウムの開催
3―11 公務員に対する周知・啓発などの実施以下、省略
詳細はこちらを参照。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000138529.html
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