復興庁はこのほど、2016年1月時点の東日本大震災からの復興に向けた道のりと見通しを分野別に示した「復興の現状」を公表した。また、2月には被災地での先導的な取り組みを支援する。『新しい東北』先導モデル事業」の第2弾事例集を発刊し、「震災から5年。その先に見えるものとは」と題した記事を掲載。特集では、「新しい東北」の取り組みと本格復興へ新たなステージに向かう復興の現状を紹介する。
「新しい東北」モデル事例集
震災から5年 その先に見えるものとは 特集
東北のいま
震災から5年が経過した今も、東北では、沿岸部を中心に人口減少、高齢化の進行、基幹産業の衰退といった課題が継続している。そしてこれらの課題は一時的な「震災の影響」から、継続して取り組むべき「地域の課題」へと変容しつつある。
一方で、NPO法人の増加や、官と民、地元企業と大手企業といった多様な主体による協働、産業復興やコミュニティー、支援の分野での新たなプロジェクトなど、ポジティブな変化も起こっている。
こうした東北の状況は、これから人口減少社会を迎える日本を先取りしているといえる。行政、NPO法人、企業など多様なプレーヤーが震災後の東北で課題解決のために取り組んできた先進的な事例は、今後、日本全国の地域が直面する課題に向き合う際の重要なモデルとなるだろう。
地域の主体性を育てる「自治体版ハンズオン支援」
地域の課題を解決し、自律的で持続的な地域社会を目指す「新しい東北」。被災地で既に芽生えている先導的な取り組みを育て、被災地での横展開を進め、東北、ひいては日本のモデルとしていくため、先導的な取り組みを幅広く支援する「『新しい東北』先導モデル事業」が生まれた。
2013年度からの3年間で支援した事業は216(事業は15年度で終了)。単に震災前の姿に戻るにとどまらず、全国的な共通課題である「人口減少」、「少子高齢化」、「産業空洞化」などの課題にチャレンジする、数多くの先進的な取り組みが芽吹きつつある。
今後、必要となるのは、こうした取り組みを、その地域に定着させ、さらに同様の課題を抱える他の地域に展開・発展させていくこと。その際に必要なものは「地域の主体性」と「応用可能なノウハウ」だ。
そこで、主体的に新たな取り組みに挑戦する自治体を、復興庁、支援事業者が三人四脚の体制で支援する「自治体版ハンズオン支援事業」が15年度からスタートした。
テーマの設定された補助金とは異なり、自治体は事業費を負担して事業を行い、自ら設定した課題の解決を目指す。支援事業者は対象自治体の取り組みに対する柔軟な支援体制(課題に応じた複数事業者によるコンソーシアムの形成や、外部有識者、ファシリテーターなどの積極的導入)を構築し、継続的にサポートする。
従来の事業費補助やコンサルティングとは全く異なる「自治体が主役の伴走型支援」で、具体的な課題をともに乗り越えることを通じてノウハウの習得と自走できる体制づくりを目指している。自治体と事業者が契約・発注関係ではなく、ともに成果を出すことを目指すパートナーであることも、大きな特徴だ。15年度は5月から4自治体が自治体版ハンズオン事業を活用している。
新たな観光戦略立案に外部の知見を活用
岩手県久慈市。多くの市民に親しまれ、観光拠点としても重要な施設であった久慈地下水族科学館「もぐらんぴあ」が、震災と津波により休業を余儀なくされた。被災から5カ月後には、JR久慈駅前の空き店舗を活用することで「まちなか水族館」として念願の再開を果たし、16年4月には元の場所でリニューアルオープンする予定となっている。
この再オープンを契機に観光振興を図ることを目指す久慈市は、自治体版ハンズオン事業の活用を決断。支援実施団体であるアクセンチュアとともに、ワークショップなどの手法を通じて地域住民との連携を進めている。ワークショップのテーマには、「もぐらんぴあ」のイメージキャラクター開発、産直市場の開設をにらんでの地域産品の新商品開発、そして水族館の来訪者増へ向けたマーケティング施策、の3つが設定された。
ワークショップの設計に際しては「市民が自らの関わりをイメージしやすい、分かり易さを意識した」とアクセンチュア戦略コンサルティング本部の吉尾氏は話す。久慈東高校2年生を対象としたワークショップでは、ターゲットや訴求価値といった考え方のフレームを提供。「もぐらんぴあ」オリジナルのお土産アイデアやプロモーションイベント案などが出た。
一連の施策について、久慈市産業経済部観光交流課の中野氏は「市だけでは付き合いの無い方々との新しい取り組みとなった。『あまちゃん』や「まちなか水族館」で市民の観光への意識が高まっていたところをさらに加速する、良い機会となった」と話す。新たな挑戦に際して地域内だけでは足りないリソースを、地域外とつながることで解決していく一つのモデルと言えるだろう。
9自治体が活用
第一弾実施の自治体としては、このほか、宮城県塩竈市、福島県郡山市、福島県川内村が名前を並べる。塩竈市では、震災により人口3割減、高齢化率8%上昇という被害を被った浦戸諸島における地域内連携へ向け、本事業を活用。日本経済研究所の支援を受け連携協議会を設立し、ビジョンの作成や共有、また行政と島民の調整機能を担う組織へと成長させようとしている。
郡山市では地域コミュニティーの強化、そして地域包括ケアの推進に取り組んだ。住民同士の交流や支え合いの基盤となる場づくりのため、全国コミュニティライフサポートセンターと連携し既存の高齢者サロンの調査や研修を行った。
12年の帰村宣言以降の帰村率向上を目指す川内村は、一般社団法人RCFと連携し都内でのイベント開催を含むコミュニティー形成施策を行っている。また、郡山市や川内村では15年度で終了する先導モデル事業の実施主体との連携など、先導モデル事業の成果を普及・展開する動きも見られている。
15年度10月からは、第2弾として5自治体が事業に取り組んでいる。対象自治体が当該課題を解決するだけでなく課題を解決するためのノウハウを地域に蓄積し継続的に自らの力で地域課題を解決していくこと、さらに、同じ課題を抱える他の地域のモデルとなることが期待されている。
「新しい東北」のこれから
16年度は震災から5年を迎え、復興庁では「新たなステージ 復興・創生へ」を掲げている。被災地で生まれる先進的な取り組みを、ここで紹介した自治体版ハンズオン支援事業や、復興に取り組む850の企業や大学、NPOや自治体がつながる「官民連携推進協議会」などを通して、より展開・発展させていく。
被災地が直面する課題は地域によって大きく状況を異にする。地域が現状を理解し、自ら課題解決に取り組む「地域の主体性」、そして地域内外と連携していく「多様な主体との協働」が、持続可能な地域づくりに必要だ。
すでにその萌芽は東北に生まれて来ている。その先に見据えるのは、課題解決の先進的な取り組みが数多く生まれ、全国のモデルとして発信し続けることができる「新しい東北」の姿である。
復興の現状(復興庁)抜粋
◆避難者・仮設住宅の状況
○避難者数は発災直後の約47万人から、現在約18万人となっている。
○住まいの再建への動きが進んでおり、仮設住宅などへの入居戸数も減少している。
◆被災県における人口の現状
○被災3県における人口は、減少傾向にあるもののその度合いは鈍化しており、社会増減率は、沿岸市町村※においても震災前の水準に戻りつつある。
※沿岸市町村=海岸線を有する被災3県の市町村(岩手県12市町村、宮城県15市町、福島県10市町)
◆災害廃棄物(がれき)処理の状況
○東日本の太平洋沿岸部を中心に、道県にわたり災害廃棄物約2000万トン、津波堆積物約1100万トンが発生。
○目標としていた平成26年3月末までに、福島県を除く12道県で災害廃棄物および津波堆積物の処理が完了。
○処理が残っている福島県については、避難区域は国が直轄で、それ以外の地域は市町と連携して国の代行処理などによる支援を通じて、できるだけ早期の処理完了を目指す。
◆公共インフラの本格復旧・復興の進ちょく状況
・海岸対策=着工73%、完了17%
・海外防災林の再生=着工81%、完了27%
・河川対策=完了100%
・水道施設=完了96%
・下水道=完了99%
・災害廃棄物の処理=完了99%
・復興住宅=用地確保済み96%、完了46%
・農地=完了70%
・漁港(全機能回復)=完了67%
・養殖移設=完了90%(復興まちづくり)
・防災集団移転=着工99%、完了68%
・土地区画整理=造成着工100%、完了4%
・漁業集落防災強化=着工97%、完了58%
・医療施設=完了95%
・学校施設など=完了98%
(交通網)
・復興道路・復興支援道路=着工96%、完了39%
・鉄道=完了91%
・港湾=着工100%、完了98%
◆住宅再建に向けた取り組み(災害公営住宅の整備・高台移転)
住宅再建や復興まちづくりの加速化に向けて、引き続き、復興交付金による支援、円滑な施工確保の支援などを実施。
○さらに、被災地における復旧・復興事業が本格化し、住宅再建は、「計画策定」、「用地取得」から「工事実施」の段階に移行してきていることを踏まえ、「工事実施」段階に発生する個別地区ごとの課題に対し、直接、県・市町村に出向いて、きめ細かく支援。
◆住まい復興の見通し(災害公営住宅の整備に係る進ちょく見込み)
※27年度までの累計○岩手県=概ね6割○宮城県=概ね6割○福島県=(津波・地震向け)概ね9割、(原発避難者向け)=概ね3割
◆産業の復旧・復興の状況
○グループ補助金交付先アンケートでは、現在の売上状況が震災直前の水準以上まで回復していると回答した企業の割合は44.8%。
○業種別に見ると、震災直前水準以上に売上が回復しているという割合が最も高いのは建設業(76%)、次いで運送業(53%)。最も低いのは、水産・食品加工業(26%)、次いで卸小売・サービス業(36%)。
○26年度(1~12月期)の被災3県の工場立地件数は、前年度より29件増(+25%)の145件。○津波被災農地の営農再開に向けて農地復旧や除塩などを進めており、農地復旧と一体的に農地の大区画化や利用集積を進めるなど、全国のモデルとなるような取り組みを推進。
○被災した漁港の約7割で陸揚げ岸壁の機能が全て回復しており、約9割で陸揚げが可能。また、水揚げ量は約8割まで回復するなど、一定程度復旧。
○一方で、水産加工施設は約8割で業務再開しているものの、震災により失われた販路確保などの問題もあり、青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県の5県全体では、震災直前水準以上に売上が回復した水産加工業者は13%。また、売上が8割以上回復した水産加工業者は13%であり、売上の回復が遅れている。
○引き続き、漁港の復旧を実施するとともに高度衛生管理に対応した荷さばき所の整備や水産加工施設の再建、新商品の開発、販路・販売の回復などの取り組みを一体的に推進。
○観光業も改善が見られるが、本格的な復興が今後の課題。
◆復興特区制度の活用状況(略)
◆福島県の状況(略)
◆避難指示区域の見直し(略)
◆除染の進ちょく状況(略)
◆被災自治体の職員確保などに向けた支援の状況
(1月19日)
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