日本商工会議所は10月22日から28日まで、小林健会頭を団長とする経済ミッションを、フィリピン、マレーシア、シンガポールの3カ国に派遣した。ミッションでは、両国政府要人や経済界との懇談などを実施。ものづくり、インフラといった従来からの分野に加え、再生可能エネルギー、カーボンニュートラル、イノベーション、デジタルなど広範囲にわたる新分野に対する日本への期待を確認した。特集では、ミッションの活動概要を紹介する。
フィリピン マルコス大統領 日本からの投資に期待
10月23・24日に訪問したフィリピンでは、フェルディナンド・マルコス大統領、アルフレド・パスクアル貿易産業大臣との懇談のほか、フィリピン商工会議所(PCCI)との経済対話を実施した。
小林団長らは23日午後、マラカニアン宮殿(大統領府)でマルコス大統領と会談。マルコス大統領は「日本はこれまで、フィリピンに多大な支援を行うとともに、貿易相手国、投資元国として大変重要な地位を占めている。世界の変貌に合わせ、新たな経済、新たな技術への対応が必要。今年2月の訪日では、インフラ開発のほか、再エネ、デジタル化、情報通信など の経済発展に必要な分野について議論する機会が数多くあった。直面する気候変動の課題と不可分なエネルギーの確保・供給、化石燃料から再エネへの転換が議論の的となっており、グリーンボンドのような環境分野に対する投資手段について、フィリピンにおける適用が議論されている。また、気候変動、地政学や経済状況などの外的要因の影響にさらされているフィリピンの農業に対し、日本で見いだされた解決策が適用できると考えている」とあいさつした。
小林団長からは、経済成長、生産年齢人口増加、内需拡大が見込まれるフィリピンの魅力に触れ、投資促進、デジタルインフラ強化、グリーンエコノミー推進、経済安全保障分野での両国の協力・連携の重要性を指摘した。
川崎博也副団長(神戸・会頭)からは、経済安全保障への尽力、インフラ整備を含む投資環境整備を通じた持続的な経済成長への期待を表明。これに対し、マルコス大統領は、「健全な成長率を維持するための施策を講じている」「多くのフィリピン人が日本を訪れたいと思っている。自身の神戸での滞在は素晴らしい経験であり、多くのフィリピン人が共有できることを願う」と述べた。
パスクアル貿易産業大臣 VAT還付改善など要望
23日午前、パスクアル貿易産業大臣を表敬訪問。日本側から、フィリピンにおける事業活動を踏まえ、ビジネス上の課題を指摘し、環境の改善を要望した。
日本側は、山内隆司副団長(東京・副会頭)、大島博副団長(東京・副会頭)、中村邦晴副団長(東京・副会頭)らが発言。具体的には、「外国建設会社に対する規制緩和」「農産物の高品質化に向けた品種改良や栽培方法への取り組み、安定供給に向けた一層の物流インフラの整備」「CREATE法による既存進出企業のインセンティブ消失、輸出企業に対する付加価値税(VAT)未還付の速やかな是正」「日系企業との継続した対話と、税制・物流インフラなどのビジネス環境の改善」などを提案した。
これに対して、パスクアル大臣からは「外国建設業の参入は、わが国の産業にとって好ましく、規制緩和に向かいたい」「(農産物関連について)要望内容は生産者にもよく伝えていきたい」と回答。VAT還付については、「年間の配分について財務省で検討中であり、議会決定の後、還付・配分を決めることとなっている。迅速な解決に向け、対応していると理解いただきたい」「日本および海外企業の要望に応えるよう、最善のビジネス環境を整えるべく努力したい。許認可や登録の迅速化に必要な措置も講じている」と述べた。
PCCIとの経済対話 経済協力強化へMOU締結
24日午前、フィリピン商工会議所(PCCI)との経済対話の冒頭、基調講演したセフェリノ・ロドルフォ貿易産業省次官は、現在のフィリピンのビジネス環境と戦略的投資分野について紹介。再エネ分野でのインセンティブ提供がすでにいくつかの日系企業で活用されていることに触れ、日系企業のさらなる投資に期待を示した。
基調講演後、PCCIと両国間のビジネス・経済協力を強化するため、対等かつ互恵的な関係に基づく協力協定(MOU)を締結。日本側からは、広瀬道明副団長(東京・副会頭)、上野孝副団長(横浜・会頭)が登壇し、カーボンニュートラルに向けた日本政府や産業界の取り組みについて説明した。
ビジネスラウンドテーブル 現地経済界と協力覚書
25日に訪問したマレーシアでは、マレーシア製造業者連盟(FMM)などと共催でビジネスラウンドテーブルを開催した。FMMと今後の協力拡大に向け、覚書(MOU)を締結。両国の産業開発の支援、ビジネスコミュニティ間の相互理解強化などで合意した。
会合の冒頭、基調講演したザフルル・アジズ投資貿易産業大臣は、「5月に私がミッションを率いて日本を訪問した際に、総額230億マレーシア・リンギットに上る投資が決定された。これだけの投資増加は、日本企業がマレーシアの経済発展とポテンシャルを信頼していることによるものだ。そのため、より良い投資環境をつくり一層の投資誘致に努めなければならない」と強調。「マレーシアと日本の経済対話は非常に重要なプラットフォームであり、これをベースに協力の展望を開いていきたい」と述べた。
基調講演後、日本側からは、中村副団長、倉石誠司副団長(東京・副会頭)、川崎副団長らが登壇。マレーシアへの投資拡大に向けた取り組みなどを紹介した。
ウォン副首相兼財務大臣 拠点としての優位性強調
27日に訪問したシンガポールでは、ローレンス・ウォン副首相兼財務大臣、タン・シーレン第二貿易産業大臣兼人材開発大臣と会談。シンガポール・ビジネス連盟との経済対話では、デジタル分野における両国間のビジネス拡大について意見交換を行った。
27日午後に懇談したウォン副首相は、「不確実な世界において前進できるのが、日本・シンガポール、日本・アセアンの関 係である。東南アジアの多くの国々は投資を歓迎し、自国の発展につなげたいと願っており、一層の関係強化が期待できる」とあいさつ。小林団長からは、日本にとってシンガポールが経済安全保障の観点から重要なパートナーである点、ビジネスの透明性やアセアン市場へのアクセス拠点としての魅力に触れ、デジタル化をキーワードとした連携強化への期待などが述べられた。
上野副団長から「液化天然ガス(LNG)燃料供給船、水素燃料電気推進船の建造など、カーボンニュートラルへの取り組み」について、山内副団長から「インフラ開発およびARなど先進的なデジタル技術の活用」について説明。ウォン大臣からは「わが国の強みは、オープンなビジネス環境、世界中へのアクセス、明確な法規制、法の支配が高い基準で存在していること、研究開発力、高い生産性、低炭素排出などが挙げられる。また、アセアンの経済統合が進んでおり、企業は本社機能をシンガポールに置き、地域全体の統括が可能だ。日本のイノベーティブな中小企業が海外展開を考える場合に、シンガポールをベースに展開するとに可能性を見いだしている」と強調。大阪・関西万博については、「25年の大阪・関西万博にはシンガポールからも多数の訪日客が見込まれており、成功をお祈りする」と述べた。
タン第二貿易産業大臣兼人材開発大臣 中小企業の進出・協業促進を
27日午後のタン・シーレン第二貿易産業大臣兼人材開発大臣との会談で、小林団長は、シンガポールの国を挙げたイノベーション推進、人材の確保・育成によるアジア随一のデジタル競争力、ビジネスの透明性など強みを挙げ、アセアン市場へのアクセス拠点として、中小企業の進出・協業に向けた交流促進への期待が述べられた。
倉石副団長からは、「交通安全教育への貢献、4輪車EV化、50年までのカーボンニュートラル実現に向けた取り組み」を紹介。上野副団長からは、「LNG燃料供給船、水素燃料電気推進船の建造など、カーボンニュートラルへの取り組み」について説明した。
タン大臣は、「グリーンエネルギー分野での連携においては、輸送コストの引き下げが重要な課題となり、日本における実証研究に参画したい」との考えを表明。SAF(持続可能な航空燃料)の普及に向けては、「シンガポールと羽田、成田、大阪間などでのテスト運航を行ってはどうか」と述べた。
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