ハリウッド映画にも出演経験のある俳優の森崎ウィンさんは、アーティストとしても2020年に本格デビューし、23年には初の全国ツアーを開催。俳優業もNHK大河ドラマ『どうする家康』、11月3日より公開中の映画『おしょりん』の主要人物に大抜てきされる活躍ぶりだ。活躍の場を広げる森崎さんの今とこれからを聞いた。
〝メガネの聖地〟の始まりを描いた映画で際立つ存在感
国産メガネ生産の約95%を占める福井県。〝メガネの聖地〟といわれるまでに発展した地場産業の黎明(れいめい)期には、メガネ工場をゼロから立ち上げた兄弟と兄の妻の姿があった。福井県内の四季折々の美しい景色や、国の指定重要文化財などの貴重な日本家屋を背景に、メガネづくりへの挑戦と、それを支える家族愛を描いた映画『おしょりん』が全国公開されている。聞き慣れない表題は、藤岡陽子さん作の原作(ポプラ社)と同名で、福井県の一部地域の古い方言。田畑に積もった雪が硬く固まり歩ける状態を表し、メガネ産業という新たな道を切り開いた職人らの姿を重ね合わせている。来年3月、北陸新幹線(金沢〜敦賀間)が開業する福井県のチャレンジ精神が伝わってくる。ものづくり企業やV字回復を狙う企業などには共感する点が多い映画だ。
物語の主軸となる3人は気立てが良く、家族思いの増永むめ(北乃きいさん)、その夫で後に増永眼鏡を創設する生真面目な増永五左衛門(小泉孝太郎さん)、五左衛門の弟で、兄とは逆に社交的でチャレンジ精神にあふれ、夢と希望に真っすぐな幸八。この幸八を演じているのが森崎ウィンさんである。 「明治時代に実在された方なので、フィクションよりプレッシャーを感じました。時代背景や方言など気を付けることはたくさんありましたが、一番の課題は自分の信念を貫く幸八の強さをどう表現していくか。僕が幸八と似た性格と評価されて選ばれたと思うので、それをしっかり役に落とし込むように意識しました」
取材当日、セットアップで颯爽(さっそう)と現れた森崎さんは、服装は違うものの明治時代の好青年・幸八さながらの雰囲気だった。生まれも育ちもミャンマーで、ハーフではなく生粋のミャンマー人。そのことを忘れてしまうほど、時代も国も境界を感じさせない不思議な存在感をまとっている。 「10歳の時に日本に来たから、日本語を覚えるのは早かった」と笑うが、来日した際は全く話せなかったというから、相当努力してきたことがうかがえる。
ハリウッド映画デビューで拍車が掛かった芸能活動
親の都合で日本に来た森崎さんにとって、芸能活動も自ら希望したことではなかった。2004年、中学2年生の時に、東京・恵比寿の路上でスカウトされたのが始まりだ。 「当時はサッカーに夢中で、将来はサッカー選手になりたいと思っていました。芸能界には全く興味がなかったのですが、事務所に入って演技や歌、ダンスなどいろいろなレッスンを受けていくうちに楽しくなってきて、本気で打ち込むようになっていきました」 舞台やドラマ、映画などのオーディションを受けつつ、イベント出演や雑誌モデル、ラジオのパーソナリティーなどの活動を精力的に始めた森崎さんは、08年に男性ダンス&ボーカルユニット「PRIZMAX」にもメインボーカルとして加入。セカンドシングルで作曲を手掛けるなど音楽活動にも力を入れていく。そして大きなチャンスを得たのが16年、スティーヴン・スピルバーグ監督のSF映画『レディ・プレイヤー1』の主要キャストへの大抜てきだ。 「オーディションの8カ月後に出演決定の連絡が来て驚きました。撮影は約4カ月にわたるもので、モーションキャプチャ(特撮の一種)を取り入れた撮影現場は、例えば棒をドアに見立てて演じるなど、想像力を働かせてパントマイムのような演技を求められて大変でした。でも、たくさんの予算をかけ、素晴らしい俳優陣やスタッフ陣に囲まれて、芸能人生が180度変わる刺激的な日々でした」
作品は世界60カ国以上で上映され、日本でも18年4月に公開されるとたちまち話題作に。森崎さんも一躍注目を集め、同年ミャンマー観光大使に任命されるなど、活動の幅はさらに広がっていった。
夢を公言し、努力し続け、〝人間らしいこと〟で自分磨き
「観光大使といっても、ご存じの通りクーデターがあって大使らしいことはできていません。世界遺産のバガンや美しい砂浜が約17㎞も続くガパリビーチなど見どころはたくさんあるのですが、今は紹介できる状態ではありません。その代わりといっては何ですが、東京なら高田馬場周辺にミャンマー出身の人が多く住んでいて、おいしいミャンマー料理店がいくつもあります。初めて口にするならココナツラーメンがおすすめ。タイ料理好きな人なら気に入るトムヤムクンに似たテイストです。といっても僕が普段よく食べるのは中華料理。辛いものを食べてストレス発散しています」と笑う。
俳優業だけではなく、音楽活動にも転機があり、20年3月のPRIZMAX解散後は、「MORISAKI WIN」でソロデビューしている。『おしょりん』のエンディング曲『Dear』を歌っているのも森崎さんで、爽やかな歌声が心地いい一曲だ。 「自分が出演する作品のエンディング曲を担当するのが夢だったので、すごくうれしいです。おしょりんは熱いセリフが飛び交う作品なので、エンディングはひと山越えた物語の余韻に浸りながら、BGMとして聴いてもらえたらと英語で歌っています」と森崎さん。これまでもドラマのレギュラーやNHKの大河ドラマ出演など、「夢を口にしてかなえてきた」そうで、夢の実現が、お世話になった人たちへの恩返しになると語る。 「もちろん努力も大切です。俳優はさまざまな人物を演じるわけですから、何にでも挑戦して人生の深み、人間味を増していきたいと思っています。それもあってカメラやゴルフ、ソロキャンプなど趣味も幅広いです。それと世代や業種問わずいろいろな人と会うことも大切にしています。今は〝人間らしいこと〟の経験値を上げることを自分に課しています」
森崎さんが目下「口にしている夢」が俳優としてはハリウッド映画への再チャレンジ、アーティストとしてはアジアツアーの開催だ。「ボランティアでもギター1本でもやりたい」と思いは熱く、「森崎ウィンの更新は止まりません」と言い切る。真っすぐな瞳が、おしょりんでひたむきに未来に突き進む、幸八のまなざしと重なった。
森崎 ウィン(もりさき・うぃん)
俳優・アーティスト
1990年ミャンマーで生まれ育ち、小学校4年生で来日。中学2年生の時にスカウトされて芸能界へ。2018年公開のスティーヴン・スピルバーグ監督の映画『レディ・プレイヤー1』で主要キャストを演じ、ハリウッドデビュー。20年に映画『蜜蜂と遠雷』で第43回日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。23年NHK大河ドラマ『どうする家康』で二代将軍・徳川秀忠を演じる。23年4月より初の全国ツアーを実施。同年11月公開の映画『おしょりん』に出演し、エンディング曲『Dear』も担当
ヘアメイク・宇田川恵司(heliotrope)
スタイリスト・森田 晃嘉
写真・後藤さくら
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