総務省は7月30日、2021年版の情報通信白書(情報通信に関する現状報告)を公表した。白書は「デジタルで支える暮らしと経済」がテーマの特集部分と、ICT分野の基本データとICT政策の最新動向の紹介の2部構成。第1部では、これまでのわが国のデジタル化の進展状況を示すとともに、デジタル化の現状と課題を整理。コロナ禍で加速したデジタル活用の拡大の影響、コロナ後のデジタル化による社会課題の克服に必要な取り組みなどを考察している。
白書では、わが国のデジタル化政策の歴史、社会におけるデジタル化の進展状況や国際指標での位置付けを概観するとともに、わが国のデジタル化が進まなかった原因を考察。「ICT投資の低迷」「業務改革などを伴わないICT投資」「ICT人材の不足・偏在」「過去の成功体験による個別最適の業務改善」「デジタル化への不安感・抵抗感」「不十分なデジタルリテラシー」などの問題点を指摘している。
2019年度の独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の調査結果によると、IT人材の量について、「大幅に不足している」「やや不足している」とする回答の合計は、89・0%で、IT人材の質についても、「大幅に不足している」「やや不足している」との回答の合計は、90・5%にも達していると指摘。外部ベンダーへの依存度が高く、ユーザー企業では、組織内でICT人材の育成・確保ができていない問題が浮き彫りになっている。
また、デジタル化に対する不安感・抵抗感については、「情報セキュリティーやプライバシー漏えいへの不安がある」事業者が一定数いると分析した。
企業活動におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)については、日本企業のICT投資は業務効率を目的としたものが中心であり、事業拡大や新事業進出といったビジネスモデルの変革を伴うようなデジタル化、DXは広がっていない現状を分析。大きな課題として、「わが国のICT人材はICT企業に偏在しており、企業がDXを進める上で人材が不足している点を強調している。
DXに取り組む企業の進展度が米国並みに増加した場合の売上高へのインパクトについて、シミュレーション結果も提示。製造業では5・7%(約23兆円)、非製造業では4・2%(約45兆円)の売上高の押し上げ効果が見られるとの推計値を示している。
DXに取り組む上で変革すべきポイントとして、「社内の意識改革」「組織の改革・推進体制の構築」「実施を阻害する制度・慣習の改革」「必要な人材の育成・確保」「新たなデジタル技術の導入・活用によるビジネスモデルの変革」の五点を強調。社内の意識改革については、DXの必要性が社内全体で共有されていないケースがあるとして、「手段から入るのではなく、自社の事業や製品・サービスが抱える問題やその改善の機会を探索し、自社の問題を明確化することから取り組むべき」と提言している。
DXを推進するための体制構築については、米国やドイツと比べ、経営層の関与が少ないと分析。全社的な取り組みほど上層部による主導が重要との考えを示すとともに、専門組織を設置して主導する場合には、企業全体に関与できるだけの権限の付与を求めた。
また、必要な人材の育成・確保に向けては、外部のリソースを活用しながら取り組みを進める「オープン志向」が重要と指摘している。
国民生活におけるデジタル活用の現状については、スマートフォンが急速に普及し、モバイル端末によるインターネット利用が拡大している一方、ショッピング、決済、動画配信など生活・エンターテインメント関係の利用が中心と指摘。「公的サービスなどの利用率は低い」「情報通信機器の利用について世代間格差が見られ、特に70歳以上の高齢者の利用率が低い」といった課題を示している。
公的分野におけるデジタル化についてはオンラインによる行政手続きへの住民のニーズは高いものの、「電子申請できる行政手続きが限られている」「電子申請できることを知らない」「電子申請の使い方が複雑」などの理由からオンラインの利用が広まっていない現状を分析。諸外国の先進的なデジタル・ガバメントの取り組み事例を示し、ユーザー志向、アジャイル開発、システム標準化、ベース・レジストリ構築などの取り組みの重要性を指摘している。
コロナ禍で加速したデジタル化の動向を踏まえ、政府の基本スタンスである「誰一人取り残さない」デジタル化の実現に向けて必要な対応の方向なども示した。今後、国民利用者におけるデジタル活用の促進と、民間企業・公的分野におけるデジタル化を戦略的・一体的に進めることの重要性を指摘。また、5Gなどの情報通信インフラの整備、公的基礎情報データベースの整備、サイバーセキュリティーや個人情報の保護といった安全・安心の確保、公共デジタル・プラットフォーム(ID、認証、クラウドなど)の整備により、デジタル社会の共通基盤を構築することを政策課題として示している。
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