フジムラ製作所は、生産管理システムを駆使したデジタル板金加工技術により、川口商工会議所の「i-waza(いいわざ)ブランド」認定や「第2回川口の元気経営大賞」など多くの受賞歴を持つ。デジタル板金の肝は、受注から始まる全工程を見える化したところにある。今回は、IT導入によって同社にもたらされた成果を見ていく。
デジタル化の目標はばらつきをなくすこと
フジムラ製作所は1点ものを含めた多品種少量対応が強み。2000年に開業し、現在では約800社の顧客と取引がある。社長の藤村智広さんが入社した02年からプレス機械のタレットパンチプレスやレーザーで切断や溶接を行うレーザー加工機、CAD/CAMなどを積極的に導入し、現場の自動化・効率化を図ってきた。業務の効率化では07年にネットワーク上でのファイルの管理を行うファイルサーバーを導入した。
藤村さんがデジタル化でまず目指したことは、ばらつきをなくすことだ。工場の現場では、人手による溶接や組み立て、研磨作業はデータ管理が難しく、品質は職人の技量に左右されることがあった。業務でもばらつきがあった。例えば見積もりの内容が社長と専務では差が生じることがしばしばあり、「これではお客さまの信頼を得られない」と感じていた。
ばらつき問題を解決するため、同社は08年ごろからデジタル(IT)化による業務の見える化、現場の見える化に取り組んだ。そこには、「楽をしたいという気持ちもあった」と藤村さんは打ち明ける。「楽をしたい」の真意はこうだ。
「どこの会社でも同じだと思うのですが、社長や専務にやるべき業務が多すぎて、経営という本来の仕事に時間を割けないのです。そこで経営者がやらなくてもいい業務は誰でも分かるようにして時間をつくりたかった」
そこで見積もりを標準化するために、エクセルを使った生産管理をやめて、金属加工に特化したアマダ社の生産管理システム「WILL」の見積もりモジュールを使うことにした。パラメーター(変数)は自社で決める必要があるので、「毎月パラメーターを調整して適正な利益が確保できる見積もりを出すようにしました」。
「WILL」を選んだ理由は、コストと業務の変化に合わせた変更のしやすさだ。当時、スクラッチ開発(オリジナルのシステムを開発すること)を選ぶと1500万円もかかって手が出せなかったし、藤村さんが工場見学に行った先では、「自社専用につくったシステムは自社の業務に合わなくなっても変えることが難しい」といったさまざまな声も聞いた。そこで、藤村さんは400~500万円というコストと、社内でも帳票変更などができるといった変更のしやすさなどから、既製のパッケージを選んだ。もちろんWILLだけでなく、多くのメーカーなどの手を借りて業務の効率化を実現した結果、「例えば数年後に同じ注文が入っても、過去データを参考に見積もりを出して加工できる体制が実現できました」。
次は現場の見える化に取り組んだ。属人化しがちな職人の技術を共有するため、製造工程をタブレット端末で撮影し、動画や写真で記録するようにした。5カ所の生産拠点をVPN(仮想専用線)で結び、WILLにより、生産情報や図面・写真・ポンチ絵のような画像情報、3次元モデルや展開図・加工データのような技術情報を一元管理し活用した。ロボットの導入も進めており、17年からは検査に活用。19年からはベンディングと金型の段取り替えの自動化に取り組んでいる。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)によるバックオフィス業務の効率化にも取り組んでいる。
経営者と社員が一体となって取り組む
現在、事務所・現場、正社員・パート社員にかかわらず、モバイル端末を使って仕事をしている。当初は反発の声もあったが、藤村さんは、「納期に追われて深夜残業する、安い給料で働くということが当たり前という製造業の働き方を変えたい」と訴えた。
「デジタル化によって残業時間が減っても給料は変わらないし、基本給もどんどん底上げします、と経営者の意図が伝わるように繰り返し話しました」。そして目標を明確にした。例えば今期の目標を達成したら給料を10%引き上げますというように。
この話を他社の経営者にすると、「給料を上げることができなかったら、どうするんですか」と心配されたが、「言ったからには、社員と一緒になって目標達成に取り組むしかない。『デジタル化します。社員さん、頑張ってください』では成果が得られません」。
デジタル化によって経営は順調だ。同社の売上高がリーマンショックでもコロナ禍でも右肩上がりを続けている理由は、デジタル化を推進する経営者の強い意志があった。
わが社ができたIT化への取り組み
IT化前の問題
・ 勘に頼った見積もり、板金加工技術の属人化、納期遅れなど、板金加工業界が抱える問題に悩まされていた。
導入したITシステム
・ 生産管理エリア、プログラムエリア、ファクトリーエリアに分け、最適な機器を導入。アマダ社のWILLは生産管理エリアで活躍している。
IT化後の状況
・ 品質や数量のミスがゼロになった。万が一ミスが起こっても現場を特定できる仕組みが完成した。
・ 顧客の問い合わせに誰でも即座に答えられるようになった。
・ 生産効率が向上し、売上高は毎年右肩上がりを達成。
会社データ
社名 : 株式会社フジムラ製作所
所在地 : 埼玉県川口市領家3-12-10
電話 : 048-225-7781
HP : https://www.fujimurass.com/
代表者 : 藤村智広 代表取締役社長
従業員 : 約120人
【川口商工会議所】
※月刊石垣2022年12月号に掲載された記事です。
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