中小企業の人手不足が叫ばれて久しい。経営者は人材を外に求めるばかりではなく、社員が能力を十分に発揮できる環境を整えることが急務だ。女性が働きやすく生き生きと活躍している企業の取り組みは、男性社員にも好影響を与え、会社のイメージアップにも直結する。そこで、女性が働きやすい環境をつくり出して業績を上げている企業に迫った。
"男の世界"だった工事現場を改善し女性社員が活躍しやすい職場環境に
中村土建は、栃木県を中心に土木・建築の設計・施工および解体工事や不動産の土地活用などを請け負う総合建設企業である。地球環境や職場環境に配慮したESG経営を推進しており、特に女性社員が働きやすい職場環境づくりに力を入れ、この業界では珍しく、多くの女性社員が工事の現場で活躍している。また、女性社員のみで結成された「女子部」があり、現場や社内の環境改善に積極的に関わっている。
女性社員が学校の後輩を積極的にリクルート
建築・土木業というと今も「きつい、汚い、危険」という3Kのイメージが強く、新しい働き手の確保が長年の大きな問題となっている。ましてや女性がこの業界に入るケースの少ないのが現状である。そのような中、中村土建は、社員78人のうち11人が女性社員だ(役員2人、経営管理部4人、企画設計部1人、CS部1人、土木部2人、建築部1人)。同業他社に比べて女性を多く採用している理由について、社長の渡邉幸雄さんはこう説明する。
「今でこそ自社のブランディング強化と業界のイメージアップのために女性社員の活躍に着目し、女性を積極的に採用するようにしていますが、最初から意識してそうしていたわけではありません。以前から女性の技術者が一人いて、そうしたら自然と女性が入社してくるようになり、気が付いたら女性社員が多くなっていたというのが本当のところです」
同社の女性社員は高卒入社の人が多く、地元の工業高校を出て入社した女性社員が、数年して高校の後輩をリクルートしてくるケースもあるという。「若い人が入ってこないと自分が社内で一番下のままなので、それで後輩を連れてくるというのもあります」と渡邉さんは言うが、自分が働いている会社が女性にとって働きやすい職場でなければ、後輩に自信を持って「うちに入らない?」とは誘えないだろう。
女性社員が増えるにしたがって、女性が働きやすいよう、少しずつ社内環境も整えられていった。例えば、以前は社内に女性用トイレは個室が一つしかなかったが、それでは足りないから増やしてほしいという女性社員たちの要望を受け、女性社員たちが意見を出し合って設計した女性用トイレが増設された。このときに指揮を執ったのも、同社の女性技術者だ。
現場の環境を整えながらも教育指導は男女の区別なし
建築・土木業の場合、外の現場に出る女性社員が働きやすい環境も整えなければならない。そのため同社では各現場に女性専用トイレや更衣室を置き、トイレには鏡や洗面台を設置するなど、男性が多い現場で働く女性社員に配慮した取り組みも行っている。また、おしゃれをしたい女性社員のためにネイルやヘアカラーも認めていると渡邉さんは言う。
「一方で現場の男性社員からは、若い女性社員をどう教育していけばいいか、どう扱えばいいかとよく聞かれます。それについては、ジェンダー平等を掲げており、現場で性別は関係ないので、男女の区別なく指導して現場監督に育ててくださいと言っています。ただし言葉遣いはセクハラやパワハラにならないよう指導しています」
また現場監督は、朝8時に現場に出て夕方5時に作業が終わった後も、1~2時間の残業がある。そのため、結婚して子どもができると、女性の現場監督は働き続けるのが難しくなってしまう。
「結婚・出産までに多くの技術を身に付けて、復職したら修繕部門で活躍してくださいと伝えています。建物や工場のメンテナンスを行う修繕部門は現場に常駐する必要がなく、どこかで不具合が起こったら駆け付けて修理したり、職人を手配したりすればいい。もし子どもが急に熱を出しても、仕事を抜けて保育園に迎えに行って病院に連れて行ったら、また仕事に戻るといった働き方ができますから」
今年1月には、女性の技術系社員が同社で初めて部長に昇格した。維持修繕部門の施工管理などが評価されてのことで、今後は女性社員の活躍におけるマネジメントにも活躍が期待されている。
女性が活躍する企業として会社のイメージアップに貢献
また、2年前には女性社員で構成される「女子部」を結成。女性目線での工夫やアイデアを現場に反映させることで、女性はもとより誰もが働きやすい環境整備をサポートしている。これに参加する経営管理部の黒古里美さんは、女子部の活動をこう説明する。
「年間目標を立て、月1回、女性社員が集まって意見を出し合っています。昨年は現場の要望もあり、現場のイメージアップのために、看板やイメージキャラクターを作成しました。また、昨年末には地元のテレビ局で女子部の活動が番組で紹介され、女性が活躍する企業として会社のイメージアップに貢献できたと感じています」
そのほかにも、女性ならではの視点による広告物の作成や、地元で開催されるイベントへの参画など、目には見えにくいが多方面で効果が出ていると渡邉さんは言う。また人材採用面においても、女性が女性を呼ぶという好循環が生まれただけでなく、若手男性社員の確保にも貢献しており、今では全社員の3分の1が20代という状況になっている。
「これからの建設・土木の現場は女性の活躍が必要になってきます。将来的には女性社員を全体の2割5分から3割にしたい。そのためにも、現場で働く女性社員たちが結婚して子どもが生まれた後も、仕事で活躍できる仕組みをつくっていきます」と渡邉さんは力強く語った。
同社は女性社員も働きやすい職場環境づくりをすることで、建築・土木の現場を女性が活躍できる場として間口を広げている。この功績は、業界全体にとってもプラスになるといえるだろう。
会社データ
社名 : 中村土建株式会社(なかむらどけん)
所在地 : 栃木県宇都宮市大曽4-10-19
電話 : 028-622-6581
HP : https://www.nakamuradoken.co.jp/
代表者 : 渡邉幸雄 代表取締役社長
従業員 : 78人
【宇都宮商工会議所】
※月刊石垣2023年4月号に掲載された記事です。
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