内閣府はこのほど、2023年度の経済財政白書「年次経済財政報告~動き始めた物価と賃金~」を取りまとめ、公表した。「マクロ経済の動向と課題」「家計の所得向上と少子化傾向の反転に向けた課題」「企業の収益性向上に向けた課題」の3章構成で、「第1章 マクロ経済の動向と課題」では、物価動向の背景にある要因と基調の強さに関する視点とともに、デフレ脱却に向けて鍵となる要因を提示。物価の基調はまだ十分強いとはいえないものの、企業の価格設定行動には変化が見られ始めていることなど、現下の日本経済で注目すべき動向を紹介している。
白書では、5月に新型コロナウイルス感染症が5類相当となる中、コロナ禍後の経済へと移行し、「物価と賃金は動き始めている」と指摘。サービス物価の上昇は緩やかだが、30年ぶりの賃上げが進むとともに価格改定頻度は上昇し、来年度も高い賃上げを継続することにより、「デフレからの脱却を実現・定着させていくことが重要」との考え方を示している。 経済政策については、「財政出動による景気や生活の下支えから潜在成長率の上昇に軸足を移し、DX・GXなどの民間投資の誘発や少子化対策などの中長期的な成長に資する取り組みが不可欠」と強調した。
「第2章 家計の所得向上と少子化傾向の反転に向けた課題」では、労働生産性の向上を伴う実質賃金の上昇や、追加的な就業希望の実現に加え、資産所得の引き上げにより、家計の所得向上を実現していくための課題を整理。家計の所得向上が、少子化対策の観点からも有効であることに加え、住宅・教育費などの子育てに係る負担の軽減策や、保育所整備・男性育休の促進を通じた「共働き・共育て」の環境整備も重要であることを指摘している。家計所得が着実に増加する環境を構築するためには、「労働移動の活発化、副業・兼業の拡大や女性・高齢者の活躍促進に加え、資産形成を通じた所得の引き上げも重要」との見方を示した。
「第3章 企業の収益性向上に向けた課題」では、人への投資や企業再編などに係る無形資産投資がGDP比で見て伸び悩んでいる点について、無形資産投資は企業の価格設定力(マークアップ率)の向上につながることから、収益性改善の鍵であるとともに、企業の投資や賃上げ余力を高め、経済の好循環につながることを指摘。合わせて、「生産性向上や中小企業の輸出開始の観点からも、研究開発投資や人への投資をはじめとした無形資産投資が重要となることから、重点分野への官民連携による後押しが重要である」と強調している。
中小企業の輸出拡大に向けては、「輸出により海外で稼ぐ力の差もあり、製造業の規模間の労働生産性の差が非製造業より大きい」「自由貿易協定の進展が進むが、中小企業の利用割合は大企業対比で相対的に低い」「中小企業では、輸出開始による生産性の改善効果が、大企業対比でやや遅れて発現する傾向」「輸出開始~中期の公的機関や金融機関によるサポートが重要」などの課題を指摘。独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)によるECサイトを活用した販路開拓支援を通じて新規輸出を後押しする政府方針については、「こうした取り組みがSNSの発達によるプロモーション費用の低下と相まって、中小企業の輸出促進につながることが期待される」との見方を示した。
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