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テーマ別誌上セミナー ビジネス講演依頼No.1が教える「ヒット脳」の育て方

ニーズが多様化し、モノがあふれている現代。数々の商品が次から次へと登場するが、ヒットするものもあれば、鳴かず飛ばずのものもある。ヒット商品を生み出し、長く愛されるための秘訣(ひけつ)は何なのか。超ロングセラーアイス「ガリガリ君」の生みの親である鈴木政次さんに聞く。

鈴木 正次

赤城乳業 元常務取締役 開発本部長

鈴木 政次 (すずき・まさつぐ) 赤城乳業 元常務取締役 開発本部長 1946年茨城県生まれ。70年東京農業大学卒業後、赤城乳業に入社。1年目から商品開発部に配属され、その後一貫して商品開発に携わる。「ガリガリ君」「ガツン、とみかん」「ワッフルコーン(大手コンビニPB)」「BLACK」など、数々のヒット商品を世に送り出し、国民的ロングセラーに育てた。現在、「ヒット商品の育て方」や「強小カンパニーの創り方」などをテーマにした講演活動を幅広く展開し、「講演依頼.com」で講演依頼数1位を誇る。著書に『スーさんの「ガリガリ君」ヒット術』(ワニブックス)など

「何とかしなきゃ、ヤバイ」から誕生した「ガリガリ君」

商品開発に携わっている担当者なら、「一発当てたい」「ロングセラー商品に育てたい」と考えていることでしょう。ところが、精魂込めてつくっても売れないケースは少なくありません。また、発売直後は注目されても、すぐに見向きもされなくなる場合もあります。その理由は、ヒット商品の本質が分かっていないからだと言えます。言い換えると、その本質さえ踏まえれば売れる商品がつくれるのです。

埼玉県深谷市に赤城乳業という会社があります。乳業と付いていますが、冷菓(アイス)の専業メーカーです。1964年に発売した「赤城しぐれ」というカップ入りかき氷アイスが爆発的にヒットし、以降さまざまなアイスを世に出しました。ところが、70年代に2度のオイルショックが起こり、原油価格が値上がりして材料費が高騰。さらに追い打ちをかけたのが、大手アイスメーカーのカップかき氷への参入です。安売り攻勢にさらされて、業績は悪化の一途をたどりました。いよいよ「何とかしなきゃ、ヤバイ」状況に追い込まれ、新商品開発のミッションが下されました。

そこで考えたのは、「赤城しぐれ」をワンハンドにすることでした。遊びに夢中な子どもが、片手で食べられるようにするのが目的です。しかし、単に形態を変えただけでは芸がありません。そこで看板商品を否定し、ミルクなどの主力フレーバーも使わずに、まったく新しいアイスをつくることにしたのです。

その際、「うまい、でかい、安い、当たり付き」と、当時では珍しかった商品コンセプトを掲げ、“お得感”を前面に押し出しました。味は、日本で一番売れている飲料がラムネだったのでソーダ味にし、色は「空」と「海」をイメージしたスカイブルーにしました。こうして81年に生まれたのが「ガリガリ君」です。

商品名は当初、カップかき氷をスプーンで削る音から「ガリガリ」にする案が出ましたが、それだと味気ない。「じゃあ、君を付ければ」という専務のひと言で「ガリガリ君」に決まりました。一見安易なようですが、「君」を付けたことで親しみやすいキャラクターの誕生につながりました。

point!

過去を否定する

季節限定の味と小ネタ活動でロングセラーへ

当時の販路は主に卸売店と一般小売店ですが、大手メーカーが店のアイスケースをほとんど押さえていたため、苦戦を強いられました。そこで目を付けたのがコンビニです。まだ店舗数は多くはなかったものの、販売を開始するとすぐに人気に火が付き、歴史的猛暑を記録した94年には年間6500万本を売り上げて、第一次ピークを迎えました。

ところがその翌年には、売れ行きが鈍化し始めます。他メーカーもコンビニ向けのオリジナル商品を次々に展開し始めたためです。スーパー向けにファミリーパックを発売するなど対抗しましたが、思ったような成果は出せませんでした。打開策として、全国3万人規模の消費者調査を行いました。すると特に若い女性から、キャラクターの「歯茎が汚い」「汗が泥臭い」「田舎臭い」などといった厳しい意見が多く寄せられて焦りました。アイスの消費者の60%を占める女性にダメ出しをされたら未来がありません。

そこで2000年にデザインの全面リニューアルを行い、発売時に設定した「ガキ大将っぽい中3の野球少年」から「元気で楽しい小学生」へと大きくイメージチェンジを図りました。すると売り上げが回復し、初めて年間1億本を突破しました。

その後、「ガリガリ君」がロングヒットを続けた裏には、味と仕掛けがあります。まずは、季節限定商品を投入したことです。それまでも定番のソーダ味のほかいくつか種類がありましたが、コンビニの売り場に定番品と季節限定商品、それに「ガリガリ君リッチ」と呼ばれる100円商品を置くようにしたのです。こうして年間15種類ほど展開し、人気の味は翌年以降も販売しますが、その年によって好みも変わるため、微妙に味付けを変えています。また、たとえ人気の味でも販売期間の延長はしません。消費者は飽きるのが早いので、飽きられないようにしているわけです。

仕掛けの面では、テレビCMの開始や「ガリガリ君のうた」のCD発売など、販促にも力を入れました。他企業とコラボして、漫画誌に「ガリガリ君」を主人公にしたストーリーを掲載したり、ゲームキャラクターとして登場させたりするなど、子どもたちに向けたプロモーションにも注力した。また、10年のサッカーワールドカップでは、サッカー日本代表チームとコラボして、「ガリガリ君ソーダ・SAMURAI BLUE」を発売。日本代表が健闘したこともあって、その年の売り上げは年間3億本を突破しました。

このような販促につなげる仕掛けを「小ネタ活動」と呼んでいます。どんなに時代が変わっても、口コミ以上のマーケティングはありません。自分の知っていることを誰かに教えたいのが人間の心理。お客さまに「今度のガリガリ君、知ってる?」と口コミしてもらえるような話題を提供し続けたことで、以降は一度も売り上げを落としていません。

point!

消費者の生の声を聞き、口コミされる話題を提供し続ける

自由にものを言える雰囲気がアイデアを生む

「ガリガリ君」はロングセラー商品に育ちましたが、そもそもヒット商品を生み出すには、そのための社風が必要です。

例えば赤城乳業では、肩書や年齢を超えて自由にものが言える社内環境を整えています。オープンな雰囲気の中で自分の考えを自由に言えることが、ひらめきやアイデアを生み、組織の活性化にもつながります。つまり「言える化」です。

そんな社風から生まれたのが、12年に発売された「ガリガリ君コーンポタージュ味」です。商品開発を手掛けたのは、入社2年目の社員でした。ある日、「スープ業界でコーンポタージュが売れると言っているから、コーンポタージュ味のアイスをやりたい」と言ってきたのです。あまりに奇抜なアイデアに、社内から「ちょっと冒険し過ぎじゃないか」という意見が出ました。試作品を食したときも、「斬新過ぎる」という声が少なくありませんでした。

しかし、社長には「普通のものは大して売れない」という信念があり、発案者自身も「お客さまに届けたい」という覚悟を決めていました。商品開発には、この覚悟が不可欠です。こうしてゴーサインが出て、初回300万本を発売しました。すると、SNSで「レンジでチンして飲むとおいしい」などと話題になり、売れ過ぎて製造が追いつかず、3日で発売休止になりました。

商品開発をする際、一般的に企画会議などでアイデアを出し、「ああだ」「こうだ」と皆で意見を言い合いながら企画をもんでいきます。すると不思議なことに、斬新だったアイデアがどんどん平凡なものに変わっていってしまいます。そんな商品を世に出しても売れません。私の経験では、皆の合意で商品開発すると100%失敗します。もし、世間があっと驚くようなヒット商品を出したいなら、少人数のチームをつくって開発するのがベターです。実際、そうして生まれたのがコーンポタージュ味なのです。

point!

企画は大人数でもむほど平凡になっていく

失敗を恐れない社風がチャレンジ精神を育む

とはいえ、通った企画すべてがうまくいくとは限りません。私自身、約1000アイテムの商品を開発したうち、残っているのは30アイテムほど。それ以外は失敗作です。しかし、赤城乳業には「どんどん失敗しろ。失敗を恐れるな」という社風があります。通常、口ではいくら「失敗しろ」と言っても、実際に失敗をしたら何らかのペナルティーを負うことになり、事実上失敗は許されないことが多いものです。しかし、それでは思い切ったチャレンジができず、新しい発想も生まれません。

一例として、「コーンポタージュ味」「クレアおばさんのシチュー味」に続いて発売された「ナポリタン味」があります。この発案者も入社して間もない若手でした。世間をびっくりさせる味を生み出そうと、日々アイデアを探し求め、あるイベントをきっかけに思い付いたのが「ナポリタン味」だったのです。試行錯誤の末に風味を再現し、社内プレゼンで「本当にこの味でやりたいのか?」と問われたときに熱意を示して、OKが出ました。

しかし、発売されると反響は微妙で、お客さまから容赦ないダメ出しの声も届きました。発案者もしばらくは落ち込んでいましたが、商品開発に失敗はつきものです。反省は必要ですが、引きずっていたら前には進めません。パッと忘れて目の前の仕事に集中できる環境を、会社は提供することが大切です。

もう一つ、ヒット商品をつくるのに必要なのが、「情報が集まる自分」になることです。「今、何がはやっているのか」「お客さまのニーズは何か」「新しい素材があるか」「競合他社の動向」など、信頼できる鮮度の高い情報を早くたくさん集められるようになると、開発スピードもアップします。

では、どうしたら情報が集まってくるのか。一つの方策として、「今、忙しいから後にして」とは決して口にしないことです。例えば、20代向けの商品を40代や50代の人がつくる場合、20代の人から話を聞きたいと思うでしょう。ところが、そのせっかくのチャンスに、「忙しい」「後にして」「そんなことは知っているよ」などと言ってしまうと、「もうあの人のところには情報を持っていかない」となります。話を聞かなかった時点でアウトなのです。どんなに忙しくても、誰かが話を持って来てくれたら手を止めて、「何かあった?」と耳を傾けることです。たとえ知っている情報でも、「教えてくれてありがとう」と礼を言うことで、次も話を持って来てくれます。商品開発には、こうした姿勢が会社全体に不可欠です。

point!

「今、忙しいから後にして」と絶対に言わない

社員が「見える」「言える」「聞ける」環境をつくる

次に、ヒット商品を生み出せる「ヒット脳」を持つ社員はどう育てたらいいでしょうか。

まず、社員に求めたいのは「分かる人」より「できる人」、つまり問題発見能力と問題解決能力がある人です。学生時代は基本的に問題と答えが用意されているので、基本的な情報処理能力があればいい。ところが、社会に出ると自ら問題を発見し、それを自分で解決する能力が必要です。上司や先輩が言ったことに、「分かりました」と答えるだけでなく、「分かって答えを出さなければならない」ことを最初に教えておくことが欠かせません。

社員が何でも自由に言える環境づくり(言える化)について前述しましたが、実は「言える化」「見える化」「聞ける化」の3原則が重要です。経営者や上司が考えていることが周りにも見えているか、社内で自由に意見が言えるか、上司が部下の話を聞けるか。この三つが円滑に行われていると、結果的に自ら考えて行動できる人間が育ちます。

新たな商品を開発する際には、常に「ホウ・レン・ソウ(報告・連絡・相談)」を徹底することです。どんなに優秀な人でも、急に言われたら困惑し、拒否反応を起こしやすいものです。事前に「こんなことをやりたいんだけど、どう思う?」と伝えておけば心の準備ができ、物事がスムーズに運びます。それに新商品開発について連絡や相談をすれば、「自分は必要とされている」と感じて、社内の人間関係もスムーズになります。やがてAIの時代がやって来ても、人間関係はなくなりません。ですから事務的に「ホウ・レン・ソウ」を行うのではなく、そもそも相手に関心を持つことが大切です。

このように社員を育てていても、時代のトレンドは目まぐるしく変わります。目先の流行に飛びついても、商品をつくったころには次の流行に移ってしまうこともあります。時代遅れにならないかどうかを判断できる感性を養っておくことも欠かせません。そのトレーニング法として、普段から何気ないことに目を向け、耳を傾ける「捨て目、捨て耳」が有効です。売り場ではどんなものが置かれ、売れているかを自分の目で確かめたり、人の評判を聞いたり……。足を運べば、五感を通じて多くの情報を感覚的につかむことができます。

ヒット商品は一人の力だけでは生まれません。経営者やリーダーも自ら感覚を磨き、感性を磨くことの重要性を肌で感じて、それを社員に伝えることが、ヒットを生み出す土壌を育みます。

point!

「捨て目、捨て耳」で感性に磨きをかける

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