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こうしてヒット商品は生まれた! ピンニックスライト

針自身では刺さらなく白い部分を指先に当て、一定の力を加えると内蔵された針が飛び出し穿刺(せんし)することができる仕組み。1度飛び出たら2度と針は出てこないため、使い回しを防げる

平成14年、兵庫県西宮市に医療機器の開発で創業したベンチャー企業、ライトニックス。同社がおよそ10年の歳月をかけて生み出した世界初の植物由来の樹脂製ランセット針「ピンニックスライト」が、糖尿病を患う人から絶大な支持を受け、売上を伸ばしている。ランセット針が世に送り出されるまでの経緯を紹介する。

〝注射は痛い〟の常識を覆す

厚生労働省による最新の調査では、日本人で糖尿病が強く疑われる人は約950万人、可能性が否定できない人は約1100万人と推計されている。この糖尿病に苦しむ人々のうち、血糖値測定のための採血を毎日複数回しなければならない患者さんに絶大な支持を得ている〝痛みを軽減する採血針〟「ピンニックスライト」を開発したのが、従業員5人のベンチャー企業ライトニックスだ。

注射は痛い。従来の金属製の注射針では、いくら微細なものでも多少の痛みを伴う。それを毎日何度も行うとなると、その苦痛や煩わしさは相当なものだと容易に想像できる。

しかし、このピンニックスライトは、世界初の植物由来の樹脂製ランセット針だ。針先は薄箔状で、長さ0・9㎜、幅0・4㎜、厚さ約0・12㎜。独特の形状をしているため穿刺後ジーンとした痛みを残さない。また、一度使用すると針がケースに自動的に引っ込んで二度と出なくなるのと、針だけでは刺さらない仕組みとで、使い回しによる感染リスクを防いでいる。さらに、樹脂製なので焼却処理ができるため簡単かつ安全に後始末できる。

また、環境中の炭素循環量に対して中立(カーボンニュートラル)な植物性樹脂のため、CO2排出を抑制。個々に完全密封包装で減菌性も確保しており、「人体に安全で、環境に優しい」使い捨てのランセット針として国内の医療現場で高い評価を得ている。さらに、平成24年には、米国食品医薬品局(FDA)の認可も取得。25年からは米国でも販売が始まっている。同社創業者で会長の福田光男さんは「私自身、子どものころ注射が大嫌いでした。だから痛くない注射針をつくってみたいという思いがずっとあり、それが開発に乗り出すきっかけになりました」と説明する。

福田さんはかつて医薬品の会社でMR(医療情報提供者)の仕事をした後、医療機器の会社で内視鏡分野のプロダクトマネージャーをしていたが、探究心旺盛な研究者タイプだったことから、会社を辞めてベンチャー企業を14年に設立。〝痛くない針〟の開発に着手した。

刺されても痛みを感じない〝蚊の針〟に着目

注射の痛みを和らげるには、針をできるだけ細く、断面を小さくする必要がある。しかし、金属製だと細くするにも限界がある。そんなとき福田さんが注目したのは、蚊だった。

「ハチやブヨに刺されたときはチクッとするのに、蚊に刺されたときはほとんど何も感じません。考えてみれば不思議ですよね。それで蚊の針を調べてみると、先端部分がギザギザになっていることがわかりました。その凹凸により皮膚組織との摩擦が少なく、滑りがいいため痛みを感じないわけです。ただ、この形状をつくるのは金属では難しい。それに代わる強度としなやかさを併せ持ち、人体に安全な素材を探した結果、ポリ乳酸に行きつきました」

ポリ乳酸とは、デンプンからできる植物由来のバイオプラスチックの一つで、ジャガイモなどのデンプンを発酵させると大量に得られる成分「乳酸」がもとだ。丈夫で弾力性がある上に、もともと手術用の溶ける糸にも使われているので安全性が証明されている。

この特性を踏まえ、福田さんはギザギザの形状をつくる技術を模索した。微細かつ複雑な構造だけに、金型の製作は試行錯誤の連続だったが、射出成型技術者の協力を得て、半導体製造の際に光を照射して微細な回路パターンを転写するリソグラフィーや、超精密機械加工の技術に着目。小さな加工が困難とされてきたポリ乳酸を成形できる独自の方法を開発し、とうとう痛みの少ないランセット針を完成させた。

「何とか形はできましたが、医療機器として世に出すには品質や有効性、安全性などを証明しなければなりません。これにはいくつかの方法があり、手続きの比較的簡易な海外の認証機関に審査してもらって、短期間で製品化する手もありました。しかし当社はベンチャーですし、日本でつくった純国産の医療機器として認められたいという思いがあったので、さまざまなテストを繰り返し、丹念にデータを集めた上で、最もハードルが高いとされる厚生労働省に承認申請を行いました」

新たな製品展開にも期待が高まる

こうして10年にも及ぶ年月を経て、平成23年に承認を獲得。翌24年にようやく世に送り出し、医療機器の問屋を経て、医療機関に販売されていった。1個当たりの単価は安い海外製品の数倍もするが、実際に現場で使用した医師は同製品を絶賛。口コミが広がって、少しずつ取り入れる医療機関が増えていった。また、一度使うと「ほかのランセット針はもう使いたくない」という声も多く、調剤薬局から全額自費で購入する患者も少なくないという。

「現在までの累計販売数は200万個ほど。ランセット針の日本におけるシェアでいえば、0・1%くらいでしょうか。数にすればまだまだですが、今後さらにブラッシュアップを重ねて、患者の生活の質(QOL)向上に寄与したいです。また医療機器の場合、どれだけ画期的なアイデアでも、どう患者に安全に使用してもらうかをイメージしてつくらないと、審査に通りません。ですから、もし日本で医療機器をつくりたいという人がいたら、当社のノウハウを提供してもいい。そうして医療機器市場における国産品の割合を高めるのに貢献できたら」と福田さんは先を見据える。

人体に影響なく体内で分解される素材を使用した技術から、新たな製品展開も期待されている。例えば、患部に針ごと薬剤を注入することなどもその一つだ。同社では今、同製品の技術を応用して、感染症予防などに用いるワクチン接種用経皮投与針(針で傷つけた場所にワクチンを塗る)の開発にも乗り出している。福田さんの開発魂が、医療の現場を少しでも心地良い場所にしてくれることを切に期待したい。

会社データ

社名:株式会社ライトニックス

住所:兵庫県西宮市甲東園2-2-6

電話:0798-52-3594

代表者:福田萌 代表取締役社長

設立:平成14年

従業員:5人

※月刊石垣2015年12月号に掲載された記事です。

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