地域で世代を超えて受け継がれてきた食文化「100年フード」の中から、日本が誇る食文化を文化庁、有識者がリレー形式で紹介します。
「100年フード」には日本各地の多様な郷土の料理が認定されていますが、注目したいのがだしの地域性です。言わずもがな、和食のおいしさに欠かせないだしのうまみ。グルタミン酸を含む昆布や、イノシン酸を含むかつお節、グアニル酸を含む干し椎茸などはよく知られていますが、九州を中心に古くから愛されてきたのは、トビウオのだし「あごだし」です。
海面の上を鋭く滑空する姿が印象的なトビウオ。もちろん、鮮魚としてのトビウオも、刺し身や唐揚げ、すり身を揚げたつけ揚げなど、いろいろな調理法でおいしく食べられる魚です。筋肉質な身には青臭さがあまりなく、脂肪の含有量も少ないため、雑味のないすっきりと上品で深いうまみのあるだしを引けるのが特徴とされます。カタクチイワシなどは煮干しにしてだしの材料にするのが一般的ですが、トビウオは焼き干しといって、一度軽く焼いて余分な脂を落とし、さらに天日で乾燥させたものが好まれます。香ばしい風味が加わることで、より一層うまみが凝縮され、濃厚で澄み切っただしが取れるそう。九州では特に大切な祝いの席やハレの日に使われ、お正月の雑煮のだしや行事の際につくる煮しめのだしは、あごだしでないと締まらないとされました。
長崎県平戸市や新上五島町、鹿児島県屋久島町などは、日本有数のトビウオの漁獲地として知られています。それぞれの地域に根付いたあごの食文化があり、あごだしを守り伝えていこうという人々の熱意があります。ぜひ、現地でも味わってみてください。
100年フード
文化庁は、①地域の風土や歴史の中で創意工夫し地域に根差したストーリーを持つ②世代を超えて受け継がれてきた③地域の誇りとして100年を超えて継承することを宣言する団体が存在する、食文化を「100年フード」として認定しています。
100年フード公式ウェブサイト ▶ https://foodculture2021.go.jp/jirei/
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