事例2 城下町らしい伝統文化を体験・体感「モノ」+「コト」で魅力を発信
中町商店街振興組合(長野県松本市)
商店街にも地域にも魅力があふれ、地域資源もたくさんある。だが、十分に生かしきれず集客につながっていない。そう感じた中町商店街振興組合(長野県松本市)は、前例のないプロジェクトに果敢に取り組んだ。産学連携でインバウンド誘致に弾みをつけ、観光商店街として磨きをかける。力点を置いたのは情報発信と体験だ。
店の様子が分からずインバウンドは素通り
400年もの歴史ある城下町、長野県松本市。国のインバウンド政策の効果や、日本の歴史や文化に興味をもつインバウンドの増加で、国宝・松本城を訪れる数は毎年記録を更新し続けている。市内を訪れるインバウンドの数も比例して増加し、2019年度の宿泊客延べ数は19万7626人(長野県調べ)と過去最高記録をマークした。
そして、歴史を感じさせる城下町としての面影が今なお色濃く残っているのが松本城から徒歩圏内にある中町通りだ。
「私が子どもの頃は、周囲がどんどん近代化していくのを、指をくわえて見ていましたよ。どうしてうちの商店街だけ手つかずなんだろうって」。そう言って笑うのは、中町商店街振興組合の9代目理事長の佐々木一郎さんだ。
中町は江戸時代に酒造業や呉服などの問屋街として形成され、江戸時代末期と明治時代に2度にわたって大火に見舞われたことから、防火に優れたなまこ壁の土蔵づくりが多く建設された。そのまち並みは、組合が設立した1973年以降も〝蔵のあるまち〟として守られ、99年には電線類地中化、街路灯の変更、道路の拡張などを決定し、市内でも有数の景観を形成するまでに至る。連日多くの観光客でにぎわうストリートとなっているが、佐々木さんは首を横に振る。
「確かにインバウンドの多い商店街かもしれません。しかし、松本城目当てで、商店街は素通り。11年ごろからインバウンドの増加を肌で感じていたものの、本格的な対応はここ数年のことです」
商店街には、新旧のクラフトや雑貨店、ギャラリーが軒を連ね、クラフトのまち・松本をけん引するスポットとして、メディアで取り上げられることは珍しくない。だが、外国語の店頭掲示は少なく、個店の多くは間口が狭く奥行きが深い造りのため、店内の様子が外からは分かりにくい。とかくインバウンドは入店しにくかったという。
日本文化がテーマの体験体感型イベントが大盛況
国内外を問わず観光客が多く訪れるものの、それが商店街の集客に直結していない。そんな状況を打破すべく、組合では英語版の商店街ガイドマップをはじめ、商店街のホームページの英語サイトの充実、SNSでの情報発信、多言語で歓迎の言葉を掲載した共通の統一サインを作成し、各店舗に掲示してもらうなど、多言語による情報発信を積極的に進めた。
さらに「インバウンド対策のキーポイントになった」と佐々木さんが語るのが、2017年に開催した「中町・日本文化体験デー」だ。組合員を中心に26人が集まって中町活性化委員会を結成し、中町のランドマーク的存在の多目的施設「中町・蔵シック館」をメイン会場に、2日にわたるインバウンド対象の体験体感プログラムを実施した。無料で茶道、書道、扇づくり、折り紙、昔遊び(竹馬、こま回し、けん玉、お手玉など)を体験してもらい、さらに有料でオリジナル日本酒の試飲、着物の試着、忍者体験、人力車の乗車などを用意した。地元の新聞やテレビに事前にプレスリリースを送り、近隣のホテルや、松本城をはじめとした観光施設、近隣の商店街の個店にもチラシやポスターを配布した。その数100カ所以上に上る。
さらに、松本県ヶ丘(あがたがおか)高校の英語科の生徒40名が体験プログラムのサポートに加わるなど、地域連携、産学連携でイベントを盛り上げた。予定来場者150人のところ、約630人が訪れ、アンケート調査の結果では、プログラムの満足度100%の回答を得て、大成功をおさめた。
コロナ禍では情報発信と情報共有を密に対応
プロジェクトに尽力した一人、専務理事の松尾昭さんは言う。
「どのプログラムも5人ほどの少人数で、コミュニケーション重視にしたのが良かったと思います。体験の説明書やお手本などのツールを用意したり、待ち時間に簡単な昔遊びを勧めたり、複数のプログラムに参加していただき、滞在時間も1時間半から2時間と長く、十分楽しんでもらえたようです」
そしてこの成功が、会員の意識を変えていく。当初はインバウンド対策に無関心だったり、消極的だったりした店舗の何人かはインバウンド歓迎に転じ、組合の有志らで月2回、昼夜の二部制で英語の勉強会を開くなど、ボトムアップの変化が見られ始めた。さらに組合員の「小料理 いとう家」が、世界最大級の旅行コミュニティーサイト、トリップアドバイザーの、外国語の口コミ評価をもとにした「外国人に人気の日本のレストラン2018トップ30」に初ランクインするなど、〝素通り〟状態からの脱却の兆しが見えた。
だが、その矢先の新型コロナウイルスの影響で観光客は激減し、各店は休業かテイクアウトのみの営業を余儀なくされた。
「チラシやホームページだけではなく、SNSで『#負けない中町』のタグ付きで商店街の情報を随時発信しました。組合員向けには組合費を3カ月無料にし、感染対策や補助金についてまとめたニュースレターを、お店の状況に関するアンケート依頼とともに毎週、計5回送りました。商店街で使える金券を配布して消費と他店舗認知を促すなど、悩み、苦闘の日々でした」と語る松尾さん。それを受けて佐々木さんは、「緊急事態宣言解除後には、有志によるお弁当&スイーツの共同販売イベントを開催し、初日は販売してすぐ完売するほど大好評でした。3月末開催予定だった中世の中町へタイムトリップをコンセプトにした『復古(ふっこう)市』(仮)も、コロナからの復興の意味も含めて開催する予定です」と続けた。商店街の活気を取り戻すべく、試行錯誤しながらも歩を進めている。
会社データ
団体名:中町商店街振興組合(なかまちしょうてんがいしんこうくみあい)
所在地:長野県松本市中央3-2-14
電話:0263-36-1421
HP:http://nakamachi-street.com/
代表者:佐々木一郎
組合員:120人
※月刊石垣2020年7月号に掲載された記事です。
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