近年は各地の観光まちづくりなど人材塾に取り組む機会が増えてきた。その塾で、日々、若い皆さんと接していると、「人は石垣」の言葉を改めて思い出す。本コラムの「石垣」は、故永野重雄日本商工会議所元会頭が提唱された「日本経済石垣論」に由来するといわれるが、その根は武田信玄の国づくりの理念「人は石垣」に由来するものであろう▼
「人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇(あだ)は敵なり」は、有名な『甲陽軍鑑』の一節である。人は適材適所を心掛ければ城にも石垣にも堀にもなる。いたわる気持ちを持って遇すれば味方になるが、恨まれるようなことをすれば敵になるという信玄特有の人材マネジメント術である▼
観光などの分野に限らず地域づくりは時間がかかる。回りくどいようでも事業を担う人材が不可欠である。人は確実に育つが誠に時間がかかる息の長い取り組みでもある▼
筆者が長く関わっている人材塾の一つは、今年で9年目になる。塾生は、自身の思いを遂げるまで何年在籍しても構わない。すでに累積で200人近くの塾生が地域で活躍しているが、事業者として独立したり、新たな組織を立ち上げたりと誠にさまざまである▼
その塾で大切にしていることは、自らの意思で取り組むという自立の思想である。それこそが自己実現の道であれば関わる事業はどのようなものでも構わない▼
こうした人材が増えてくると、おのずから地域市民が主体のシンクタンクにもなれる。本来は行政が担う各種地域計画も、市民が自ら構想し、逆に行政に提案することもある。地域にとって何より重要なことは、こうした「石垣」人材を増やしていくことであろう
(観光未来プランナー・日本観光振興協会総合研究所顧問・丁野朗)
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