Q 当社は、年1回の定期昇給があり、ほぼ全員を定期昇給させています。育児による短時間勤務(1日6時間)の社員はフルタイムで働いていないので、定期昇給はさせないでおこうと考えています。何か問題はありますでしょうか。
A 短時間勤務の社員がフルタイムで勤務していないという理由で昇給させないということですが、短時間勤務の社員もフルタイムではないものの勤務しているわけですから、全く昇給させないというのは行き過ぎです。育児介護休業法23条の2の不利益な取り扱いを行ったことに該当するでしょう。
育児による短時間勤務制度と短時間勤務者に対する給与
育児介護休業法(以下、「法」という)では、事業主は3歳に満たない子どもを養育する労働者のために、働きながら子どもを養育することができるように、所定労働時間の短縮措置などを講じなければなりません(法23条)。多くの企業は、1日の所定労働時間を原則6時間とする短時間勤務制度を設けています(法施行規則74条)。
事業主は、短時間勤務者に対して、本来の所定労働時間よりも短縮した時間については、ノーワークノーペイの原則に従って、賃金を支払う必要がありません。従って、6時間勤務を選択した社員の元々の所定労働時間が8時間のときは、会社はその社員に対して、8分の6の給与を支払えば足ります。
不利益取り扱いの禁止
事業主は、労働者が短時間勤務を選択したことを理由として解雇その他不利益な取り扱いをしてはなりません(法23条の2)。
禁止される不利益な取り扱いについて「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針」では、
①降格
②減給または賞与などにおける不利益な算定
③昇進・昇格の人事考課における不利益な評価
④不利益な配置の変更
が一例として挙げられています。
右記③では、育児または介護休業した労働者に対して、休業期間を超える一定期間昇進・昇格の選考対象としない人事評価制度や、実際には労務の不提供が生じていないにもかかわらず、育児休業などの申し出などをしたことのみをもって、当該育児休業などの申し出などをしていない者よりも不利に評価することが例示として挙げられています。
定期昇給(以下「定昇」という)をほぼ全員に実施しているときに、短時間勤務者をフルタイムで勤務していないという理由で、全く昇給させないというのは行き過ぎです。それは育児介護休業法23条の2の不利益な取り扱いを行ったことに該当するでしょう。
育児による短時間勤務者の昇給方法
育児による短時間勤務者の昇給方法については、定昇がどのように実施されているかで考え方が変わってきます。
①前年の評価に応じて定昇額を決めている場合
例えば、優秀・8000円、良好・6000円、普通・5000円、やや劣る・3000円、特に劣る・0円と、それぞれの評価に応じ定昇額を決めているときは、業務遂行度、能力という他の評価要素と合わせて勤務時間が短いということも考慮して最終評価を決定し、その評価に従い昇給させればよいでしょう。
②勤務実績に応じて定昇額を決めている場合
例えば、出勤率100%(有給休暇も出勤とみなす)のときは1万円、出勤率が100%未満のときは、その出勤率を乗じた額を定昇額と決め、6時間勤務の者は8時間勤務の者に比べて8分の6の勤務実績となることから、1万円×8分の6の定昇を行えばよいでしょう。 (弁護士・山川 隆久)
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