事例1 従業員のスキルアップと企業のイメージアップにつなげる
千疋屋総本店(東京都中央区)
セミナー受講よりもスキル取得が効果的
日本販売士協会会長の大島さんが社長を務める千疋屋総本店でも、12〜13年前から従業員に販売士の資格取得を奨励している。同社は江戸時代から続く日本初の果物専門店で、お得意さまも多く、ギフトとしてのニーズが高い。そのため店頭での接客時間が比較的長く、客から食べごろ、産地、品種など、細かい専門知識を要求される場面が少なくない。商品に関する知識は社内で教育するとしても、客への基本的なアプローチや個々の要望に沿った提案力、店内の商品ディスプレーなどにおいて、販売士の資格があるとないとでは大きな差があるという。
「当社ではまず新入社員に対して、7月に行われる3級試験の受験を義務付けています。準備期間は3カ月ほどしかなく、1年で最も繁忙なお中元シーズンとも重なっています。本人たちにすれば大変かもしれませんが、現場の仕事と並行して勉強した方が覚えがいい。新入社員が自分で勉強すると、セミナーなどを受講させるよりよっぽど効率的なんです」と大島さんは「受験効果」について語る。
同社では従業員が受験する際、受験料や勉強に必要なテキスト代を会社が負担。合格した人には3級が3万円、2級は5万円、1級は10万円の報奨金を支給している。現在、250人いる従業員のうち89人が3級を、20人が2級を取得している。
また、それ以外の資格取得もバックアップしている。
「例えば、江戸文化歴史検定に合格した場合にも報奨金を出しています。当社は歴史が古いので、お客さまとの会話の中に『創業当時はどんな果物が食べられていたの?』といった話題が出ることもあるんですよ。お客さまは商品だけでなく、店の由来や歴史、地域の文化などにも興味を持たれるので、幅広い知識に裏打ちされたコミュニケーション能力を身に付けてほしいという思いがあるからです」
販売員の知識と感性が顧客満足度を上げる
大島さんは資格取得の大きなメリットとして、販売員が仕事を楽しめることを挙げる。客の多種多様なニーズにも余裕を持って対応できるため、自信がついてモチベーションもアップする。すると仕事が楽しくなって、店にも活気が生まれる。また、同社で店長になるには最低でも3級、できれば2級の取得を求めており、資格は目に見える目標値となり得る。よい意味で従業員同士の競争意識が高まり、互いに切磋琢磨(せっさたくま)して目標をクリアしようとすることは、企業の成長の原点となる。
「当社は昔も今もフルーツ専門店という位置付けは変わっていませんが、扱う商品は変化しています。それは千疋屋=敷居が高いというイメージから脱却して、多くの人に気軽に来店してほしいからです。そこで当社の特徴を生かしつつ、手を伸ばせば届く価格の商品開発に力を入れた結果生まれたのが、生フルーツケーキやゼリーなどの加工品です。今ではそれらが売り上げ全体の約8割を占めており、果物主体だったころと比べて売り上げが5倍に増えています」
そうした経営スタイルの変化や売り上げ増を支えているのは、やはり販売員の知識と感性だという。商品を売っているのは現場の販売員であり、いくら商品がよくても販売員のレベルが低ければ、客は満足しない。そういう意味で、「販売士の資格でスキルアップしていってもらうことが、企業のイメージアップや成長に一番役立つ」と大島さんは言い切る。
同社はこれまで東京に限定した店舗展開をしてきた。近年では駅や空港にも店を出し、地方の百貨店の催事にも積極的に出店して、東京土産としての認知度を上げようと取り組んでいる。さらに今後は海外にも力を入れていく予定だ。すでにアジアにある日本の百貨店に、同社の焼き菓子やゼリー、ジュースなどの加工品が並んでおり、好評を得ているという。
「今後新たな事業展開のためにも、販売員だけでなく、営業や配送など、すべての従業員のスキルアップが欠かせません。まだ販売士の資格を取っていない従業員に対して挑戦を促し、全員取得を目指したい」と大島さんは締めくくった。
会社データ
社名:株式会社千疋屋総本店
所在地:東京都中央区日本橋室町2-4-1
電話:03-3241-8818
HP:https://www.sembikiya.co.jp/
代表者:大島博 代表取締役社長
従業員:250人
※月刊石垣2017年11月号に掲載された記事です。
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