中国の大手ネット通販サイトは「独身の日」と呼ばれるセール日に1兆7千億円もの売り上げを達成した。成長鈍化が指摘される同国だが、驚異的な購買力は健在だといえよう。日本国内でも中国の消費者を相手にネット通販に乗り出す中堅・中小企業が増えている。少子・高齢化に伴い、国内市場に大きな伸びを期待できない以上、海外に打って出るのは当然のことと考えられる。
▼だが、チャレンジする前に、少しの間だけ立ち止まって考えてみてほしい。インターネットを通じた販売では、不良品を売りつけられたり、企業側が計画倒産したりして、消費者が被害を受けるケースが相次いで報告されている。その一方で、企業が損失を被ることもあり得るのだ。分割販売の場合、支払いを終えないまま、買い手が自己破産などにより姿をくらまし、商品を回収できないことがあると聞く。「ネット通販のモールを通じて売っているし、クレジットカード番号が分かっているから大丈夫」と言っても、そのカードで大量に商品を買い込み取引停止になったら、どうなるのか。
▼あるいは購入をめぐるメールのやりとりでウイルスに感染。最も大切な顧客情報を奪われ、これがネット上に拡散すれば、企業側の責任が追及されかねないことを注意しておくべきだろう。大手企業ばかりでなく、日本企業が関連したサイトにサイバー攻撃が浴びせられる可能性も否定できない。
▼もちろん、日本製品の品質の良さと円安による価格競争力の向上が見直されている今、国外に販路を広げる好機だともいえる。その際、すでに進出した企業が経験したトラブル情報を収集し、十分な対策を講じた上で、本格販売に乗り出すのが望ましい。
(時事通信社監査役・中村恒夫)
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