その昔、カフェで画家のピカソと偶然居合わせたご婦人が、「言い値でいいから、私を1枚描いて」と懇願しました。ピカソは5分ほどで彼女をスケッチし、100万ドルを請求しました。驚いて「ほんの数分でそれは高すぎる」と言い出したご婦人に、ピカソは「ほんの数分ではありません。私はここまで来るのに、何十年という時間を掛けて修業してきました」と言ったそうです。
これはいわゆる小話で、実話ではないようですが、作品の価値には、そこにたどり着くまでのその人の研究や努力、人生がのってくるということを伝えています。
バブルの頃、有名なコピーライターのたった1行のコピーが「コピー1本100万円」と騒がれたことがありますが、経験を積んだコピーライターがその商品を理解し、広告や販売などの戦略を練った上での1本なのです。
ピカソは生涯に約15万点の作品を制作した、最も多作とされる美術家です。正岡子規は34歳で亡くなるまでに俳句は約2万5000句、短歌は約2500首を残しました。発明王エジソンが書き残したアイデアノートは、3500冊もあったそうです。一つの電球誕生までに、数え切れない失敗があった。物事の価値の背景にはそういうことがあるという事実に、気付く人間でいたいと思います。
私事で恐縮ですが、65歳で船井総研の会長を退いた時、その後、コンサルティングを依頼してくださる会社があるかどうかは分かりませんでした。というのも、会社を辞める時、あいさつ状を出さずに辞めたのです。お引き立ていただいてきたお客さまに私からあいさつすると、「小山さんこれからどうするの?だったら……」と、仕事依頼のお声を掛けてくださることになります。不義理ではありますが、そういうように水を向けるのは、良くないと感じていました。また講演料などに関しても、船井総研という看板を背負っていない私に、お客さまはどういう価値をつけるかも気になってはいました。ただ、そういったことは自分で決めるのではなく、クライアントが考えることだと割り切っていたのです。
それでも新会社には予想以上の指導依頼があり、以前と同じように講演をさせていただき、その後10年間、変わらず仕事を続けてきました。お客さまは私の人生経験の全てを背景とした指導内容に対して、価値を見てくださったのだと思います。圧倒的な積み重ねと努力の結果は、裏切らない。それは、自分の経験からも確信しています。
皆さんが経営のプロとして歩んでこられた圧倒的な時間の積み重ねは、時代を超えても自分を支える最大の武器なのです。自信を持って、業務に立ち向かっていただきたいと思います。
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社名 : 株式会社 風土
TEL : 03-5423-2323
担当 : 髙橋
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