日本産水産物の輸出額は、世界的な和食ブームの広がりとともに拡大してきた。しかし、昨年輸出先1位だった中国による日本産水産物の全面禁輸が大きく響き、輸出額の伸びは大きく鈍化。だが、政府の「水産業を守る」政策パッケージに基づく水産物の輸出先の多角化などの取り組みも本格化しており、新たな商流構築にも期待が集まっている。そこで、逆境に負けずに日本産水産物の輸出に取り組んでいる地域企業の奮闘をリポートする。
水産業を次世代につなぐ成長産業 イスラム圏を視野に水産加工品を発信
FGROW JAPANは、水産物を中心とした食品製造・販売メーカーだ。前身は2001年創立の藪水産で、D2C(Direct to Consumer)ブランド「海老乃家」開設などの新事業を展開。また、ハラル認証を取得してイスラム圏を含む輸出拡大を狙い、23年3月に事業のグローバル化を見据え現在の社名に変更した。食を通じて人の幸せに貢献する企業を目指す。
新規参入の少ない水産物の二次加工技術で頭角を現す
香川県高松市の北東の半島、三方を瀬戸内海に囲まれた庵治(あじ)町に、FGROW JAPANはある。同町は県内有数の漁業のまちとして、また「庵治石」という良質な花崗岩の産地として発展してきた。近年では映画『世界の中心で、愛をさけぶ』のロケ地となり、風光明媚(めいび)な景観とともに〝純愛の聖地〟としても知名度を上げる。 「映画のブームが過ぎて、元の漁業と石のまちに戻りました。しかし、高齢化や後継者不足、漁獲量の変化でかなり厳しい状況です。水産加工は、私が携わって20年の間で起業したのは数社程度です」
そう言って同社の代表取締役の船田裕亮(せんだ・ひろあき)さんは苦笑する。船田さんは、前身の藪水産創業の翌年に入社し、水産加工製造・販売の技術革新を進めてきた。中でも力を入れてきたのが二次加工品だ。例えばエビの場合、鮮度を維持すべく殻をむいていない状態か、内臓と頭を取り除いたむきエビにする一次加工品が市場を占める。それを同社は惣菜製造、つまり二次加工まで手掛ける。
機械化、従業員のスキルアップの両面で技術力を磨き、長年研究を重ねた調味加工と高度な冷凍技術で、解凍すれば生でも食べられるほどの鮮度とうまみを可能にした。その実力は外食産業を中心に高く評価され、2020年にはD2Cブランド「海老乃家」を開設。コロナ禍中の20年7月に実施したクラウドファンディングで、目標額の1234%を達成し、消費者にも好評を得た。翌年、「はばたく中小企業・小規模事業者300社2021」にも選ばれる。こうした実績の先に見据えたのが海外だ。
付加価値を高めるべくハラル認証を取得
「輸出事業のきっかけはコロナ禍です。日本の産業を強くしないと円の価値は下がるばかり。水産物の入札権利を持つ日本企業を、外資系企業が買収することになれば、日本で水揚げされても国内に回ってこない可能性すらあります。日本の水産業を成長産業にするには、海外に向けた発信力とコンテンツ力をつけていくしかない。そう考えました」
海外に広がる和食の中でも断トツの人気がすしであり、同社はすしネタの加工技術に長けている。輸出しない手はないが、海外においしいすしはすでにある。付加価値や他社との差別化を図らなければ価格競争に巻き込まれてしまう。そこで、着目したのがハラル認証だ。イスラム圏で宗教上食べることが禁じられているものが含まれていないことを示すベンチマークと考えた。 「水産物は基本的にハラルですが、二次加工品で使う調味料なども口にして良いものであるという信頼を得るために取りました。国内の水産業者でも30社程度しかまだ取得しておらず、ハラル認証の中でも最も厳しいマレーシアの『ジャキム』の認証を取得しています」
持続可能な水産業を再構築すべく輸出を推進
同時に進めたのが国内マーケティングだ。ハラル認証取得に当たっては、国内マーケティングなどをハラル・ジャパン協会にサポートしてもらった。同協会の協力を得て、在日ムスリム対象の試食会を開き、旅行会社を介して海外ツアー客用の「冷凍の手毬寿司弁当」を提供した。 「キーワードは『ローカライズ』。ムスリムの口に合う商品の開発を進め、解凍時に白蝋(はくろう)化する課題解決など、多角的に食の安心・安全を追求しています」
さらに第一次産業に参入して水産業陸上養殖のコンサルティングと施設導入も推進している。 「輸出の増加と、乱獲による天然海洋資源の減少を見越して、駐車場1台分の大きさの小型分散型陸上養殖ユニット『ARK』を導入しました。IoT化で養殖の品質向上を図り、陸で魚を育てられるスマート水産業の普及を進めています。漁獲量に左右されない適正化価格での取引、水産物の自給率向上に貢献する第一歩です」
昨年、中国など一部の国と地域の日本産水産物の輸入規制強化の影響で、取扱量の多いホタテ貝柱の価格が大幅に下落、痛手は大きい。「今も悪夢は続いている」と嘆く。だが、それでもサステナブルな水産業の仕組み再構築の手は緩めない。同社は商社を経由した米国、ドバイ、カタールや香港、シンガポールへの輸出実績はある。だが、どれもスポット的なものに過ぎず、24年を〝輸出元年〟として本格始動する。 「現状、輸出事業は全売り上げの10%未満ですが、ゆくゆくは3分の1に広げられたらと思います。しかし、売り上げよりも従業員のやりがいや幸せが第一。次世代の子どもたちに日本の豊かな水産資源を残す手段としての輸出です」
まずはドバイをはじめとした中東諸国の富裕層に照準を定め、〝感動のおいしさ〟を提供する。
会社データ
社 名 : FGROW JAPAN株式会社(エフグロウ・ジャパン)
所在地 : 香川県高松市庵治町6393-45
電 話 : 087-871-1910
代表者 : 船田裕亮 代表取締役社長
従業員 : 46人(パート含む)
【高松商工会議所】
※月刊石垣2024年1月号に掲載された記事です。
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