IT化が叫ばれて久しいが、「どこから手を付けてよいのかよく分からない」あるいは、「うち程度ではまだ必要ない」という経営者の声をよく聞く。しかし、小さな企業こそITは大きな力になる! 会員企業のためにITの相談に積極的な商工会議所とITを導入して劇的に復活した旅館をリポートする。
事例1 もう理屈はいらん、行動や! ITの「?」を強力サポート
豊中商工会議所「ITコンシェルジュ」(大阪府豊中市)
IT支援に積極的に取り組んでいる豊中商工会議所。「ITの相談は商工会議所へ」を浸透させるべく、平成23年12月から「ITコンシェルジュ」サービスをスタートさせた。ITに関する多種多様な相談に迅速かつ丁寧に対応し、会員企業の生産性と仕事力の向上、そして商工会議所の存在価値を高める結果を生み出している。
問題を問題としていない環境に気付く
大阪府内で4番目の事業所数を誇る豊中市。しかし1万3632事業所(平成26年経済センサス基礎調査)のうち卸売業・小売業・サービス業が全体の半数を占め、従業員数19人以下の事業所が9割強を占めるまちだ。
「会員企業の方と向き合うことで抱えている問題の本質が見えてきます。その改善策を考えたときに、業種に限らずITは有力です」
そう語るのはITコンシェルジュの発起人である小早川謙一専務理事だ。昭和56年にはパソコン入門講座を実施するなど、IT支援の立役者であり、これまでの実績を基盤にしたうえでITコンシェルジュが誕生したと熱く語る。商工会議所内に「IT推進室」を設け、5名のコンシェルジュが相談や経営指導などのアドバイス(無償)から、出張サポートなどの実務を伴う作業(有償)までを行う。これがかなり好評だ。
コンシェルジュの一人、押川携IT推進室室長は言う。「『パソコンの動作が遅い』『画面表示がおかしい』というお問い合わせで企業に伺うと、システム環境そのものに問題があるということがよくあります。中小企業の場合、社内にSE(システムエンジニア)がいないケースがほとんどで、問題を問題と気付いてないことが多いのです。それが一番の問題であることをお伝えしています」
関心が高いのはクラウド関連 相談最多はセキュリティー
「ITコンシェルジュ」とは、つまり社外にいる頼れるSEといえる。主な支援メニューだけでも、クラウド関連やスマートフォン(以下スマホ)、タブレットの活用、ホームページ制作、パソコントラブル、セキュリティー、社内ファイル共有など多岐にわたる。なかでもクラウドは企業からの問い合わせが最も多く、それに伴って相談数が増えるのがセキュリティーだ。ウイルス、情報漏えい、スマホやタブレットの紛失・盗難など、対策事項が増幅する。そのため、ITを活用したいけれど、「よく分からない」「お金が掛かりそう」「特に困っていない」などを理由に現状維持となり、チャンスロスにもなってしまう。こうした現状に丁寧に向き合い、事態好転を促すコンシェルジュの存在は大きい。
「どこに相談していいか分からないという状況があるんです。例えば社内のネットワークシステムが遅いという問題に対し、ディーラーに問い合わせればシステム交換を促されるでしょう。しかし、その事業所の状況やニーズを汲み取ると、違う選択肢も見えてくるんです。何百万円も掛かる話が数万円で済むケースもよくあります」と小林聡彦さん。相談に対する提案内容や掛かるコストは、メーカー寄りか、事業所寄りかで大きく違うこともあることを分かりやすく注意喚起する。
電話だけではなく事業者と実際に会って話し合うこと。その積み重ねで築かれる信頼関係から、ITコンシェルジュの支援領域が広がっているという。
商工会議所だから企業価値を高められる
中元一廣さんは、「ハードウエアにもネットワークにも精通しているのがわれわれの強みです。大手通信社ともアライアンスをとっていますし、最新の情報やテクニカルサポートを提供できるよう日々努めています」と自負する。実際にITコンシェルジュにセキュリティーシステムを任せたいという企業からの要望も日に日に増えている。
「安易にコストの安価なものやシステムを提案するのではなく、それぞれの企業に合ったサービスの提供を常に考えています。今後はIoTやAI、ビッグデータのニーズも今以上に高まります。大手ディーラーやIT企業と連携し、さらにITコンシェルジュのマンパワー強化を図る予定です。目指すは〝コンシェルタント〟。コンシェルジュとコンサルトを併せ持つ支援を多角的に展開していきたいと考えています」(小早川さん)
IT支援に力を入れてから会員企業数は確実に増えているという。彼らの活躍の場は、ますます広がっていきそうだ。
Case study 〜支援でこんな効果も〜
移動販売+ITで会員数が増加
A―Luck
無農薬・低農薬野菜の移動販売店で、ネット販売との併用を考えていた。だが、既存のショッピングモールへの出店料や、利益率の低さなどで二の足を踏んでいた。そこでLINE登録とワードプレス(オープンソースのブログシステム)を使ったオリジナルショッピングサイトの開設を提案し、販売エリア外の顧客やリピーター獲得に結びつけた。会員登録するとLINEやメールから最新情報やお得な情報が届くサービスも功を奏し、現在会員数は2160人に上り、増加の一途だ。
実店舗を閉じても売上はアップ
神戸洋服
40年の実績あるオーダスーツ専門店「神戸洋服」。ホームページを開設したもののネットからのオーダーは伸び悩んでいた。解析してみると閲覧スピードの遅さ、デザインの見づらさがあり、スマホからのアクセス数が多いにもかかわらずレスポンシブ対応がされていなかった。ブランドイメージ、ターゲット層を整理し、Webデザイン、ユーザーの操作性をブラッシュアップした結果、売上が上昇。実店舗を閉じてネット販売のみにシフトした現在、実店舗があったときよりも売上を伸ばしている。
※月刊石垣2016年10月号に掲載された記事です。
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