全国各地でシャッター街と化した商店街が増えている。その一方で、空き店舗の再利用やイベント開催などに取り組み、客離れを食い止め、新たな集客に成功した商店街もある。さまざまな工夫で地域住民だけでなく観光客をも呼び寄せ、にぎわいを取り戻した商店街の復活までの奮闘ぶりを追った。
空き店舗を活用したホテルの開業が再び人を呼び込む起爆剤に
東大阪市の中心市街地に位置する布施商店街。近年では、消費者行動の変化や大型店の郊外出店などに伴って空き店舗が増加し、集客力の低下を招いていた。そこへ「SEKAI HOTEL Fuse」が進出し、若い世代を中心に利用が広がっていることを起爆剤に、商店街独自のイベントなども広く発信して人を呼び込んでいる。
大阪の繁華街と近距離でお客さまが流出
「布施のえべっさん」で知られる布施戎(ふせえびす)神社の参道を中心とする布施商店街は、東大阪市最大の地域密着型商店街だ。近鉄布施駅を挟んで南北に延び、約400店舗が集積している。 「かつては780店舗ほどあったのですが、近鉄布施駅高架事業による再開発で大幅に減ってしまいました。ただその後、近鉄百貨店やイオンなどの大型店が出店したので、当時には珍しく商店街と大型店が合同で『布施商店街連絡会』をつくり、互いに連携を取りながら地域商業を支えてきました」と同会会長の加茂守一さんは振り返る。
1980年代の同会の結成以来、商店街が極端に落ち込んだ時期というのはなかったという。しかし、大阪市の繁華街である難波まで1本で行ける好アクセスにより客足が流出、年を追うごとに空き店舗が目立つようになり、商店街の集客力は低下の一途をたどる。
そんな状況に変化をもたらしたのが、2018年にオープンした「SEKAI HOTEL Fuse」だ。 同ホテルは、まち全体を一つのホテルに見立てた宿泊施設で、大阪市に本社を置くKUJIRAが施工・運営している。 「われわれがホテルを誘致したわけではなく、あるとき突然、『布施商店街にホテルをつくる』とやって来たんです。そんな場所はないよと言ったら、商店街の空き店舗を利用するという。どうするのかと思ったら、本当に空き店舗を買い上げて、人が泊まれるようにリノベーションしていったんです」
“まちごとホテル”の宿泊客が商店街を回遊
内装は一新するが、それまでそこにあった商店の看板は付けたままになっていて、商店街の風景に溶け込んでいる。一般的なホテルや旅館は、一つの建物の中に全ての客室や食事処(どころ)が集まっているが、同ホテルの場合は商店街のあちこちに客室が点在する形となる。そのため、晩ご飯は商店街にあるレストランで食べ、お風呂はまちの銭湯に行き、朝ご飯も常連客でにぎわう喫茶店でとる。宿泊客は、自分の行動に合わせて商店街を回遊することになる。 「ホテルで紹介された店に晩ご飯を食べに行ったら、一緒になったおっちゃんと話が弾んで『一杯おごったる!』とごちそうしてもらったり、ホテルが用意した桶とタオルを持って銭湯に行くと、『SEKAI HOTELに泊まっているの?』と話し掛けられて打ち解けたり。ホテルを利用する人は、そんな地元の人との触れ合いを面白がっているようです」
独自のセールやイベントをSNSで発信
同ホテルの宿泊客がその体験をSNSにアップするなどして反響を呼び、度々メディアにも取り上げられている。また、遠方から視察に来たり、大学のゼミの学生が取り組みをリポートにまとめたいと言って来訪したりするなど、商店街に活気を与えている。 ホテルの効果にあやかるだけでなく、商店街も長年続けてきたさまざまなイベントを通じて、集客に力を注いでいる。例えば、毎年1月9~11日に布施戎神社で行われる「布施戎(十日えびす)」に合わせて参道に出店しているが、参拝客も相まって3日間で15万人が訪れる。7~8月に商店街全体で開催している「土曜夜市」では100軒以上の露店が並び、地元の夏の風物詩として定着している。秋には「布施まつり」が盛大に行われ、年末には40年以上の歴史を持つ「福娘コンテスト」で福娘が選ばれ、えべっさんをはじめとする地元のイベントを盛り上げている。
さらに、同商店街ではSNSによる情報発信にも乗り出している。というのも、コロナ禍では大掛かりなイベントもチラシによる集客もできなかったことから、商店街公式サイトやLINE公式アカウントをつくった。今後は、それらを活用してセールやイベントなどのお役立ち情報を発信し、また、そうした情報に二次元コードからいち早くアクセスしてもらって、集客につなげていく予定だ。 「あとはやはり空き店舗対策です。かつて布施駅周辺に百貨店や量販店が出店してきたときも、やはり一悶着(ひともんちゃく)ありましたが、対話を通じて共存共栄の関係を構築してきました。われわれはいつでもウエルカムです。今後も空き店舗が出たら、業種に関係なく誘致していきたい」
その成功例に“カッコいい”をコンセプトにしたピザ専門店がある。店での飲食だけでなく、自動販売機で冷凍ピザを販売するアイデアも好評を博しており、すでに複数の店舗を運営している。 「その店は、若い人が経営していて非常にはやっています。ただ、商店街全体を見渡すと60代以上が経営している店が多く、後継者不足に悩んでいます。どこも楽ではないけれど、それでも夢を持ってもらいたい。若い人の力を借りながら、多くの人を商店街に呼び込む仕組みをつくってつなげていくつもりです」と加茂さんはおおらかに笑った。
団体データ
団体名 : 布施商店街連絡会
所在地 : 大阪府東大阪市足代新町1-41-51
FAX : 06-6783-3774
代表者 : 加茂守一 会長
【東大阪商工会議所】
※月刊石垣2024年6月号に掲載された記事です。
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