端正な顔立ちにスリムな体。美しい容姿だけでなく、役柄になりきる高い演技力でファンを魅了する宝塚歌劇団雪組男役トップスター、早霧せいなさん。平成26年9月にトップスターに就任したばかりだが、その言葉の端々からトップスターとしての自覚が感じられた。
一つひとつの積み重ねが現在につながった
長崎県佐世保市出身。自然に恵まれたまちで生まれ育ち、幼いころから「外で遊ぶ活発な子だった」という早霧さん。彼女が宝塚歌劇団という存在に出合ったのは中学生のときだ。
「中学生のとき、添削式の通信教育講座を受けていたんです。その付録として毎月届く冊子の中に〝特殊な職業〟を紹介する連載があって。ある月のそのコーナーで〝世界でも数少ない女性だけで演じる演劇集団〟というようなフレーズと、舞台化粧をされた真矢みきさんの写真が載っていたんです。そのときの衝撃がすごく大きかった。それが宝塚との出合いです」
当時、男役トップスターとして活躍していた真矢みきさん。彼女の写真自体が「今まで見たことのないインパクトがあった」(早霧さん)ということもあるが、何より〝世界で数少ない〟存在、これが早霧さんの琴線に触れた。
「女性だけが演じる演劇が存在するということを、そのときに初めて知って、まだ中学生の私にはとても印象的でした。それに、世界でそこしかないということ。当時、特に夢を持っていなかった自分にとって、宝塚に入ることが目標の一つになった瞬間です」
夢がかない平成11年、第87期生として宝塚音楽学校に入学。2年間の厳しいレッスンを経て、平成13年に宝塚歌劇団に入団した。『ベルサイユのばら2001』で初舞台を踏むと、その後も着実にキャリアを積み重ねていく。18年、若手生徒のみが出演し、スターへの登竜門ともいわれる新人公演『NEVER SAY GOODBYE―ある愛の軌跡―』で初主演を果たす。そして、一歩一歩トップスターへの階段を登り始める。
「同期の中で特別成績のいい方ではなかったです。最初から自分がトップスターになるという感覚はありませんでしたし、〝なりたい〟とか〝なれる〟という確信があったわけではありません。ただ、新人公演で主役を演じて以降、責任のある役や、ソロパートを頂けるようになりました。与えていただいた公演を一つひとつきちんと演じていった結果、今の場所にたどり着いたという感覚ですね」
伝統に甘んじることなく常に攻め続けたい
そんな早霧さんのトップスターお披露目公演は平成27年、『ルパン三世―王妃の首飾りを追え!―/ファンシー・ガイ!』だった。この公演は新年初演、さらには宝塚歌劇団の創立101年目のスタートを切った重要な公演でもある。世代を越えて多くの人に愛される『ルパン三世』を、伝統ある宝塚がミュージカル化するということもあり、宝塚ファンのみならず日本中の話題を集めた。主役のルパン三世を演じた早霧さんにとっては、今まで演じてきた中で一番話題性のある舞台だった。
「正直、『ルパンをやる』と言われたときは不安だったし、衝撃的でした。もちろん皆さんが知っている作品だという強みはあると思いました。でも、それが必ずしも宝塚の世界でプラスになるとは思えませんでした」
宝塚には100年間、積み重ねてきた伝統がある。応援し続けてくださった人やファンは、ルパン三世という新たなチャレンジを受け入れてくれるのだろうか――。しかしそんな不安は、稽古を進め、ルパン三世という役柄をつくり上げるうちに消えていったという。
「ルパン三世を演じることがすごく楽しくなってしまって(笑)。彼のキャラクターは、意外と男役にハマりました。新年最初の公演だったことや自分のトップお披露目と重なってしまったことで、最初はプレッシャーというか、意識をしていたのは事実だと思います。ですが途中からは、ただひたすら一つの作品をつくる、といういつもの姿勢に戻れました」
ひたすら一つの作品をつくる。役づくりへのストイックな姿勢、役になりきるための高い集中力を保ち続けること。これが早霧さんの魅力の一つだといえる。
「稽古もそうですが、〝これは難しいな〟という課題にぶつかったときは、私はそのことが常に頭から離れなくて。だから、困難を乗り越えるヒントがどこかに転がっているんじゃないかと常にアンテナを張っています。ただ、それにずっと集中して考え続けるという感覚ではなくて、常に頭のどこかにあるという感覚です。そのせいか、あまり真剣に考え込んでいるときより、ふとした瞬間、寝る間際や朝、目が覚めて歯磨きをしながらとか、そういうときにふと思い浮かびますね」
長年、日々のトレーニングや公演を積み重ねる中で得てきた経験が、課題を乗り越えるヒントや新しいアイデアにつながっている。そして、宝塚歌劇団101年目に現役トップスターでいるからこそ、かみしめている幸せもあると早霧さんは言う。
「100年の歴史、支えてくださった人や愛してくれた人の存在の大きさを、あらためてすごいなと思いつつ、そこに甘んじることなく新しい挑戦として『ルパン』があったわけです。自分もその姿勢を忘れたくありません。守りに入るのではなく、常に攻めていきたいです。でも、それはちゃんと伝統を受け継いでいこうという基本の気持ちがあった上で、です。宝塚は宝塚でなければならない。でも殻に閉じこもっていては時代に取り残されてしまう。時代の風を感じつつ伝統を大切にするというのは、すごく難しいことです。でも、その難しいチャレンジを繰り返してきたからこそ、宝塚はこうして101年目を迎えられたのだと思います」
早霧さんは宝塚の一員として、そして一人の舞台人として常に〝挑む〟気持ちを忘れないでいきたいと笑顔を見せた。
トップスターだからこそできることがある
今月から、福岡県・博多座で公演を行っている。演じているのは『星影の人―沖田総司・まぼろしの青春―』の主役・沖田総司だ。
「実在の人物であり、男性女性の両方から人気のある役なので、演じる上で楽しみでした。それに、実は昔から『星影の人の沖田総司を演じたら似合うと思うよ』と、先輩やファンの方から言われていたんです。そんな役を地元・九州でできるというのは、うれしいです」
コンビを組むトップ娘役、咲妃みゆさんも九州・宮崎県の出身ということもあり、今回の〝凱旋公演〟には注目が集まっている。
「地元の近くで公演するとなると、幼いころからの素の自分を知っている人たちが観に来てくれるわけです。そこでキザなセリフを言ったり、真剣な愛の告白をしたりとなると、どこか恥ずかしいですが(笑)、より力が入りますね」
自身のキャリアの中でも大きな意味のある公演を経て、少しずつ意識も変わってきた。トップスターになって、一番感じていることは「自分が発する言葉の大きさ」だと早霧さんは言う。
「自分の言葉は、もちろん雪組の組子(組に所属する生徒)にストレートに伝わるし、私の言葉を〝皆が待っているな〟という気もします。自分が何をしたいのかということを示すという姿勢が常に周囲から求められていると感じますし、逆に言うと自分もそうだったな、と思うんです。あらためて、トップスターを頂点にしてピラミッドが成り立っていること、これからもこの形は変わらず受け継がれていくんだと実感しました。人が代わっても中に伝わっているものはずっと変わらないな、と思っています」
その上で、トップスターにしかできないこと。それは、影響力があるからこそできることだ。
「トップスターという役割でいるということは、このようにメディアに出させていただいたりして、いろいろな人に自分の意見を聞いていただけるということです。そういう立場だからこそ、自分が何をしていけるのか、役割が何なのかを常に考えていきたいと思っています」
今後目指していきたいのは、宝塚歌劇団をより多くの人に知ってもらい、そして会場に足を運んでもらうということだ。
「近年、宝塚自体の知名度はグンと上がっていると思います。それでも、まだ『女性だけが観にいくもの』というイメージを持っていらっしゃる方が多いようにも感じます。でも、そんなことはない。ベルサイユのばらだけでなく、ルパン三世も、星影の人のようなものだってある。公演のレパートリーは本当に多彩ですし、その出演者は全部で400人近くいます。応援したくなるような生徒がきっといるはず。ぜひ実際に劇場へ足を運んでいただいて、生の公演を一度体感していただきたいですね」
そのために看板として、宝塚の顔として、きっちりと責任を果たしていきたい――気負わずに見せる爽やかな笑顔には、確かな責任感と強い意志が溢れていた。
早霧せいな(さぎり・せいな)
宝塚歌劇団・雪組男役トップスター
9月18日、長崎県佐世保市生まれ。身長168cm。平成13年、宝塚歌劇団に入団。18年、スターへの登竜門ともいわれる新人公演で初主演を果たすと、以降も着実にキャリアを重ね、26年9月、雪組トップスターに就任。27年1月に行われた『ルパン三世―王妃の首飾りを追え!―/ファンシー・ガイ!』にてルパン三世を熱演した。
写真・清水 信吾
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