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「下町育ちの再建王」の経営指南 『行動経済学』を実践する

2017年にノーベル経済学賞を受賞した、米国の経済学者、リチャード・H・セイラー博士(シカゴ大学教授)が研究する『行動経済学』をご存じでしょうか。

標準的な経済学は、合理的に最善の結果を導くための手段の研究ですが、『行動経済学』は、経済学に人間の心理学的知見を統合したもので、『メンタル・アカウンティング』(心の会計)と呼ばれています。

人の価値決定は必ずしも合理的ではありません。合理性に限界がある個人の経済活動の中に法則性を見いだしたのがセイラー博士で、私が一番面白いと感じた理論は、「人はお金に対する物差しをいくつも持っている」という複数値の理論です。

例えば、ある人が仕事帰りに、デパートで自分用のハンカチを買おうと思い、1500円と1200円の商品を手に取りながら300円の差に悩んだ揚げ句、安い方を選んだとしましょう。デパートから出たところで、学生時代の友人にばったり出会い、「久しぶりに一杯いくか」となり、1万円使ってしまう。こういうことは、よくあるものです。

同じ人が、先ほどは300円の差で悩み、今は予定外の1万円の出費を何とも思わずに払う。「いくつもの物差しを持っている」とは、こういうことです。

商売の観点で考えると、お客さまが何にお金を使うかは分からないということです。この人はこれくらいの金額しか使わないという思い込みは、禁物です。

私の例を挙げると、成田からロサンゼルスまで飛行機で行く間、料金2000円弱を払えば、機内でWi-Fiが自由に使えると言われましたが、しばらく考えて断りました。ロサンゼルスに着けば海外用のWi-Fiサービスを設定していますし、ホテルはフリーWi-Fiなので、機内でつながらなくても、それほど問題はなかったからです。というより、料金とそのサービスをてんびんにかけて、「もったいない」と感じたからです。

一方、その私が同じ旅で、ホテルの自分の部屋で友人と一緒に飲むお酒を選ぶとしたら、お金の多寡は気にしないでしょう。せっかくの夜ですし、友人を喜ばせたいからです。

自分のために使うお金についてはけちなのに、人や環境に良い商品には目がない人。地味に暮らしているように見えて、海外旅行三昧の人。商品よりもスタッフとの会話を求めて、お店に行く人。人のお金の使い方は実にさまざまで、非合理的です。

お客さまは何にお金を払い、価値を見いだし納得するのか。心理を分析し、アプローチを変えてみるだけで、お客さまの“お金に対する別の物差し”を呼び起こすことができるかもしれません。

小山 政彦(こやま・まさひこ) 株式会社 風土 代表取締役会長 (前 船井総合研究所 代表取締役会長) 1947年、東京生まれ。開成高校卒。早稲田大学理工学部数学科卒業後、実家のディスカウントストア経営に携わる。84年、船井総合研究所に入社。6年後には売り上げ3億円のNo.1コンサルタントになる。2000年の社長就任後は大証2部から東証1部上場、離職率20%台を6%までに改善、賞与支給No.1企業など経営者としても手腕を振るう。10年には代表取締役会長に就任。13年3月をもって退任し、現在は㈱風土代表取締役会長を務める。著書に『ベタ惚れさせるマネージメント』(講談社)、『9割の会社は人材育成で決まる!』(中経出版)など多数

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担当:髙橋

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