事例2 資格取得で人づくりと売上増を達成
マルト(福島県いわき市)
福島県いわき市と茨城県に、スーパーマーケット、ドラッグストア、調剤薬局などを展開しているマルト。「人が成長すれば企業が成長する」という理念の下、社員に社内資格と社外資格の取得を促す。それを昇給・昇格と連動させることにより、社員一人一人のキャリアアップと会社の業績アップにつなげている。
販売士は商売に必要な‶計数〟習得に有効
明治25年に雑貨屋として創業し、昭和39年にスーパーマーケットへ業態転換したマルト。食と健康をテーマにした品ぞろえで店舗数を増やす一方、ドラッグストアや調剤薬局なども幅広く展開している。
そんな成長を支えてきたのが、独自の社員教育制度だ。「人が成長すれば企業が成長する」との考えから、長年にわたり“人づくり”に力を注いできた。その柱となるのが、社内外の資格取得だ。社内資格とは16科目からなる「トレーニー資格」で、売り上げ、粗利、経常利益など、商売に必要な計数の知識を中心に1年かけて学んでいく。同社の正社員は全員受けなければならない。修了後には学んだ知識や経験から立てた仮説と結論を100ページにも及ぶレポートにまとめ、社長の前でプレゼンする。その内容を評価し、合格するとトレーニー資格が与えられる。
一方、社外資格は販売士、スーパーマーケット検定(S検)、衛生管理者など。売り場担当者は販売士2級かS検マネジャー級、生鮮食品担当者には調理師かS検マネジャー級の取得を促している。
「例えば、商品の粗利率が頭に入っていれば、売り場で値引きロス率などが計算できます。知って売るのと知らないで売るのとでは大きな違いが出てきます。そうした計数の基本を身に付けるのに、販売士の資格取得は非常に効果的です。トレーニー資格の科目もその内容を参考に構成しています」と同社社長の安島(あじま)浩さんは説明する。
従業員の能力を最大限に引き出せば大手にも負けない
そもそも同社が社員教育に力を入れるようになったのは、設立から4~5年たったころだ。当時、赤字に転落した隣町のスーパーを引き受けたが、経営の立て直しを図ろうにも人材がいなかった。優秀な人材は皆、大手スーパーが採ってしまうのだ。
「当社に入ってくるのは在学中に部活動を一生懸命やってきた者、あるいは家庭の事情で進学できなかった者が多かったのです。しかし、私の考えでは学歴はさほど重要ではありません。入社後に教育すれば人は必ず成長する。今の能力が20だとしても、それを100まで引き上げることができれば、大手にも負けないはずです」
こうして同社は社内資格づくりに乗り出すとともに、販売士など社外資格の取得を社員に課した。そして「資格等級制度」を設けて、資格取得と昇給・昇格を連動させた。例えば、新入社員は皆1等級だが、トレーニー資格を取得したら2等級に上がり、毎月5000円の手当てが支給される。同様に販売士2級を取るとさらに1等級上がり、毎月3000円が支給される。仮に、高校在学中に販売士2級を取っていた場合、入社時は2等級で、トレーニー資格を取得したら3等級に上がり、最短2年で主任に昇格できる。基本給が上がるとともに、8000円の手当てが上乗せされるのだ。ほかにS検や衛生管理者などの資格を取れば、さらに手当てが増える計算になる。早い段階で資格を取るほど、収入に差が付く仕組みだ。この制度に高卒、大卒の区別はないため、仮に高卒者が早期に昇給・昇格を果たした場合、4年後に入社してくる同い年の大卒者の初任給より給料もポストも高くなるように設定されている。この制度の実践により、ほとんどの従業員がトレーニー資格を取得しているほか、現在5人が販売士1級、220人が販売士2級を取得している。
得た知識を部下に還元 ‶共育〟で管理職も成長
社員教育は新入社員だけではない。等級が上がって管理職になると、自己育成、数値、部下育成が評価の柱となる。今まで身に付けてきた知識と経験を業績に結びつけると同時に、部下の資格取得を後押ししたか、主任を何人育てたかなどが求められる。同社の教育制度は、身に付けた知識を人に教えることで自らも成長し、スキルアップする「共育」の上に成り立っているのだ。また、昇給・昇格の評価項目と基準が細かく規定されており、自分の頑張りが数値化できるようになっているのもユニークな特徴といえる。
「基準は設けていますが、基本的に評価は『○○(マルマル)主義』です。できないことに×を付けるのではなく、できたことに○を付けていく。何ができると○が付くか明確なので目標が立てやすく、やる気が出て、自信もつきやすい。また、できた人が評価されるので不公平感がなく、よい意味で競争意識が芽生えて、職場にも活気が出るなどいいことずくめなんです」
そう語る安島さんだが、人材育成には時間とコストがかかり、継続するのは並大抵ではない。この実践が同社にもたらしたメリットについて聞いてみたところ、こんな答えが返ってきた。
「かつて県内の雄と称された2つの大手スーパーのうち、1つはすでにありません。しかし、当社はこうして生き残っています。店舗数も順調に増え、社員教育を始めた当初23億円だった年間売り上げも、今では850億円になりました。これも資格取得による社員の成長の賜物(たまもの)だと自負しています」
会社データ
社名:株式会社マルト
所在地:福島県いわき市勿来町窪田十条3-1
電話:0246-65-5115
HP:http://www.maruto-gp.co.jp/
代表者:安島浩 代表取締役社長
従業員:2400人(タイム社員含む)
※月刊石垣2017年11月号に掲載された記事です。
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