政府はこのほど、第13回新しい資本主義実現会議(議長・岸田文雄首相)を開催し、「スタートアップ育成5か年計画」と、中間層の所得拡大を目指す「資産所得倍増プラン」を決定した。スタートアップ育成計画では、今後5年間の投資額を10兆円規模に拡大。所得倍増プランではNISA(少額非課税制度)を拡充することなどを打ち出している。スタートアップ育成5か年計画の概要(抜粋)は下記の通り。
スタートアップ育成5か年計画では、「スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築」「スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化」「オープンイノベーションの推進」の3本柱を一体として推進。現在の年間8000億円規模の投資額を、2027年度に10倍以上の10兆円規模に拡大する目標を示した。
将来的には、ユニコーンを100社創出。スタートアップを10万社創出することで世界有数のスタートアップの集積地になることを目指す。
人材に関しては、メンターによる支援事業を拡大するとともに、横展開を行うほか、起業を志す若手人材を選抜してシリコンバレーに派遣する派遣事業の派遣規模を5年間で1000人規模に拡大。世界各地における起業家育成の拠点も創設する。
資金供給の強化については、投資実績のある中小企業基盤整備機構や産業革新投資機構の出資機能を強化。オープンイノベーションの推進に向けては、促進するための税制措置を講じることなどを盛り込んでいる。
資産所得倍増プランでは、「①家計金融資産を貯蓄から投資にシフトさせるNISAの抜本的拡充や恒久化」「②加入可能年齢の引き上げなど『iDeCo(イデコ)』制度の改革」「③消費者に対して中立的で信頼できるアドバイスの提供を促すための仕組みの創設」「④雇用者に対する資産形成の強化」「⑤安定的な資産形成の重要性を浸透させていくための金融経済教育の充実」「⑥世界に開かれた国際金融センターの実現」「⑦顧客本位の業務運営の確保」の7本柱の取り組みを一体的に推進。投資経験者の倍増を目指したNISAの拡充については、5年間で、NISA総口座数(一般・つみたて)を現在の1700万から3400万への増加を目指して制度を整備し、買付額については現在の28兆円から56兆円へと倍増させる。
公的年金に上乗せできる個人型確定拠出年金iDeCoについては、加入年齢を70歳に引き上げ。NISAと併せて、iDeCoについても、各種手続きの簡素化・迅速化を進め、マイナンバーカードの活用も含めて事務手続きの効率化を図る。
また、消費者に対して中立的で信頼できるアドバイスの提供を促すための仕組みを創設。安定的な資産形成の重要性を浸透させていくための金融経済教育も充実させる。
詳細は、https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/kaigi/dai13/gijisidai.htmlを参照。
1.基本的考え方(略)
2.目標
○日本にスタートアップを生み育てるエコシステムを創出し、第二の創業ブームを実現するためには、大きな目標を掲げて、それに向けて官民で一致協力して取り組んでいくことが必要である。
○目標については、創業の「数」(開業数)のみではなく、創業したスタートアップの成長すなわち「規模の拡大」にも、同時に着目することが重要である。そこで、創業の絶対数と、創業したスタートアップの規模の拡大を包含する指標として、スタートアップへの投資額に着目する。
○この投資額は、過去5年間で2・3倍増(3600億円(2017年)→8200億円(21年))であり、現在、8000億円規模であるが、本5か年計画の実施により、5年後の27年度に10倍を超える規模(10兆円規模)とすることを大きな目標に掲げて、官民一体で取り組みを進めていくこととする。
○さらに、将来においては、ユニコーンを100社創出し、スタートアップを10万社創出することにより、わが国がアジア最大のスタートアップハブとして世界有数のスタートアップの集積地になることを目指す。
3.パッケージの方向性
○企業の参入率・退出率の平均(創造的破壊の指標)が高い国ほど、1人当たり経済成長率が高い。さらに、若い企業(スタートアップ)の方が付加価値創造への貢献度が高い。他方、わが国の開業率は、米国9・2%、英国11・9%と比べ、5・1%にとどまっており、廃業率も、米国8・5%、英国10・5%と比較して、3・3%となっている。
○まずは、わが国でも、スタートアップの担い手を多数育成し、その起業を加速する。そこで、優れたアイデア・技術を持つ若い人材の発掘・育成のため、国内に加え、海外のメンターや教育機関も活用した実践的な起業家育成を図る。加えて、若手人材の世界各国への派遣研修の実施など、わが国でスタートアップの起業を担う人材を育成し、そうした人材によるグローバルなネットワークを構築する。
○また、米国では、1980年代の開業率は12%であるのに対し、現在(19年)は9%であり、起業自体は減少している一方で、ベンチャーキャピタルの投資額は増加傾向にある(08年300億ドル→15年600億ドル)。すなわち、有望な企業への支援は増加しており、スタートアップの育成に大きな役割を果たしている。
○そこで、わが国においても、スタートアップの担い手の確保とあわせて、公的資本を含む資金供給の拡大を図る。このため、国内のベンチャーキャピタルの育成に加え、海外投資家・ベンチャーキャピタルの呼び込みを図る。また、成長に時間を要するディープテック系のスタートアップを中心に、スタートアップの事業展開および出口戦略を多様化する観点から、ストックオプションなどに関する環境整備や、スタートアップに対する公共調達の拡大などを推進する。
○オープンイノベーションの視点で見ると、日本における事業会社によるスタートアップ企業に対する投資額は、米国、中国、欧州と比べて極めて低い水準にある(米国402億ドル、中国115億ドル、欧州90億ドル、日本15億ドル(20年))。また、スタートアップに対するM&Aの件数についても、日本は欧米に比べて極めて少ない(米国1473件、英国244件、フランス60件、ドイツ49件、日本15件(20年))。
○スタートアップのエグジットを考えた場合、M&AとIPOの比率に着目すると、米国ではM&Aが9割を占めるのに対し、わが国ではIPOが8割であり、圧倒的にIPOの比率が高い。M&Aの比率を高めていくことが求められる。
○このように、スタートアップを買収することは、スタートアップのエグジット戦略(出口戦略)としても、また既存の大企業のオープンイノベーションの推進策としても重要であり、既存企業とスタートアップとのオープンイノベーションを推進するための環境整備を進めることは重要である。
○以上の整理の下、このスタートアップ育成5か年計画においては、以下の大きな3本柱の取り組みを一体として推進していくこととする。
①スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築
②スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化
③オープンイノベーションの推進
○また、公的支援を行った事実は、支援を受けたスタートアップへの認証効果(お墨付き)の役割を果たし、さらなる民間投資を喚起するとされる。すでに、今般の総合経済対策においては、スタートアップ育成に向けて、過去最大規模の予算措置(約1兆円)を閣議決定したところであるが、政策の効果についてKPIを設定し、スタートアップ担当大臣によりフォローアップを行いながら、政府として引き続き政策資源を総動員して、官民での大きな方向性の実現に向けて努力していく。
○次世代の産業の核となり得る新産業分野のディープテックについては、重点分野などを明確化していくこととする。また、農業や医療などのディープテックの個別分野に特化した起業家教育・スタートアップ創出支援に関する取り組みの強化を図る。
○なお、税制措置については、今後の税制改正過程において検討する。
4.第一の柱 スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築
(1) メンターによる支援事業の拡大・横展開
(2) 海外における起業家育成の拠点の創設(「出島」事業)
(3) 米国大学の日本向け起業家育成プログラムの創設などを含む、アントレプレナー教育の強化
(4) 1大学1エグジット運動
(5) 大学・小中高生でのスタートアップ創出に向けた支援
(6) 高等専門学校における起業家教育の強化
(7) グローバルスタートアップキャンパス構想
(8) スタートアップ・大学における知的財産戦略
(9) 研究分野の担い手の拡大
(10) 海外起業家・投資家の誘致拡大
(11) 再チャレンジを支援する環境の整備
(12) 国内の起業家コミュニティの形成促進
5.第二の柱 スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化
(1) 中小企業基盤整備機構のベンチャーキャピタルへの出資機能の強化
(2) 産業革新投資機構の出資機能の強化
(3) 官民ファンドなどの出資機能の強化
(4) 新エネルギー・産業技術総合開発機構による研究開発型スタートアップへの支援策の強化
(5) 日本医療研究開発機構による創薬ベンチャーへの支援強化
(6) 海外先進エコシステムとの接続強化
(7) スタートアップへの投資を促すための措置
(8) 個人からベンチャーキャピタルへの投資促進
(9) ストックオプションの環境整備
(10) RSU(Restricted Stock Unit : 事後交付型譲渡制限付株式)の活用に向けた環境整備
(11) 株式投資型クラウドファンディングの活用に向けた環境整備
(12) SBIR制度の抜本見直しと公共調達の促進
(13) 経営者の個人保証を不要にする制度の見直し
(14) IPOプロセスの整備
(15) SPAC(特別買収目的会社)の検討
(16) 未上場株のセカンダリーマーケットの整備
(17) 特定投資家私募制度の見直し
(18) 海外進出を促すための出国税などに関する税制上の措置
(19) Web3・0に関する環境整備
(20) 事業成長担保権の創設
(21) 個人金融資産およびGPIFなどの長期運用資金のベンチャー投資への循環
(22) 銀行などによるスタートアップへの融資促進
(23) 社会的起業のエコシステムの整備とインパクト投資の推進
(24) 海外スタートアップの呼び込み、国内スタートアップ海外展開の強化
(25) 海外の投資家やベンチャーキャピタルを呼び込むための環境整備
(26) 地方におけるスタートアップ創出の強化
(27) 福島でのスタートアップ創出の支援
(28) 25年大阪・関西万博でのスタートアップの活用
6.第三の柱 オープンイノベーションの推進
(1) オープンイノベーションを促すための税制措置などを講じる
(2) 公募増資ルールの見直し
(3) 事業再構築のための私的整理法制の整備
(4) スタートアップへの円滑な労働移動
(5) 組織再編のさらなる加速に向けた検討
(6) M&Aを促進するための国際会計基準(IFRS)の任意適用の拡大
(7) スタートアップ・エコシステムの全体像把握のためのデータの収集・整理
(8) 公共サービスやインフラに関するデータのオープン化の推進
(9) 大企業とスタートアップのネットワーク強化
詳細は、https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/kaigi/dai13/shiryou1.pdfを参照。
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