マジシャンのマギー司郎さんとはご縁があり、対談や講演を度々ご一緒させていただきました。個人的な付き合いで垣間見る人柄や考え方も素晴らしく、公私ともにファンなのですが、彼から学んだ言葉に、『一本絞り』というものがあります。『石の上にも3年』に通じる意味ですが、今回は、この『一本絞り』をご紹介しましょう。
マギーさんは茨城県出身で高校卒業後、水商売のアルバイトをしながらマジックスクールに通いました。そこにはMr.マリックさんもいて、正統派の手品を学んでいるのですが、お客さまの求めるものを肌で感じ、独特の芸風を生み出しました。
学校を卒業してから、小劇場の幕あい手品師になり、これを12年間続けました。1カ月ごとに移動する巡業で、ショー目的で来ているお客さまにどんなにすごい手品を見せても、反応は良くありませんでした。数年過ぎるうちに、「僕も大変なのよ…」とか「手品が苦手なのよね…」といったつぶやきが徐々にウケ始め、大切なのは手品の技を見せることより、お客さまを楽しませることだと考えるようになり、茨城弁の語りを入れながら手品を見せるようになりました。
ちょうどその頃、新潟出身の大御所奇術師・アダチ龍光さんが引退したため、寄席から声が掛かるようになりました。寄席のお客さまが何を求めているのかを考えた末に、本気で見せて、驚かせる手品ではなく、ホッとさせて笑わせる手品でいくことを決心しました。これが彼の言う『一本絞り』で、本当は腕があっても、下手で一見手抜きのような手品を見せて、和ませて笑わせる、今のしゃべりが軸のスタイルを確立したのです。
『一本絞り』で突き進んでいくうちに、自分の顔が変わったそうです。例えば、映画『男はつらいよ』で、寅さん役の渥美清さんが冒頭でスクリーンに登場しただけで、劇場内の人はもう笑い始めます。それと同じように、彼は舞台に上がっただけで、客席をホッとさせ、笑いが溢(あふ)れる空気を醸すことができるようになったのです。
『石の上にも3年』という言葉がありますが、このことで一人前になりたいと思うなら、それ以外やらずに、とにかく、それだけに打ち込む年月を過ごすことです。そうしているうちに体も頭も仕様が変化し、それをやることが一番得意で楽なことになります。そうなれば、おのずと人は神業に近いレベルの仕事ができるようになります。そして、神業を持つ人には当然のように『一本絞り』で突き進んだ時期があるのです。
皆さんも、ご自身の事業の『一本絞り』をお考えいただき、事業方針(内容)を見直す際などの参考になさってください。
お問い合せ先
社名:株式会社 風土
TEL:03-5423-2323
担当:髙橋
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