内海青果
青森県青森市
八百屋で一番になる
青森県の県庁所在地で、豪雪地帯としても知られる青森市。内海青果はこの地で青果卸売業を営んでいる。創業は大正2(1913)年で、市内の老舗呉服屋に生まれた内海利三郎が独立し、生活用品の店を開いたのが始まりだった。「当初は、まきや炭といった生活必需品を売っていました。いわゆる何でも屋で、お客さまからの要望を聞いているうちに、野菜や果物も売るようになっていったようです」と、四代目社長の内海弘次さんは創業当時を語る。昭和6年に青森商工会議所が発行した商工人名録には「蔬菜(そさい)、乾物、食料品 内海利三郎」という記述があり、いわゆる何でも屋から徐々に食料品を主に扱う店になっていったようだ。
昭和18年に初代が亡くなると、長男の勇市が二代目として後を継いだ。そして戦争が終わり、勇市は野菜の販売に力を入れていくようになる。このときに勇市が付けた店の名前が「八百一」だった。「野菜がどんどん売れていくようになり、野菜の販売を本業にすることにしたのです。八百一という名前は、やるからには八百屋で一番になろうということで名付けたようです」
勇市はそれから、さまざまな新しいことに取り組んでいった。当時は青森でほとんど知られていなかったレタスのことを知ると、背負子(しょいこ)を担いだ女性を雇い、夜汽車で16時間かけて東京の市場まで行かせるようになる。そこで仕入れたレタスは、市内のレストランに卸していた。「レタスに限らず青森では珍しい野菜を仕入れていくようになり、よく売れました。ただ、ひと一人が運んでこられる量などたかが知れているので、それほど割に合うものでもない。先々のものをうちが最初に扱うことによって、商売の上でリードしていこうと二代目は考えたようです」
三輪オートを導入したのも青森市内では八百一が最初で、それを使って顧客に配達サービスを始めたのも最初だったという。
商売の勢いを継続させる
勇市は商売が順調に伸びていくと、後に三代目となる娘婿に現場を任せた。自分は青森市青果商業協同組合の初代理事長となり、市の青果業全体の発展に貢献していくことになる。
「三代目の清治が私の父です。商売はすでに軌道に乗っていたので、父はその勢いを継続させていくことに力を注ぎ、新しいことには手を出さず、商売を手堅く拡大していきました」 そんな父親から学んだことは多いと内海さんは言う。「先代はお客さまの要望にはなんでもすぐに応えていました。それがキュウリ1本の注文でも、すぐに持っていかせた。毎朝早いのに、夜遅くまで電話での注文も自分で受けていました。お客さまの声をちゃんと聞かなくちゃいけないのだと、留守番電話を使おうとはしない。そのようにして常にお客さまの要望を自分でチェックしていたのです」
11年前に三代目が亡くなると、外で働いていた弘次さんの長男明穂さんが家業を手伝うために戻ってきた。弘次さんの妻であり会社の専務を務める久香さんはこう言う。「八百屋の仕事は大変です。息子にはこんな苦労をさせたくないと夫と話していて、後を継げとは言っていませんでした。でも、先代が亡くなり、本人が自分の代でつぶすわけにはいかないと、戻ってきたのです。それからは親子3人で力を合わせ、これから先も店を続けていく張り合いが出てきました」
青森の野菜を全国へ
青果の小売店は厳しい状態にある。スーパーが増えたことにより八百屋で野菜を買う人が減り、小さい店はどんどん減っていった。「以前は青森市内に300店舗くらいありましたが、現在は40店もない。自分たちで何か仕掛けていかないと、老舗でもつぶれてしまいます。ほかが真似できない、何か強い売りになるものはないかと、いろいろ試していきました」と内海さんは振り返る。
そこで出合ったのが、青森市が音頭を取って進めている「あおもり魅力野菜プロジェクト」、略称「アオベジ」だった。これは青森市の新たな特産物を育てることを目的としたもので、市内の農家が青森の伝統野菜や、イタリア野菜を中心とした日本ではまだ珍しい西洋野菜を栽培している。内海青果では2年前からその販路開拓と流通・販売を担当している。
今では常時注文がある飲食店が300軒を超し、東京や大阪へも出荷している。「青森なら暑い夏になっても収穫できるのが強み。昨年7月にはアンテナショップとして直販店もオープンしました。まだ始めて間もないのですが、リピーターも増え、手応えを感じています」と内海さんは自信を持って語る。
2年後の夏に開かれる東京五輪でも、アオベジの需要を見込んでいる。青森の野菜にこだわる内海青果の挑戦はまだまだ続く。
プロフィール
社名:株式会社内海青果
所在地:青森県青森市大字筒井字八ツ橋1406-1
電話:017-728-1155
代表者:代表取締役社長 内海弘次
創業:大正2(1913)年
従業員:25人
※月刊石垣2018年5月号に掲載された記事です。
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