全国各地でシャッター街と化した商店街が増えている。その一方で、空き店舗の再利用やイベント開催などに取り組み、客離れを食い止め、新たな集客に成功した商店街もある。さまざまな工夫で地域住民だけでなく観光客をも呼び寄せ、にぎわいを取り戻した商店街の復活までの奮闘ぶりを追った。
年間を通したイベントで買い物の楽しさを演出し“地元の台所”を再興
地元では「うおんたな」と呼ばれ親しまれている明石・魚の棚商店街。全長350mのアーケードには、明石特産の海の幸をはじめとする物販店や飲食店が約110店舗並ぶ。明石海峡大橋の開通により観光客向けの店が増加し、地元客の商店街離れが起きるなど商店街の方向性が見えなくなった時期もあったが、年間を通したイベントの開催や徹底的な基盤整備でにぎわいを創出している。
東西の商店街が協力しながらさまざまなイベントを開催
兵庫県南部に位置する明石市は、瀬戸内海・明石海峡に面し、速い潮流と複雑な地形などが相まって、古くから沿岸漁業が盛んに行われてきた。約400年前、水揚げされた海の幸を軒先にずらりと並べて商売を始めたのが、現在の魚の棚商店街だ。
「同じ頃に明石城築城が始まって城下町の町割りが行われ、この辺りの旧町名は東魚町と西魚町といいました。その名残で、現在この商店街も魚の棚東と魚の棚西の二つの商店街組合で形成されています」と魚の棚東商店街振興組合理事長の安原宏樹さんは、成り立ちを説明する。
明石の顔として親しまれている同商店街は、名前の通り、鮮魚や練り製品を中心とした物販店や飲食店が110店ほど軒を連ねている。その中に空き店舗はほとんどなく、人通りが途切れることも少ない。一定のにぎわいを維持しているのは、年間を通して行われるさまざまなイベントが功を奏している。商店街が主催するものもあれば、まちの祭りに合わせて行うものもあるが、そうしたイベントを上手に取り入れて「ここに来ると何かがある」と感じさせる工夫を凝らしている。それを東西の商店街が協力しながら行っているのだ。
地元客が多く訪れワクワクするような場所に
今でこそ二つの商店街は連携を取っているが、かつては足並みがそろっていなかった。東では対外的なつながりを持たず旧態依然とした組合運営が行われ、西では組合費の徴収がうまくいかず財政難に陥っていた。さらに明石海峡大橋が開通したことで観光客が増え、各店の方向性に違いも出始めた。 「以前は、この商店街にも肉屋があり、晩ご飯の食材がひと通りそろう店舗展開がなされていました。しかし、観光客向けの店や飲食店の増加で空き店舗が埋まり、商店街運営は複雑なものになりました」と同西商店街振興組合理事長の瀧野幹也さんは振り返る。
そうした状況に危機感を抱き、東では安原さんが当時の役員たちに「このままでは商店街がダメになる」と進言。“クーデター”を起こして30歳で理事長に就任し、それまでの組合運営を見直していった。西でもその数年後に瀧野さんが理事長となり、組合費の徴収を徹底するとともに、アーケード照明のLED化で財政事情は改善していった。それぞれの状況が安定してきたのを受けて、月1回の理事会を東西合同で開催して議事録も共有し、商店街の活性化に向けて互いに連携を図るようになった。 「観光客の増加はうれしいですが、商店街としてはやはり地元の方に来てほしいし、来たらワクワクしてほしい。そんな魅力のある商店街にしようと、イベントや演出に力を入れようと思いました。それで着目したのが大漁旗です」(安原さん)
同商店街では毎年行っている歳末大売り出しに合わせてアーケード全体に大漁旗を飾り、漁業のまちらしい活気ある雰囲気を醸し出している。それが3月いっぱいで終わり、お花見やGWのにぎわいが過ぎると、6月には七夕飾りに衣替えして、まちの一大イベント「時のウイーク」に集まってくる人の流れを呼び込む。7月には「半夏生(はんげしょう)七夕夜市」を開催。7月2日(今年は1日)は関西地方で「半夏生」と呼ばれ、この時期に夏に向けて体力を付けるためにタコを食べる風習があり、同商店街が最も力を入れているイベントだ。さらに8月にはビアガーデンを開催するなど、年間を通して「ずっと楽しいことが続く」仕組みを構築しており、それが普段の客足にもつながっている。
地元の台所として地域のニーズに応えたい
イベントを行う一方、アーケードのリニューアルや商店街事務所「魚の駅」の開設、「みんなのトイレ」や休憩所の設置運営、駐車券発行など各種サービス業務の整備も進めてきた。そうした積み重ねも、空き店舗が出るとすぐに次の出店者が決まるなど、商店街の維持に貢献している。
コロナ禍以降、日本各地を訪れるインバウンドの急増を受け、「インバウンドを誘致しないのか」という意見もあるそうだ。実際、明石は交通の便が良いだけに、誘致すれば多くの来訪が予想されるが、商品単価が上がって地元客の足が遠のく恐れがある。あくまでも「地元の台所」として機能しながら、人が集まる形を取りたいと言う。その一方で、外国人誘客にも対応できるよう、デジタルサイネージやフリーWi-Fiも整備してきた。 「今後、さらに地元の声を聞きながら、さまざまなアイデアを形にしていけたら。商店街の人が『こういう取り組みに関われて良かった』と感じ、来る人にも楽しんでもらえることをやっていきたい」と安原さんは言い、瀧野さんもこう展望を述べる。
「商店街という形をずっと続けていくことが前提。そのためにも、商店街としての基盤をさらに強固なものにして、新しい人が『この商店街に入りたい』と思えるようなムードを醸成していきたい。古い付き合いと新しい人との相乗効果で商店街にさらに活気が生まれることに期待しています。商店街の基盤整備には明石市の担当部署や商工会議所との協力が欠かせません。今後も信頼関係を大事にしていきたい」
団体データ
団体名 : 魚の棚商店街振興組合
所在地 : 兵庫県明石市本町1-1-16
電 話 : 078-911-9666
HP : https://www.uonotana.or.jp
代表者 : 魚の棚東・安原宏樹理事長 魚の棚西・瀧野幹也理事長
【明石商工会議所】
※月刊石垣2024年6月号に掲載された記事です。
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