大西事務
兵庫県加古川市
酒屋から事務用品販売に転換
瀬戸内海の播磨灘に面した兵庫県加古川市にある大西事務は、パソコン関連機器の店頭・通信販売や修理・技術サポート事業などを展開している。隣の高砂市で明暦元(1655)年に創業し、最初は雑貨商を営んでいたという。
「古い記録がほとんど残っておらず、代々伝わってきた話からその年を創業年にしています。一番古い記録は明治半ばからで、そのころは酒屋をやっていました。高砂は昭和の初めくらいまで港町として今より栄えていたんです」と、二十代目当主の大西定良(さだなが)さんは語る。当時は高砂市と加古川市の間を流れる加古川の内陸部の産品が船で高砂の港に運ばれ、そこから瀬戸内海を通じて上方を中心に各地に運搬されていたという。
「商売は繁盛していて、イギリスから輸入した高価な自転車に乗って営業に回っていました。でも、それまでにはいろいろと上がり下がりの波もあったのだと思います。古いものが残っていないのも、上り調子のときに蓄財してきたものを、下り調子のときに売り払ってしまったからでしょうね」
そして、高度経済成長期の昭和30〜40年代にかけて周囲の状況が大きく変わってきた。海岸が埋め立てられてできた工場地帯に多くの工場が進出してきたのだ。
「それ以前からお酒以外の注文も受けていたようですが、まちが工場地帯になり、会社やそこで働く人たちへと商売対象が変わっていきました。それでお酒よりも文房具の扱いが増えていき、事務用品の会社になっていったのです」
そしてここから、会社の方向性が大きく変わっていった。
事務機器からパソコン販売へ
昭和38年に大西事務株式会社として法人化し、主力商品を酒類から事務用品へと移していったが、しばらくするとまた新たな商品を取り扱うようになった。コンピューター関連商品だ。「昭和60年代、親族の会社が事務処理をコンピューター化することになりました。私の父である先代の社長がそれを見て、これから会社の業務はコンピューター化される時代になると考え、コンピューター関連商品の販売も取り入れていったのです」と大西さんは言う。昭和60年代すなわち1980年代半ばは、ウインドウズ95の登場により日本にパソコンが普及していくより10年も前のことである。
「最初は、電算処理に使うパンチカードなどの消耗品が主でした。それからフロッピーディスクの需要が増えたのですが、製造する国内メーカーが少なかったので、台湾の工場と提携して現地の工場がOEM生産したものを日本に輸入して、自社ブランドで販売店に卸す業務を始めました。そのうちに関連するフロッピーディスクドライブのようなハードウエアも取り扱うようになり、それからだんだんとパソコン本体を取り扱うようになっていきました」
そこに出てきたのが前述のウインドウズ95である。まだパソコン店が少ない時代だったため、店には大勢の客が来るようになった。「当時は商店街の小さな店だったので、通りに大行列ができてしまうほどでした。このままでは他のお店に迷惑をかけてしまうので、今の場所に店を移転しました」
サービスを主体とした会社に
もともと卸売業が中心だったため、平成10年に移転した新しい店舗の小売りでは、ディスカウントストアのような形で、数多くの製品を格安で販売していった。そのため近隣だけでなく遠く離れた京都や岡山からも多くの客が押し寄せた。しかし、周囲に大型量販店ができて競争が激しくなると、売り上げが落ちていった。「価格面のメリットだけで売れる時代は終わり、生き残っていくために始めたのが顧客ニーズへの対応でした。サポートサービスを求めるお客さまからの要望は以前からあったのですが、卸売業の片手間に小売りをやっていたので、そこまで手が回らなかった。そこで22年に私が社長になってからはサポート面に力を入れ、今では収益の半分以上をサービス関連が占めるようになっています」
酒屋から事務機器販売、そしてパソコン関連機器販売に転換していったのは需要の変化に対応した結果であり、そこから顧客サポートにシフトしていったのも、やはり顧客ニーズの変化を受けてのことだったと大西さんは言う。
「将来どのような商売をしているかは分かりませんが、扱う商品は変わっても、商人イズムは変わらない。これまで続けてこられたのも顧客ニーズを現場主導で拾い上げて対応してきたからです。これからもそれを続けていきます」
時代の変化が速くなっている現代、ニーズの変化を見極め、素早く対応していくことも、長寿企業には求められている。
プロフィール
社名:大西事務株式会社
所在地:兵庫県加古川市尾上町今福405-2
電話:079-420-9801
HP:http://webshop.ohnishi.ne.jp/
代表者:大西定良 代表取締役社長
創業:明暦元(1655)年
従業員:27人
※月刊石垣2018年3月号に掲載された記事です。
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