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こうしてヒット商品は生まれた! 塩パン

細長いバターロールのような見た目だが、香りと食感はまるで別物。1個77円(税込)

愛媛県八幡浜(やわたはま)市と松前(まさき)町に、スペイン石窯工房「パンメゾン」を展開しているハチキョーベーカリー。平成16年に同店が販売を開始した「塩パン」がじわじわとファンを増やし、今では全国区の知名度を得るまでになっている。一見何の変哲もないシンプルなパンが、これほどの人気商品となるまでの長い道のりを追う。

社名復活を夢見て小さなパン屋を始める

今や全国各地で製造販売されている塩パン。その元祖は、愛媛県八幡浜市にあるベーカリー・パンメゾンである。同店の塩パンは、小麦粉、バター、塩を主材料とし、「外側はパリッと、下はカリカリ、中はもっちり」と三つの食感が同時に味わえるのが特徴だ。クロワッサン風ともバターロール風ともいえる見た目ながら、ほどよい塩加減と豊かな風味がクセになり、連日行列ができるほどの人気商品へと成長した。

パンメゾンを運営するハチキョーベーカリーは、もともと四国有数のパンメーカーで、主に学校給食向けのパンの製造や、スーパー・小売店などの卸をしていた。ところが徐々に経営が悪化し、1980年代後半に全国的に知られる大手メーカーのフジパンと合併。社名存続の下で再出発したが、ほどなく「四国フジパン」(現中国フジパン)に統一され、改称を余儀なくされた。「私は東京の大学を卒業後、八幡浜に戻って父が経営するハチキョーベーカリーに入社したので、会社に強い思い入れがありました。その社名がなくなり、だんだんやる気を失いましてね。独立して市内に小さなパン屋を始めたんです。父からは猛反対され、『勘当だ』とまで言われたんですが、いつしか店を大きくして、再びハチキョーベーカリーの看板を掲げるのを夢見て、朝から晩までパンを焼き、新商品の試作に明け暮れました」と社長の平田巳登志(みとし)さんは当時を振り返る。

平成9年にオープンしたパンメゾンの主力商品はメロンパン。メロン生地が周囲に垂れて帽子のつばのような縁ができ、そこが「クッキーのようにサクサクしておいしい」と評判になって、すぐに固定客を獲得する。順調な滑り出しで、翌10年、念願だったハチキョーベーカリーを復活させた。

夏場でも食べたくなるパンをつくりたい

地域に根ざした同店の経営はまずまずだったが、夏場に売れ行きが落ちることが唯一のネックだった。暑くても食欲をそそるパンを模索していた矢先、塩味のフランスパンが売れているという噂を耳にする。とはいえ、フランスパンのように固くては子どもやお年寄りに敬遠され、売上につながりにくい。

「そこで着目したのがバターです。パン生地にバターを巻き込んで焼くと、溶けて中に空洞ができ、柔らかくもっちりした食感になる。そこでどんどんバターを増やしていき、生地に対してある割合の量を配合して焼いたら、溶け出したバターが鉄板に溜まって、パン生地の下の部分がフライされてカリカリになったんです。外側はパリッと、中はもっちり、下はカリカリという今までに経験のない新食感のパンが偶然できてしまいました。『これはうちの看板になる』と直感しました」

パンの表面にまぶす塩は、普通の食塩だと溶けてなくなってしまうため、世界中の塩を取り寄せては、粒の大きさやパンとの相性を探った。その結果、ある地方の岩塩をハンマーで砕いたものが最も適していることを見いだす。16年9月、とうとう商品が完成し、「塩パン」の名で販売を開始した。

ところが、売れ行きは芳しくなかった。シンプルなパンだけに、客は見た目が似ていて10円安いバターロールを買っていく。あまりに売れ残るため、試食を出したところ、「おいしいと言ってもらえるが、売れない」(平田さん)日々が続いた。「当店では通常、1週間たっても売れ行きの悪いパンはもう出しません。それでも塩パンを止めなかったのは、パートさんや友人が『これは絶対に売れる』と言ってくれたことや、私自身も『今まで食べたことのない味』に自信があったから。いつか必ず売れると信じて店に並べ続けました」

口コミが広がり全国区の知名度に

商品が売れ始めたのは、発売から4年たった20年ごろのこと。店から近い八幡浜市魚市場や、市場に隣接する「どーや市場」で働く人たちが買いに来るようになり、「塩分がいい」「仕事の合間に手軽に食べられて便利」との評判が広がった。また、部活帰りの高校生たちが買い食いしていくようになり、午後7時の閉店に間に合わないときは、代わりに母親が買いに来るようになる。そこから主婦の口コミも加わって、松山や近県から買いに来る客が増え、一日に400個ほど売れるようになった。

それを聞きつけた地元メディアが紹介すると、さらに売れ行きが加速。とうとう23年にNHKの情報番組「あさイチ」が取り上げるや、一気に知名度が全国区となり、売れ行きは一日1500~2000個に増加した。

「はじめは朝7時開店にするつもりだったんですが、『それでは通勤・通学に間に合わない』と友人から助言され、6時半開店に変えました。おかげで、多いときで一日3~4000個出るようになり、一時平日は一人10個、休日は5個までと数量制限したほど。でも、わざわざ遠方から来てくれる方に申し訳ないので、25年に松山市に隣接する松前町に2号店を出し、ようやくお客さまのニーズに応えられるようになりました」

発売から10年以上のときを経て、不動の看板商品となった塩パン。商標登録ができないため、今では大手メーカーや全国のベーカリーが続々と独自の塩パンを売り出しているが、「つくり手が変われば同じパンはつくれない」と平田さんは意に介さない。

「聞けば、今では台湾や香港、韓国などでもつくられているらしいので、このまま世界の塩パンに成長してほしい。その発祥地として八幡浜が有名になってくれたらいいと思いますね」

会社データ

社名:有限会社ハチキョーベーカリー

住所:愛媛県八幡浜市北浜1-3-12

電話:0894-27-0348

代表者:平田巳登志 代表取締役社長

設立:平成10年

従業員:51人(パート含む)

※月刊石垣2016年1月号に掲載された記事です。

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