長引くコロナ禍はいまだ収束が見通せず、景気回復まではまだまだ厳しい状況は続くという予想も出ている。しかし、苦境の時ほど経営者のモチベーションが重要になってくることも事実だ。そこで、厳しい状況下にも負けない強さとしなやかさを備える経営で従業員を守り、業績を上げ続ける女性経営者が持っている〝こだわり〟に迫った。
元専業主婦が入社9カ月で社長に就任しバーガーチェーンのV字回復を達成
2020年に創業50周年を迎えたドムドムハンバーガーは、日本初のハンバーガーチェーンだ。だが、1990年代には全国に400軒近くあった店舗も現在は30を切る。〝絶滅危惧種〟と揶揄(やゆ)される状況下で、社長に就任したのが藤﨑忍さんだ。入社から9カ月、39歳まで就業経験なしという経歴ながら、独自の経営術で黒字化を成し遂げた。
常連客の誘いから始まったドムドムハンバーガーとの縁
ドムドムハンバーガーが、日本で最初にオープンしたのは1970年。ダイエー傘下のオレンジフードコートが運営し、90年代に隆盛を極めたものの、時代の激流に乗り切れずに経営不振が続き、2017年3月にレンブラントホールディングスに譲渡。22年現在はグループ会社のレンブラント・インベストメントの100%子会社としてドムドムフードサービスが運営している。
藤﨑さんがドムドムフードサービスと接点を持ったのは、そんな事業再生の真っただ中だ。
「お客さまから『メニュー開発のアイデアを提供してもらえませんか』そう言われたのが始まりです」
当時、藤﨑さんは東京・新橋で「そらき」という和風居酒屋を経営していた。その常連客だったレンブラントホールディングスの専務に声を掛けられたのである。酔った勢いではない。オープン1年で予約必須の人気店にし、隣に2号店を出店した藤﨑さんの経営手腕、細やかな客対応、心尽くしの手料理の数々を買われてのことだ。
〝専業主婦〟を逸脱する店舗経営の才覚
藤﨑さんはアドバイザーとして商品を開発しただけではなく、自主的に店舗を巡ってはレポートを提出し、周囲を驚かせた。
「39歳まで専業主婦だった居酒屋のママがやることとは思えなかったんでしょうね」と藤﨑さんは笑う。
だが、藤﨑さんは一般的な〝専業主婦〟のイメージにはまらない経歴を持っていた。短大卒業後にすぐに政治家の妻として政治活動を支えたが、夫の選挙落選、度重なる闘病生活で働くことを余儀なくされると、友人の紹介で渋谷にある〝ギャルの聖地〟SHIBUYA109内のアパレルショップの店長に就く。39歳の初就職だが、持ち前のコミュニケーション力と行動力で店舗改革を進め、年商1億円を数年で年商1億9000万円に、売上坪効率トップ10入りする人気店に押し上げた。その後、得意な料理の腕を生かして居酒屋でアルバイトをすると、7カ月後には起業して開いたのが居酒屋「そらき」である。近年、全社員に経営者意識を促す経営者が増えているが、藤﨑さんは既に高い意識と求心力を持ち合わせていたのだ。
17年9月、同社で正社員にと打診されると12月には新店舗の店長、翌年4月からSV(統括エリアマネージャー)を経て8月、社長となる。
「入社して本社と現場の風通しの悪さ、前年比や減価率、人件費の数値を読み上げるだけの会議に疑問を感じていました。そして18年3月決算結果に愕然(がくぜん)として専務に『意見の言える立場にしてください』と伝えたほどです。実績がないからと一度は却下されましたが、その後もメールや電話で改善策を提案し続けました。でもまさか社長なんて、考えもしませんでした」
誰よりも危機感を持ち、再建への熱意と実行力のある藤﨑さんに、社長という大任が下された。
愛されるブランドづくりで二期連続で黒字化を達成
藤﨑さんは就任後、週4日ペースで全店舗を巡った。会議での数値の読み上げをなくし、LINEで各店舗をグループでつないで、各店舗の工夫点や在庫状況を共有できるようにし、藤﨑さんも注意喚起しやすい関係性を築くなど、社内の風通しを良くし、現場の声に耳を傾けた。
さらに前例のないイベント出店も、反対多数を説得して実現させる。
「弊社のショップは規模も小さくお客さまも固定化しています。でも、イベント出店は家の近所にお店がない人に知ってもらう絶好のチャンスだと伝えました。イベント限定のバーガーを販売すると、多くのお客さまがSNSで拡散してくれて認知度が上がりました。イベント出店をするうちにアパレルブランドとのコラボ企画も決まったほどです」
各地から店舗誘致の誘いも増えたというが、売り上げや店舗数にはとらわれない。主軸とするのは愛される店づくり、商品づくりだ。それが店舗の希少性や商品の話題性となってファンがファンを呼び、自発的に応援配信するYouTuberも続出した。藤﨑さんの経歴も注目され、テレビ出演や講演会のオファーが次々舞い込み、新潟県の加茂商工会議所の講演依頼も受けたことがあるという。今年8月に3冊目となる著書『39歳、初就職。』(世界文化社)を発売するなど、消費者参加型ムーブメントで2期連続黒字化を達成し、来期には2、3店舗がオープン予定と勢いに乗る。
「ブランドは会社がつくるのではなく、いろんな体験、挑戦を通じて、スタッフやお客さまの人生に並走して共感、共存してつくり上げられるものだと実感しています」と藤﨑さん。
女性社長だからと不利益を感じたことは一度もないとほほ笑む。性別の〝らしさ〟ではなく、個々の〝自分らしさ〟をどう引き出せるかが大切で、思いやりのある対応と、本音を言い合える環境づくりが経営者の役目、と熱く語った。
会社データ
社名:株式会社ドムドムフードサービス
所在地:神奈川県厚木市中町2-13-1 レンブラントホテル厚木3F
電話:046-210-3133
HP:https://domdomhamburger.com/
代表者:藤﨑 忍 代表取締役社長
従業員:約250人
【厚木商工会議所】
※月刊石垣2022年4月号に掲載された記事です。
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