Q 当社が製造販売するバッグの形態を模倣した、デジタル空間のアイテムが販売されています。このような行為に対し、何らかの請求はできるのでしょうか。また、当社自身も自社のバッグの形態を用いたデジタル空間でのアイテムを販売開始しましたが、これを基に、他社が販売するデジタル空間のアイテムについて何らかの請求はできますか。さらに、今後、当社はデジタル空間でのアイテムを幅広く展開したいのですが、これと形態が類似する現実空間の製品が販売された場合、対処はできるのでしょうか。
A 上記の行為はいずれも、不正競争防止法2条1項3号に基づく不正競争に該当するとして損害賠償請求、差止請求を行うことが考えられます。
デジタル空間での模倣行為の防止
デジタル空間における模倣行為を防止するため、2023年、不正競争防止法が改正されました。不正競争について、現実空間上の真正品の形態を模倣したデジタル空間上の行為が規制対象に追加され、デジタル空間の真正品の形態を模倣した現実空間・デジタル空間のいずれの行為に関しても対象として追加されました。
同法2条1項3号は、他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く)を模倣した商品の譲渡等する行為を規制しています。改正前は、「電気通信回線を通じて提供する行為」はその規制対象ではありませんでした。そのため、同法2条4項に規定する「商品の形態」の定義「需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感」において、無体物も対象となり得るものであるかどうかは争いがあるところでした。
もっとも、ここ数年、デジタル技術の進展、デジタル空間の活用が進み、これまでは想定されていなかったデジタル空間上のコンテンツ(NFTなど)の経済取引が活発化してきたことから、デジタル空間上の商品の形態模倣行為も規律の対象とすることとなり、同法2条1項3号に「電気通信回線を通じて提供する行為」が追加されました。従って、設問の事例は、いずれも同法2条1項3号の範囲に含まれる行為になります。
不正競争防止法の効果
同法2条1項3号の不正競争に該当する場合には、差止請求のほか、損害賠償請求をすることが可能です。損害の額については推定規定が設けられていますので、損害の額の立証負担を軽減することなどができます。なお、同法2条1項3号に基づく請求はいつまででも可能であるわけではなく、一定期間の制限があります。具体的には、日本国内において最初に販売された日から起算して3年を経過した商品に関して、形態を模倣したとしても、適用除外により、不正競争には該当せず、請求を行うことはできません。
その他の請求について
商品の形態を保護するほかの方法としては、意匠権があります。意匠権を行使するためには、対象となる意匠が、特許庁で登録を認められることが必要です。ただし、意匠権の対象となる意匠は、「物品(物品の部分を含む。以下同じ。)の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合(以下「形状等」という。)、建築物(建築物の部分を含む。以下同じ。)の形状等又は画像(機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限り、画像の部分を含む。)であつて、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。」と定義されています。
「画像」も意匠の定義に含まれますが、「機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限り、画像の部分を含む。」となっており、デジタル空間のアイテムなどの画像データは直接的には対象とはなっていません。そのため、設問の事例では、意匠権による保護は難しいと考えられます。
(弁護士・佐々木 奏)
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