わが国経済は、昨年度の戦後最大のマイナス成長から回復基調にあるが、力強い動きには至らず、業種や規模で回復度合いが大きく異なるK字回復となっている。特に、人流で成り立つ、飲食、宿泊、交通、イベント、観光等の中小企業経営は、売り上げ大幅減が続き、危機的状況に陥っている。コロナ収束の見通しが立つまでは、困窮する事業者への重点的な支援の拡充と迅速な執行とともに、売り上げ回復に向けた感染状況を見据えた需要・消費喚起を大胆に講じられたい。
ワクチン接種の進展による重症化予防効果が出始め、政策的な自由度が増えている。当分の間ウィズコロナが続くことを前提に、国民と事業者が希望を持てるワクチン効果を踏まえた社会経済活動正常化への具体的なシナリオの下、経済回復への取り組みを加速化されたい。第6波に備えた医療提供体制の強化も不可欠である。
また、厳しい経済状況の今こそ、足元の対策だけでなく、コロナ禍で顕在化したデジタル化の遅れや人口の都市集中リスク、経済・医療安全保障などの社会課題解決と経済成長を同時に実現する国家戦略の策定が急務である。
新内閣には、ポストコロナに向けた、中小企業のデジタル化による生産性向上や事業再構築などを通じた付加価値創出への挑戦を強力に後押しし、成長による分配の好循環の構築を目指し、以下に掲げる政策の実現に向けて、力強いリーダーシップと実行力の発揮を期待したい。商工会議所は、引き続きコロナ禍で困窮する事業者への支援と、中小企業の自己変革や地方創生への挑戦を全力で後押ししていく。
1 コロナ禍で困窮する事業者への重点支援と、中小企業の自己変革の推進
(1)困窮する事業者への重点支援と、需要・消費喚起による売り上げ確保
コロナ禍で特に困窮する事業者に対して、資金繰りなどの金融支援や一般財源投入による雇用調整助成金特例措置の継続に加えて、国・自治体による事業規模や売り上げ減少などを踏まえた協力金や支援金の迅速な執行と支援の拡充を講じられたい。
ワクチン接種の進展に伴い日常生活回復への政策が進む中、需要・消費喚起による迅速な支援の拡充が必要である。特に、困窮する飲食・宿泊事業者などの売り上げ確保に資する交際費課税の見直しによる民間の法人需要喚起や、個人消費喚起に向けた中小店舗も裨益する形でのGoTo事業再開と期間延長、自治体の域内需要喚起策の促進などの大胆な需要・消費喚起支援を講じられたい。
コロナ禍の経済状況や企業経営実態を踏まえた最低賃金の審議の在り方の見直しとともに、最低賃金大幅引き上げによる中小企業などへの負担軽減策も講じられたい。
(2)ポストコロナへの中小企業の自己変革の推進
中小企業のデジタル化による生産性向上やビジネス変革などへの挑戦を後押しするため、事業再構築補助金やIT導入補助金などを拡充されたい。サプライチェーン全体での付加価値創出と取引適正化を進めていくため、「パートナーシップ構築宣言」のさらなる周知と普及を推進し、成長による分配の好循環を実現されたい。商工会議所の伴走型経営相談体制の強化を含め、中小・小規模事業者の事業再構築、承継・再生、創業、IT化・DX推進、グリーン化などへの幅広い支援を強化すべきである。
2 社会経済活動の正常化に向けた「出口戦略」の早期提示と推進
当分の間ウィズコロナが続くことを前提に、ワクチン効果や過去の知見を踏まえ、国民、事業者が希望を持てる社会経済活動の正常化のシナリオである「出口戦略」を早急に提示されたい。
具体的なスケジュールの下、日常生活回復に向けて、基本的な感染対策は守りつつ、デジタルでのワクチン接種証明書やPCR検査・抗原検査などの陰性証明、感染対策を徹底する店舗への第三者認証制度などを活用した「攻めの感染対策」を強力に推進すべきである。
ワクチン接種については、国による接種目標の設定と確実な実現を目指すとともに、必要な財政支援の下、臨時施設による病床確保などの医療提供体制の強化が必要である。あわせて、症状ごとに効果的な治療薬を適宜適切に投与可能な環境整備を図るとともに、ワクチンや経口薬など治療薬の国産化に向けた取り組みも強力に推進すべきである。
3 国全体のレジリエンス強化に資する成長戦略と基盤整備
平時はもとより、次なるパンデミックや大規模自然災害などにも備え、国全体のレジリエンス強化が必要である。国民の命を守るためには強く豊かな国でなければならず、潜在成長率の底上げと財政持続性の確保が不可欠である。人口が急減する中、1人当たりGDP引き上げを目標とした成長戦略を策定し、人材や科学技術研究などのソフトパワーを高め、あらゆる分野で生産性向上を目指す必要がある。また、重要産業政策や経済・医療面の安全保障に戦略的に取り組むとともに、同じ考えを持つ国々と連携したグローバリゼーションを推進し、世界から必要とされる国づくりに強いリーダーシップを発揮されたい。
ポストコロナへの成長基盤整備としては、デジタル庁主導の下、マイナンバーなどを活用したデジタル社会形成を急ぐとともに、カーボンニュートラルについては、コスト負担などを具体的に開示し、国民的な議論の下に推進されたい。「S+3E」という大原則を守りつつ、安全性を確保した原子力活用や各エネルギーの欠点を克服するイノベーションへの支援の強化が不可欠である。
また、コロナ禍で大都市集中の弊害が顕在化し、リモートワークで若者の地方への関心が高まる中、分散型による活力ある地域経済社会への転換を推進するとともに、震災復興と福島再生、防災・減災・国土強靭(きょうじん)化に資する社会資本整備を推進されたい。
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