日商 Assist Biz

更新

ジョブ・カード特集「有期実習型訓練の活用を」6年間で累計2万5千人超を正規雇用

ジョブカード利用実績(平成20年度からの累計)

人材確保へ手厚い支援 中小企業の強い味方に

全国各地の109カ所の商工会議所では、「人材育成・確保支援の拠点」としての地域ジョブ・カードセンターと地域ジョブ・カードサポートセンターを設置し、有期実習型訓練(3カ月以上6カ月以内)などのジョブ・カードを活用した職業訓練を実施する企業を支援している。これまでにジョブ・カードを活用した職業訓練を受講し、終了後に正規雇用された利用者は制度がスタートした平成20年度からの累計で2万5143人。正規雇用率は80・3%(平成26年5月23日現在)で、企業側からも求職者側からも評価が高い。ジョブ・カードを活用した職業訓練を通じ、有能な人材を育成したい企業と正社員の経験が少ない求職者や新規学卒者とのマッチングが進んでいる。特集では、じわじわと浸透しているジョブ・カードの仕組み、企業にとってのメリット、利用企業の声などを紹介する。

求職者からも高評価

ここがポイント1

客観評価でミスマッチ解消 適性や能力把握が容易に

正規雇用率が8割を超えるジョブ・カード制度だが、実施企業から寄せられる「制度を活用して良かった」という声の多さも特徴の一つだ。訓練生の適性や職業能力などを判断したうえ、正社員として継続雇用できることから、採用時のミスマッチや早期離職のリスクを軽減できるというメリットを実感している企業はリピーターとなるケースも多い。一定の要件を満たしている場合は、職業訓練の終了後に、国から助成金が支給されることも魅力の一つ。職業訓練にかかるコスト負担が軽減されるからだ。

「ジョブ・カード」と聞いて、免許証のようなカードをイメージする人も多いが、実際は、求職者の職業能力を証明するA4判の大きさの4種類のシート(①履歴シート、②職務経歴シート、③キャリアシート、④評価シート)を総称して「ジョブ・カード」と呼んでいる。履歴書にはない求職者に関する詳細な情報が企業の安心感につながる。短時間の採用面接では分からない求職者の職業レベルが客観的に評価できるからだ。

求職者は、まず、職業訓練開始前に、履歴シート、職務経歴シート、キャリアシートに必要事項を記載する。その後、ハローワークなどに配置されている「登録キャリア・コンサルタント」などの専門家と求職者が面談(キャリア・コンサルティング)。その結果を踏まえた第三者としてのアドバイスなどが職務経歴シートとキャリアシートに記載され、求職者に交付される。

評価シートは、職業訓練の終了後に企業から渡される。履歴書にはない「キャリアシート」と「評価シート」。正規雇用率の高さの秘密は、この客観性にある。

ここがポイント2

自由度高い職業訓練計画 非正規→正社員登用もOK

職業訓練を実施する企業では、職業訓練の種類によって、3カ月間から2年間までの訓練期間を訓練生の仕上がり像に合わせて自由に選択できる。自社のニーズに合った訓練カリキュラムに盛り込んだOff-JTとOJTを通じて訓練生の職業能力を高めることによって、有能な人材を育成しつつ、採用できることになる。

自社のパートやアルバイトなどの非正規労働者を正社員として登用するときにも活用は可能。人材の育成や能力開発に積極的な企業であることを対外的にPRできるというメリットもある。

ここがポイント3

109商工会議所で相談可能 各種手続きをサポート

ジョブ・カード制度の職業訓練を実施する場合は、都道府県労働局やハローワークのほか、地域ジョブ・カードセンターや地域ジョブ・カードサポートセンターを設置している全国109カ所の商工会議所でも相談できる。

地域ジョブ・カードセンターは47カ所。都道府県ごとに1カ所の商工会議所に設置されており、地域ジョブ・カードサポートセンターは全国に62カ所。日頃から企業のさまざまな相談に乗っている商工会議所のほうが、敷居が低いと感じている企業も多い。

商工会議所では、職業訓練を実施するための訓練実施計画や訓練カリキュラム、評価シートの作成、職業訓練を実施するに当たってのアドバイス、助成金を支給申請するためのアドバイスなど、企業単独では対応の難しい各種申請手続きなどを分かりやすく、丁寧にサポートしてくれる。このほか、商工会議所では、ジョブ・カードを採用面接の際の応募書類として活用する「ジョブ・カード普及サポーター企業」の開拓も行っており、制度の普及に力を入れている。

■地域ジョブ・カード(サポート)センター設置商工会議所(平成26年度)

札幌、釧路、八戸、青森、盛岡、宮古、北上、仙台、気仙沼、秋田、大館、横手、山形、米沢、福島、白河、新潟県連、上越、富山、金沢、松本、上田、長野、飯田、水戸、結城、宇都宮、足利、日光、前橋、館林、伊勢崎、太田、藤岡、埼玉県連、川越、熊谷、春日部、千葉、柏、東京、八王子、立川、むさし府中、町田、横須賀、横浜、藤沢、相模原、甲府、静岡、浜松、沼津、富士、美濃加茂、名古屋、岡崎、豊川、春日井、四日市、津、敦賀、武生、勝山、滋賀県連、長浜、京都、福知山、大阪、茨木、豊中、北大阪、神戸、奈良、和歌山、鳥取、米子、松江、出雲、岡山、倉敷、津山、広島、山口県連、宇部、山口、徳山、徳島、小松島、高松、松山、新居浜、高知、須崎、土佐清水、福岡、久留米、北九州、飯塚、佐賀、鹿島、長崎、熊本、大分県連、宮崎、鹿児島、鹿屋、那覇、沖縄、宮古島

※浜松は10月設置予定

ここがポイント4

訓練生と有期雇用契約 助成金の活用で負担軽減

ジョブ・カード制度の職業訓練は、①有期実習型訓練(3カ月以上6カ月以内の職業訓練)、②実践型人材養成システム(6カ月以上2年以内の職業訓練)の2種類。企業が訓練生と有期雇用契約し、訓練期間中の賃金を支払うため「雇用型訓練」と呼ばれている。

平成20年度に制度が始まって以降、これまでに約1万8000社でジョブ・カード制度の職業訓練が終了。これらの企業で訓練を修了した約3万1000人の訓練生のうち、約2万5000人が正社員として採用された。

職業訓練を実施した企業を従業員数別にみると、「50人未満」が最多で61・2%。続いて、「50人以上100人未満」が16・3%、「100人以上300人未満」が11・3%、「300人以上」が11・2%の順で多くなっており、中小企業での活用が9割弱を占めている。そのほとんどが初めて実施した企業であり、企業への負担は少ない。

ジョブ・カード制度の職業訓練の訓練生は、必ずしも、ハローワークで募集する必要はない。求人情報誌やホームページなどで直接募集する方法、自社内のパートやアルバイトなどの非正規労働者を訓練生にして実施することもできる。

雇用型訓練終了後に支給されるキャリア形成助成金などを活用することで、訓練実施に要するコスト負担も軽減が可能だ。Off-JTについては、訓練の賃金、講師への謝金や教材費などの経費の一部が助成対象。OJTの実施についても助成が受けられる。

制度を活用した企業からは、ミスマッチの回避や資金面のメリットだけでなく「訓練カリキュラムの作成によって社員研修の仕組みを構築できた」「訓練の指導者になった社員が自らの業務を改めて勉強し直したことでレベルアップにつながった」などの副次効果を指摘する声も多い。

活用企業の声

事例1 原田左官工業所(東京都文京区)

見習い工を短期間で育成 教育環境整備に手応え

今回の有期実習型訓練を実施したことによって、社内に教える環境が整ったと思います。

見習い工については、従来は「自分で聞いた」「盗んで覚えた」「下働きが長いので、根性が身に付いた」「個人の技量の差が大きかった」「コテを持つまでに数年かかり、育成に時間がかかった」という状況でした。しかし、訓練終了後は、「1年目で塗れるようになるので、仕事の面白みが分かる」ようになりました。

また、育成担当者(指導役)は、従来は「教えるレベルがバラバラ(自分の好きなように教える)」「Off-JTの研修がない」「自分が教わったやり方しか知らない」「仕事ができない人に対しては、いつまでも教えない」という状況でした。訓練の終了後は、「日報(訓練日誌)のやりとりと話をする機会が増えたので、コミュニケーションが良好になった」「育成担当者(指導役)が仕事の見直しを行ったので、レベルが上がった」「一定のレベルで塗ることができる見習い工が現場に来るので、手取り足取り教えるOJTもスムーズに進む」ように変化しました。

有期実習型訓練を実施した成果としては、①一定レベルの見習い工を短期間に育成できた(下働きだけでなく、塗ることが多少できるので、すぐにOJTに入れ、現場でも役立つようになった)、②社内のコミュニケーションが良好になった(人材の育成について活発な意見が出るようになった)、③社員教育に注力している会社の姿勢を社員が理解している、ということです。

事例2 湘南よみうり新聞社(神奈川県藤沢市)

非正規のモチベーション向上 社内体制充実に寄与

訓練生にとっては、非正規社員として働いていたときとは違う新しい分野でのキャリア・アップのための訓練でしたので、最初は不安を感じていたようでした。しかし、訓練を通じてビジネススキルを習得していくのに伴って自信が生まれましたので、モチベーションの向上にもつながったようです。

その結果、仕事に対する意欲や姿勢は、有期実習型訓練を実施する前と比較すると、大きく変わりました。このような訓練生の変化は、他の社員のモチベーションの向上にもプラスの影響を与えたことは、予想外のうれしい効果でした。

当社では、これまで人材を育成するためのシステムが確立されていませんでした。今回、神奈川県地域ジョブ・カードサポートセンターの担当者からの助言や提案をもらって作成した訓練カリキュラムと評価シートは、仕事の内容を具体的に明文化し、段階的に職業能力の評価結果を確認できますので、当社のニーズにマッチしたものとなりました。今後も、これらについて常に検討したうえ、修正を加えながら、新入社員の教育などの人材育成のための体制の充実に役立てていきたいと考えています。

今回のジョブ・カード制度の有期実習型訓練の活用では、訓練生だけではなく、担当した社員や他の社員にとっても貴重な経験を共有することができました。

これからも、このような公的支援制度が存続するようであれば、ぜひとも再度、活用して人材の育成・確保を図っていきたいと思っています。