国内におけるeスポーツの市場規模は年々拡大し、成長が期待される分野である。老若男女を問わず参加できるのも魅力の一つ。各地では、新たな文化として根付く可能性のあるeスポーツを地域活性化に活用するとともに、バーチャルの世界とリアルを融合させる動きもある。そこで、eスポーツによる地域活性化の現状と展望について考察する。
eスポーツは地方創生に親和性が高く群馬県のブランド力向上にもつながる
群馬県ではeスポーツを活用した「地域創生(ひとづくり、まちづくり、しごとづくり)」と「群馬のブランド力向上」に取り組んでいる。eスポーツを推進することで県内の産業や経済の活性化を図り、県民が活躍する場の創出やIT人材の輩出など、県の経済的・文化的な発展につながることを期待している。群馬県産業経済部戦略セールス局eスポーツ・新コンテンツ創出課課長の齊藤義之さんに話を聞いた。
eスポーツで地域を活性化し総合的な経済効果を図る
群馬県では2020年4月にeスポーツ・新コンテンツ創出課を創設し、eスポーツに関連する事業を推進している。齊藤義之さんは、それから3年にわたり同課の課長を務めている]。
「県にeスポーツという名のつく課があるのは、全国でも群馬県だけです。行政がこういった課を設けるのは、非常に思い切ったことだと思います。群馬県では、eスポーツには四つの特性があると認識しており、それらが地方創生に対して親和性が高く、活用しやすいと考えています」と言って齊藤さんが挙げたeスポーツの特性は、以下の四つである。
第一に、eスポーツは人と人、チームとチームが戦うためにどちらが勝つか分からず、見ている方もスポーツ観戦と同じ感覚で楽しむことができるため、大会を開催すれば集客性が高いこと。実際に国内外で大きな大会が数多く開催されている。二つ目は、eスポーツをする人も見る人も多くは若者であることから、若い人たちへの訴求力が高いこと。三つ目は、身体能力や性別、年齢による差を生じにくくすることが可能なため、誰もが等しく楽しむことができること。そして四つ目が、オンラインでできること。オンラインなら距離は関係なく世界とつながり、群馬県を世界にアピールすることが容易である。
「多くの方々がeスポーツを楽しむことによって、小規模でもいいのでeスポーツのイベントを各地で開催すれば、地域が活性化します。さらに、若い人たちがそこで消費活動を行うことで新しい市場が生まれ、地域の企業がビジネスにつなげていくことができる。eスポーツを通じて、そういった総合的な経済効果が生まれることを想定しています。そしてそれを、群馬県のブランド力の向上にもつなげていく。そのための仕組みづくりを県として行っています」
必要機材の無料貸し出しでeスポーツ大会の開催を促進
地域でeスポーツを普及させるためのポイントは二つあると齊藤さんは言う。
「一つは実際に多くの人に見てもらうことです。eスポーツのイベントを中心市街地で行うと、多くのお客さんが会場に集まりますし、それをオンラインで中継すれば全国の方々が視聴してくれます。もう一つは、それを見た地域の方々や企業、商店街などにeスポーツのイベントを開催してもらうことです。小規模なイベントにはなりますが、必要な機材を県が無料で貸し出していますし、開催も支援しています。実際に自分たちでイベントを一回やってみるとノウハウが蓄積され、より経験値の高いIT人材を育てていくこともできます。これによりeスポーツが地域創生に役立つことを実感していただき、県内各地に広まっていくよう取り組んでいます」
その一環として、群馬県では昨年10月に県庁前の県民広場で屋外eスポーツイベント「eスポーツ酒場」を開催。庁舎の壁面にゲーム映像を投影してeスポーツ対決を行うとともに、キッチンカーを出店して飲食も提供し、多くの人で盛り上がった。そういったこともあり昨年度は機材貸し出しの問い合わせも増え、貸し出しにより10件ほどのイベントが行われた。実施内容によっては、予算ゼロで開催できるケースもある。
また、県は新たなジャンルの大会や全国大会の誘致にも取り組む。2020年11月からは全国初の19歳以下の国内最強チームを決定するU19eスポーツ選手権を開催し、全国から数多くのチームが予選に参加している。
「群馬県でこういった大会が開かれることが地域の活性化につながるということもあり、この大会では県内を中心に多くの企業から協賛をいただいています。将来的にはさらに大きな大会を開催して、群馬県の産業が参入していくことが重要だと思っています」
企業対抗のリーグ戦で自社を広くアピール
もう一つのユニークな取り組みが「群馬県企業等対抗社会人eスポーツリーグ」(愛称・GUNMA LEAGUE)である。参加条件は県内に本社や支店などがある企業・学校・団体で、それぞれがeスポーツのチームを結成し、予選リーグと決勝トーナメントを戦っていくもの。実行委員会には、群馬県商工会議所連合会も名を連ねる。昨年1月から2月にかけて第1回を無観客で開催し、24チームが参加。コロナ禍が落ち着いた今年2月から3月にかけては県内の商業施設で第2回を開催し、会社の同僚や観客が見守る中、34チームが熱戦を繰り広げた。
「この企業対抗戦は三つのことを目的にしています。一つは企業がeスポーツチームをつくることで、社員間の交流を活発化させること。二つ目はゲーム好き同士による企業間を超えた交流や異業種間交流の促進。そして三つ目が企業PRです。大会では、対戦前に会社のPRをしてもらっています。群馬県はBtoBの企業が多く、知名度が低い企業がほとんどです。eスポーツは若い人への訴求力が高いので、大会で若年層に企業PRをしてもらうことで、企業の人材確保にもつなげたい。実際にそういった事例もいくつか聞いています。これまでは年1回の開催でしたが、本年度はやり方を変えて草野球リーグのような形で開催したいと考えています」
さらに、地域課題の一つである高齢化社会対策への取り組みとしても、eスポーツを活用することができると齊藤さんは言う。
「実はシニア層の方々は、若い頃にインベーダーゲームで遊んだ世代もいて、ゲームに慣れているんです。そこで、退職した高齢者が社会参加するきっかけとして、eスポーツを活用する取り組みも行っています。また、体に障がいのある子どもが通う県立特別支援学校の中には、授業にeスポーツを取り入れているところもあります。このように、eスポーツはさまざまな地域課題を解決するのに適したツールでもあるのです」
企業が社内にeスポーツ部をつくって大会に参加を
一方で、eスポーツにはゲームのやりすぎによるゲーム依存症の増加を心配する声もある。ゲーム依存症は若者がかかるケースが多いが、高齢者がなることもあり、注意する必要があるとされている。これについても群馬県では同時進行で対策を進めている。
「こちらは健康福祉分野の課と連携して、高校生にインタビューをしたり、ゲーム依存症に詳しい久里浜医療センターの先生や群馬大学の教授とカンファレンスで話し合ったりした情報をYouTubeなどを通じて発信しています。それと同時に、ゲーム依存症対策の窓口も用意しています」
ところで、企業が社内にeスポーツ部をつくるには、どうしたらいいのだろうか。
「例えば2対2で戦うサッカーゲームであれば、自社で参加する社員が2人いればいい。若い社員でしたらeスポーツに興味がある人はいるはずです。それで大会に出場すればいいのです。GUNMA LEAGUEは、県内に本社や支店などがある会社が対象ですが、そのほかにも全国レベルで社会人のためのeスポーツの大会もあり、企業チームでリーグ戦を行っているので、そちらに参加することもできます」
このように、eスポーツはひとづくり、まちづくり、しごとづくりに寄与し、それによる地方創生やさまざまな地域課題、企業の人材確保問題を解決するために役立つツールになることは間違いない。だからこそ行政が率先して取り組んでいる。
データ
群馬県
所在地 : 群馬県前橋市大手町1-1-1
電話 : 027-223-1111(代表)
HP : https://www.pref.gunma.jp/
※月刊石垣2023年6月号に掲載された記事です。
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