事例2 テレワークの導入で実現したワークライフバランスと労働力の確保
岡部(富山県富山市)
1943年に創業後、総合建設会社として土木、建築、公園施設、生コン・骨材のプラント事業など幅広く展開する岡部。同社は働き方改革の一環として、10年前からテレワークに取り組んできた。実証実験から始め、段階的に導入を進めてきたことで、在宅勤務にもスムーズに対応、新たに気付いた課題解決にも乗り出している。
きっかけは作業の効率化と育児期社員の職場復帰対策
新型コロナウイルスの感染拡大により、一気に加速を見せるテレワーク。しかし、導入しやすい業種とそうでない業種があることは否めない。現場仕事の多い建設業も、導入しにくい業種の一つといえるだろう。そんな先入観を覆すのが、富山市に本社のある総合建設会社・岡部だ。
同社は働き方改革を推進する中で、テレワークを重点項目に掲げていた。きっかけは二つある。一つは、公園施設の遊具点検業務で「手間が掛かる」「精度・品質が悪い」「報告書作成時間を要する」などの問題が顕在化したこと、もう一つは育児期社員の職場復帰対策である。先に取り組んだのは後者だ。
「産休・育休中は会社とのつながりが減り、疎外感を持ちやすい。そこで復帰しやすくするために、パソコンを貸与してグループウエアで双方向に情報交換できる環境を整え、2010年から実証実験を始めました」と同社専務取締役の石永裕明さんは説明する。
同社はその後「テレワーク規程」を作成し、育児期社員の在宅勤務に向けて準備を進めた。さらに15年には、モバイルなどのICT技術を活用した「モバイル勤務」を導入する。それまで二者監査業務や遊具点検業務に当たる社員は、作業終了後に社に戻って報告書を作成しなければならなかったが、スマートフォンやタブレット端末から同社開発の点検アプリを使って報告書を転送できるようになり、時間外労働がほとんどなくなった。また、県外の営業担当者も、営業報告書を移動時間中にまとめて本社に報告できるようになり、素早く情報共有や指示ができるようになった。
「現場作業においては、現場事務所をICT化して、テレワークが可能なサテライトオフィスとして活用するしくみを整えました。本社とはWeb会議を行うことで移動時間をなくし、ほかの現場事務所との情報共有もビジネスチャットを活用しています」
さらに、現場の黒板を写真撮影するところから始まっていた紙ベースの報告書も、タブレットで現場を撮影すると報告書が自動作成されるアプリによって、電子納品が可能になった。
設備や社員の心理的負担を考慮した対応が必要
17年には本格的に「在宅勤務」を導入する。基本的に育児期の社員が対象だが、今春は新型コロナウイルス感染症対策により、役員と現場担当者を除く全員が対象となった。基本はテレワークだが、出勤する必要がある場合は各部署、作業所ごとに分散出勤とした。また、5月のGW明けの2日間は、「社員全員が出社しない日(フルテレワーク)」に設定した。
「社員は在宅勤務を割とすんなり受け入れてくれました。その後、問題点を洗い出そうとアンケートをとったら、移動時間の削減や家族との時間の増加などいい面がある一方、さまざまな課題が見えてきました」
例えば、社員宅にICT設備を整える手間と経費だ。在宅でも会社と同等の作業をこなすには、インターネット回線、コピー用紙、インク、FAX回線などを整備する必要がある。セキュリティー面にも不安は残る。さらに、ICT設備が整っても、家族がいる環境で仕事に集中するのは容易ではない。
また、コミュニケーション不足も多く聞かれた問題だ。社員同士の仕事の進捗状況などを知る手段がビジネスチャットだけになり、実際はどうなのかが把握しにくいという事案が発生したという。
「在宅勤務は社員の一部に導入するのと、ほぼ全員に導入するのではまったく違いました。社印が必要な書類のIT化など解決策が見える課題は改善していきますが、そこにいない相手の状況把握など困難なものもあります。今後はそれにどう対処していくかが鍵ですね」
スモールスタートで成果を急がないことがポイント
テレワーク導入のメリットは生産性の向上であり、それで働きやすくなれば社員の離職率低下にもつながる。災害時には重要業務を中断させない「BCP対策」にも活用できる。また、社員にとっても通勤の必要がなく、仕事をしながら気兼ねなく子育てや介護ができる。
一方、デメリットもある。IT端末のセキュリティー管理の必要性や、労働実態が不可視であること、自己管理の難しさ、コミュニケーション不足や孤立感、正当な評価をされない可能性などが考えられ、それぞれ対応策をしっかり構築していく必要がある。ただ、同社の場合、最初から大きな投資をせずにスモールスタートで取り組んだこと、成果を急がず折に触れて効果測定を行ってきたことで、業務内容に即したテレワーク体制が確立しつつある。
「当社にとってテレワークはまだまだ改善する余地があります。制度やICT設備などハード面だけではなく、企業風土に合わせた活用法を今後も見出していきたい」と石永さんは展望を語った。
会社データ
社名:株式会社岡部
所在地:富山県富山市八人町6-2
電話:076-441-4651
HP:https://www.okabe-net.co.jp/
代表者:岡部竜一 代表取締役社長
従業員:88人
※月刊石垣2020年7月号に掲載された記事です。
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