リゾット専門店を皮切りに夜パフェ専門店や居酒屋などを、全国に幅広く展開しているGAKU。2021年6月のパティスリー開店に伴って、缶入りケーキ「ショートケーキ缶」を発売した。自動販売機で24時間いつでも買えるという意外性とフォトジェニックな見た目がたちまちSNS上でバズり、爆発的人気商品となっている。
ケーキのマイナス要素をできるだけ排除して商品化へ
コロナ禍でなかったら、生まれなかったかもしれない。そんなタイミングの妙を感じるのが、日本初の缶入りケーキ「ショートケーキ缶」だ。
同商品は、GAKUが運営する「パティスリーOKASHI GAKU」が開発し、21年6月から販売されている。透明プラスチックの缶に入ったショートケーキで、イチゴや生クリーム、スポンジなどが織り成すかわいい断面に萌える、いわゆる〝萌え断〟が360度どこから見ても楽しめる。そんな写真映えする商品が、自動販売機で24時間いつでも買えるとSNSで話題沸騰。たちまち大人気商品となった。
見た目だけでなく、味わいも本格派だ。北海道産の新鮮な生クリームのほか、アーモンドフロランタン(キャラメルコーティングされたアーモンドスライスがのった焼き菓子)、ジェノワーズ(卵白と卵黄を一緒に泡立てたスポンジケーキ)、イチゴのスライスとイチゴのコンフィチュールなどで構成され、甘さと口溶けのバランスが絶妙だ。
「見栄えは大切ですが、それだけで評価されるのは悔しいので、素材にもこだわりました。また、キャラメルを使ったアーモンドでカリッとした食感も楽しめるように計算してつくっています」と同社社長の橋本学さんは自信をのぞかせた。
同商品開発の発端は、ケーキのマイナス要素をできるだけなくしたいという思いだった。ケーキは崩れやすく、持ち運びもしにくい。ケーキ店は閉店時間が早いため、食品ロスが出るリスクもある。その解決策としてふんわりひらめいたのが、缶入りにして自動販売機でも売れるようにしたらどうか?というアイデアだ。たまたま展示会で見掛けた透明のプラスチック容器に着想を得て、中に空気が入らぬように手作業で素材を一つひとつ詰めていき、商品化に成功した。
客のニーズをつかんでユニークな飲食店を次々と出店
同社は06年にリゾット専門店からスタートした。それまで橋本さんはイタリア料理店でシェフをしていて、リゾット目当てで来店する客が多いと感じていた。しかし、コース料理が基本のため、もっと気軽にリゾットだけを食べられるような店があったら、お客さんが喜ぶと思ったのだ。
「昔から早めに独立したいと考えていたし、イタリア料理店はほかにもたくさんあるので、やるならほかにはないワクワクするような店にしたいと思いました」
当時、リゾット専門店は珍しかったことや、メニューが豊富でいろいろな味を楽しめることから客足も上々で、次々と店舗を増やしていった。その人気にひと役買ったのがデザートだ。各店舗に卓上の小さなジェラートマシーンを設置し、リゾットの締めにアイスクリームが楽しめるところも、お客さんの満足度を押し上げた。
「北海道の冬は暖房が効いて乾燥しているから、アイスクリームがおいしく感じられるんです。僕もお酒を飲んだ後は、パフェが食べたくなるタイプなんですよ」
橋本さん自身が甘いもの好きということもあり、15年に落ち着いた佇まいの夜パフェ専門店をオープンする。生のフルーツをふんだんに使い、甘さ控えめでさっぱりとした手づくりパフェは、食事やお酒の後に甘いものが食べたいという潜在ニーズをつかみ、続々と店舗を増やしていった。
〝スイーツ〟という流れで「いつかパティスリーもやりたい」という構想を抱きつつ、夜パフェが忙しくてなかなか手が回らなかったところへ、降って湧いたのがコロナ禍だった。突然時間ができたため、21年7月に念願のパティスリーをオープンし、それに先駆けてショートケーキ缶の自動販売機での販売を開始した。
「ツイッターでショートケーキ缶のことを発信したら、いきなり20万も〝いいね〟が付きました。全て手づくりで最初は1日40~50個程度しかつくれなかったので、すぐに売り切れてしまって」
その後、人気YouTuberの番組で立て続けに取り上げられたり、テレビで紹介されたりして知名度が急上昇。現在では、缶にケーキを詰める専門スタッフを雇って増産に努めた結果、約7カ月で6万4000個を売り上げ、その人気は今も続いている。
アフターコロナを見据えて社内の体制を見直す
やることがことごとく当たり、順調に飲食店経営を行う傍ら、飲食店のコンサルティングなど活動の幅を広げている橋本さん。次はどのような展開を考えているのか聞いてみたところ、一番力を入れたいのは「整える」ことだという。
「この5~6年夜パフェが好調で、それをメインにやってきましたが、コロナ禍でリズムが狂ってしまいました。緊急事態宣言が解除されてお客さんは戻ってきてくれましたが、スタッフのモチベーションを維持するのは難しい。アフターコロナを見据えて、今のうちに中を整えておきたい」
ショートケーキ缶は想定以上に話題になったが、この人気が今後も続くとは思っていないと言う。急激に人気になったものはいつか飽きられて、「以前流行(はや)った商品」になってしまうケースも少なくない。社内の体制を整えつつ、「細く長く愛される商品をつくっていきたい」と橋本さんは静かに語った。
会社データ
社名:株式会社GAKU
所在地:北海道札幌市中央区南4条西2-10-1
HP:https://risotteria-gaku.net/
代表者:橋本学 代表取締役
設立:2006年
従業員:250人
【札幌商工会議所】
※月刊石垣2022年4月号に掲載された記事です。
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