太田商事
愛知県刈谷市
戦国時代は織田家の家臣
愛知県中部の刈谷市に本社を置き、建築資材・エネルギー・日用雑貨などの事業を展開する太田商事の歴史は、戦国時代までさかのぼる。織田信長の三男・信孝が豊臣秀吉の軍に追われ、最後は知多半島南部の寺で切腹を言い渡されたが、それに最後まで付き添った家臣の一人に太田和泉守牧陰という人物がいた。それから72年後の承応4(1655)年、牧陰の孫で三代目の徳右衛門が刈谷に移り、「和泉屋」の看板を掲げて酒造業を起こしたのが始まりである。
「その寺の住職が刈谷藩の人だったので、おそらく三代目はその縁を頼って刈谷に来たのではないかと思います。それに、酒造業を始めるには土地や資本が必要なので、刈谷藩からの援助があったのかもしれません」と、太田商事社長の太田啓一さんは推測する。
酒造業はその後二代にわたり引き継がれて発展したが、当時の酒造業は幕府の統制や米価の変動、荷船の遭難などで大きな損失を被ることも多く、六代目の平兵衛正直が休業に踏み切り、より堅実な商売である米や木綿の扱いに転じた。七代目・平蔵正長の代には刈谷藩の御用達商となり、苗字帯刀が許された。そして八代目の平蔵正勝が明和4(1767)年に油問屋を始め、それが現在の太田商事の柱の一つである石油事業の原点となっている。
「また、養子で入って十一代目を継いだ平右衛門正行は中興の祖ともいえる優秀な人で、商売の基盤を堅固にするとともに、商いの心得となる家訓を残しました」
42カ条からなる家訓では、華美や浪費を排して質素倹約を常とし、投機的な事業を戒めるなど、堅実な商売をすることを示している。この十一代目の時代には、後にもう一つの主力事業へとつながる、鉄を扱う部門が生まれている。
本家と分家が互いに支え合う
明治30(1897)年には、十三代目の平右衛門正淑が太田家の不動産の管理・運用を行う泉合資会社を設立し、今もグループの不動産部門を担当している。そして大正10(1921)年には太田商事株式会社を設立し、十三代目が初代社長となり、企業として新たな始まりを迎えた。そしてここから、新たな経営体制も始まった。本家の長子が必ず社長を継ぐのではなく、必要があれば分家の人間が継ぐようになったのだ。現在社長を務める啓一さんは分家で、前社長で今は会長を務める太田宗一郎さんが本家である。
「十三代目が亡くなった後に弟の俊造が十四代目を継ぎ、俊造の家系が分家となり、この百年は本家と分家がお互いに支え合い、その時々でその役目に合う人が社長に就いてきました。そのため、本家と分家で跡目争いが起こるということもありません」と宗一郎さんは言う。宗一郎さんは太田商事の社長としては七代目で、初代の太田和泉守牧陰から始まる本家としては十六代目になる。
また、宗一郎さんは刈谷商工会議所の会頭も務めており、現在は4期目。宗一郎さんの父も会頭を務めている。
「この4期の間に、刈谷市の産業は大きく変わってきています。ここは自動車関連の製造業が多いのですが、自動車には電子部品が多く使われるようになり、電気自動車も入ってきて、各企業に変化が求められるようになっています」
「保守7割、革新3割」の心構え
太田商事の主力事業である建築資材・エネルギー・日用雑貨の三つは、江戸時代に始まり発展したものである。そして現在、四つ目の主力事業となっているのが外食事業で、喫茶店チェーン「コメダ珈琲」とフランチャイズ契約し、近隣地域に7店舗を展開。ほかの飲食部門への進出も計画している。これらのビジネスを総括して率いているのが社長の啓一さんである。
「昔の事業が今につながっており、少しずつ変わり続けて今に至っています。私はこれを『保守7割、革新3割』と呼んでいて、全く新しいことに取り組むのではなく、自分たちの得意なことを生かして、日々の商いの中で変わり続けています。それぞれの時代に合ったサービスや商品を提供してきたことが、これまでずっと続けてこられた理由だと思います」
現在は本家、分家ともに次の世代の後継者が育ってきており、社内で大きな業務を担っている。
「あと数年でバトンタッチできたらと思っています。創業400年まであと三十数年ですが、それまでは会社が安泰でいられるように布石は打ちました。それから先は、下の世代がどうしていくか考えていくでしょう」(啓一さん)
創業366年、会社設立100年、太田商事はこれからも本家と分家が互いに支え合い、代々受け継いできた事業を発展させていく。
プロフィール
社名:太田商事株式会社(おおたしょうじ)
所在地:愛知県刈谷市南桜町1-73 OTAビル9F
電話:0566-23-5811
HP:http://www.ota-shoji.co.jp/
代表者:太田啓一 代表取締役社長
創業:承応4(1655)年
従業員:270人
【刈谷商工会議所】
※月刊石垣2021年10月号に掲載された記事です。
最新号を紙面で読める!