自治体の首長の多くは選挙で勝利した後「地域の産業振興」を目標に掲げる。ただ事前の公約で大枠の政策は表明しても、具体策は乏しいケースが大半だ。インフラ事業ならば国を絡めて主体的に行動できるが、民間企業の活動まで明確には予測できないためだろう▼
九州では海外半導体受託製造会社の進出で活況を呈する地域があり、賃貸住宅の家賃まで急騰しているとされる。就職活動に失敗し、帰郷するという知り合いの女子学生は「むしろ良かったくらい」と話していた。きれいな水、受け入れ態勢、製品の輸送環境などが評価されたためであり、地元自治体の努力の結果でもある▼
一方で、大口納入先の国内大手電機メーカーや、その取引先である米国スマートフォン販売会社の意向次第では需要が急減する懸念がある。自治体が造成した工業用地に税制優遇措置を受けて進出した企業が、製品の販売不振を理由に撤退した事例は枚挙にいとまがない▼
自治体のアドバイザー経験が豊富な藤沢久美国際社会経済研究所理事長は「大きな一つのものに地域の命運の過半を委ねる」ことの危うさを訴える。産業は時代とともに変化する。それならば「複数の足を持つことが重要だ」というのだ。藤沢氏によると、欧州では産業構造の変化の流れを行政が読み解き、政策に反映しているケースもある▼
地域産業の国際化については①ITを活用し、優秀な人材と期間限定の契約を結んで計画策定につなげる、②似たような環境の自治体を国内外で探し、成功例に学ぶ、の2点をアイデアとして提唱している。実際、地元の人材だけで知恵を絞っても限界がある。海外に学んだ明治政府の努力を思い起こす必要もあろう
(時事総合研究所客員研究員・中村恒夫)
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