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テーマ別企業事例 緊急特集 第2弾 新型コロナウイルスに打ち克つ テレワークを導入して社員と職場を守る

日本をはじめ世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルス禍によって、大小を問わず‶職場閉鎖〟の危機に見舞われた企業も多い。そこで、職場内の感染予防とBCP(事業継続計画)の観点から、出社しなくとも自宅や本人の好きな場所で仕事ができるテレワークに注目が集まっている。本誌では、中小企業でも取り入れられる‶今、知りたい〟テレワークの導入から企業事例まで、分かりやすく整理し、緊急特集としてお届けする。

寄稿 テレワークが働き方改革とBCPに欠かせない理由

冨吉 直美(とみよし・なおみ)/一般社団法人日本テレワーク協会 主席研究員

冨吉 直美(とみよし・なおみ) 一般社団法人日本テレワーク協会 主席研究員 鹿児島県出身。富士ゼロックスで、システムエンジニアやソリューション企画などを経て、日本テレワーク協会へ出向。厚生労働省事業の体験型イベントやモデル就業規則、自治体事業を担当。福岡県にて完全在宅勤務や二拠点居住を自ら実践

中小企業のテレワーク導入率はなかなか上がらなかったが、パンデミック(世界的大流行)となった新型コロナウイルスの影響もあり、テレワークへの注目が一気に高まってきた。そこで、テレワーク導入を推進している一般社団法人日本テレワーク協会(JTA)の冨吉直美さんに、テレワークとは何か、何が変わるのかを解説してもらった。

Q.テレワークとは何か?

冬から、世界的に感染が広がっていた新型コロナウイルス対策で、在宅勤務が注目されています。4月には政府から出勤7割減が要請され、休む以外では在宅勤務しか選択肢がなかったからです。テレワークとは、「情報通信技術(ICT=Information and Communication Technology)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方」です。自分の本拠地(勤務先)から一歩でも出ればテレワークになりますので、在宅勤務だけではなく、モバイルワーク、サテライトオフィス勤務、コワーキングスペース利用もテレワークになります(図1参照)。

Q.テレワークで何ができる? 何が変わる

日本の労働人口は、少子高齢化でこれから減り続けます。また、仕事はどんどん高度化し人を育てる余裕もなくなります。これからは人の活用が重要になってきます。育てた人を辞めさせないようにする、企業力を上げて優秀な人材を集める、本来の業務以外は外部を活用するなど、中長期的視点に立った場合、人の活用にどう取り組んできたかが競争力の違いになります。

テレワークを導入すれば生活(育児・介護・治療)との両立ができますので、離職防止につながります。今の若者は制度が整っている企業を好む傾向があるので、人材が集まってくるでしょう。また、副業兼業をしている人の採用やクラウドソーシング(※1)利用により、外部の優秀な人材を活用できます。

日本は、生産性が他の国に比べると低いことが指摘されています。同質性を武器とした大量生産時代のやり方が通じなくなり、今は、ITの進化とともにイノベーションをいかにつくるかが求められています。仕事に集中する時間と、人と関わりながら仕事をする時間を明確に分け、それぞれの生産性を上げる必要があります。生産性は、労力と投入物(インプット)を小さくして無駄を省くだけでなく、価値(アウトプット)を新しく生み出す方が、これからの時代は重要になってきます(図2参照)。

ある事例では、テレワーク導入後2カ月では、「業務に集中できる」「ワークライフバランスが向上した」という声が多かったのですが、8カ月経つと、これに加え「計画的かつ段取りよい業務遂行が促進された」「場所にとらわれない自由な働き方により自由な発想が生まれた」という意見も多くなりました。

いろいろな人が働く環境をつくること(ダイバーシティー経営)で、価値観が混ざり合い、アイデアなど(アウトプット)を新しく生み出す機会が増えます。そのためには、誰でも自分の都合にも合わせて働ける柔軟性のあるテレワークを導入する必要があるのです。

Q.テレワークがBCPとして有効な理由とは?

テレワークは、前述の離職防止・優秀な人材の採用、外部人材の活用、生産性の向上だけではなく、今回発生した新型コロナウイルス対策のようなBCP(Business Continuous Plan=事業継続計画)でも効果があります。地震、台風、積雪、大雨、パンデミックが起これば、出社できるとしても無駄な時間をかけて出社することになります。昨今では‶想定外〟という言葉が使われなくなるぐらい毎年災害が発生しています。それは誰にも予測できません。よって、経営者としては、災害が発生した時にもビジネスを止めない対策をあらかじめ打っておく必要があります。パソコンとネットワーク環境さえあれば、どこでも仕事ができるので、企業にとってはテレワークが災害に備えたBCPとしても重要となります。

テレワークの効果は、図3をご参照ください。

Q.テレワークに向いている企業とは?

新型コロナウイルス発生前のデータでは、大企業の方が導入率が高く、製造業や対面でサービスを提供する業種は、厳しい状況です(図4参照)。

業務内容によりテレワークできないという不公平感に関しては、ある製造業では、マルチスキル化し、テレワークできる業務を集約して、交替で在宅勤務したという事例があります。

今後、さまざまな技術革新が進みSociety 5・0(※2)という時代が来るといわれています。そうなると、ロボット化、AI化、IoT化で自動化や遠隔操作での業務遂行が可能になり、今よりもさらに働く環境は変わることが予測されます。現状では、テレワークが厳しい製造業や対面でサービスを提供する業種でも、技術が進めばその場所にいなくても仕事ができるようになるかもしれません。テレワークはやがて始まるであろう、新たな働く環境の入り口です。

業種により、技術革新が起こるまでは、十分に取り組めないこともありますが、IT化は今後全ての業種に広がっていくことが予測されます。どうすればテレワークができるかを企業内で話し合い、工夫しながら今できるところから、取り組むことをお勧めします。

Q.テレワーク導入の費用は?

企業がテレワーク導入する際には図5の通り、四つの要素を検討します。この中で就業規則の作成を社会保険労務士に依頼すればその分の費用が発生しますし、テレワークに必要な情報通信システムの導入も必要です。

このシステムは、クラウド方式の利用で、安価に構築でき、コミュニケーションツールであるチャットやビデオ会議も利用できます。テレワークを導入すると、コミュニケーションがとりづらい、孤独感があるという声を聞きますが、ビデオ会議システムがあれば、対面には及ばないものの顔を見ながら会話ができます。朝礼・夕礼・雑談など、意識して会話の場をつくることが重要です。その他に勤怠管理ツールや話題になったペーパーレス化ツール(電子署名、クラウド請求システム、契約システム)なども今後の検討項目です。

テレワーク導入費用に関しては厚生労働省の「働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)」や経済産業省の「IT導入補助金 特別枠(C類型)」などがありますので、ご活用ください。

Q.時間超過や社員評価などテレワークの落とし穴とは?

テレワークは業務効率の向上につながる一方で、労務管理の難しさから、長時間労働を招きやすいと言われています。これを避けるためには、これまでの時間をかければ仕事が終わる、長時間労働の方が仕事をしているという考えを見直す必要があります。短時間でも成果を出す工夫をし、個人や職場全体で業務改善を行い、上司が細かい指示をしないと動かない仕事のやり方を改め、自律的な人材を育てていくことをお勧めします。

長時間会社にいる社員の評価が高い会社であれば、優秀な人材は辞めていきますし、同質的な、その会社でしか通用しない人材が増えていくだけです。テレワークの導入を機に、時間拘束による評価の在り方から、アウトプットや時間当たりの生産性が高い人を評価し、自ら考える人材を育成する必要があるでしょう。

その他の課題として、テレワークの利用度が上がらないということがあります。これは、人事部門など特定の部門だけで決めてしまい周りを巻き込まなかったために理解度が低いこと、意識改革が伴わず経営者の本気度が伝わっていないことが原因に挙げられます。

Q.テレワーク導入のルールづくりはどうする?

労務管理の面では、時間管理・費用負担・場所の明示などのルールを見直します。労務管理に関しては、厚生労働省から「テレワークモデル就業規則~作成の手引き~」(2016年度)と「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(2017年度)が発行されていますので、ご参照ください。

また、経営者として、安全配慮義務に努める必要がありますし、人や時間を管理する「監視」ではなく、役割やジョブを管理し、企業力を上げることをお勧めします。

テレワークは、働き方改革の一つの手段です。図6にあるように経営課題と紐(ひも)づけた導入目的を明確にします。会社目線の目的と社員目線の目的を整理することにより、全社で関心と協力を得られるようになるので、全社経営改革としてのルールづくりに取り組めます。

※1 クラウドソーシング:仕事を依頼したい企業と仕事を受けたい個人をインターネット上でマッチングするウェブサービス

※2 Society 5・0:情報社会(Society 4・0)に続く、IoT(Internet of Things)で全ての人とモノがつながり、さまざまな知識や情報が共有され、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させ、今までにない新たな価値を生み出す社会

※3 シンクライアント:企業の情報システムにおいて、システムの利用者が使うコンピューター(クライアント)には最低限の機能しか持たせず、サーバコンピューターで集中的にソフトウエアや業務用データなどを管理する方式。また、そのために用いられる低価格のクライアント専用コンピューター

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